17話 殺人鬼の正体
「う……んー?」
俺は目が覚めた。
「寝すぎたかもしれないな」
頭が少しズキズキする。
それに窓から見える景色もだいぶ暗くなっている。
「……静かな夜だな」
ベッドから下りる。
そして、窓際にある椅子に座り外の景色をぼーっと眺める。
本当に静かな夜だな、こんな日は散歩とか行ってみたりしたいが、流石にあんな目にあったのだ、むやみに外には出ない方がいいだろう。
「ココナ……」
ココナの事を思い出す。
朝は普通だったのにアリア様に屋敷に入った後からおかしくなっていた。
よくよく考えれば、俺ってココナの事何も知らないな。
向こうには転生したって以外は全部知られているだろうが。
ココナと出会ってから過ごした日々を少し思い出し、笑みがこぼれる。
寝れるかわからないが、俺は再度ベッドに入ることにした。
そして、椅子から立ち上がりベッドの方を向いたときに、ベッドの上に何かがあるのを気が付いた。
「これは……」
これって確かココナが着けていたペンダントだよな?
もしかして、忘れて帰ったのか?
「どうするかな……」
外は暗い、こんな時に外に出るなんて昨日襲われた事を考えるとバカな行動だろう。
何より届けに行っても、もう眠っている可能性がある。
「うーん」
どうするか……。やっぱり、明日にしようか?
でも――ココナはこれをお母さんがくれた物だから大切にしてると言っていた。
今頃探しているかもしれない。
「うーん……うーん……はぁ、行くか」
危険もあるが、走って行けば問題ないだろう。
俺は支度を軽く済ませ、部屋のドアを開け階段を下りて外に出る。
「よしッ! 行くか!!」
俺は走ってココナの家へ向かう。
「はあ! はあ! はあ!」
全速力というほどではないが、ランニングというにも少し早いくらいで走っている。
こういう風に長時間ずっと走っていると自分の体力が上がっているのを実感する。
「おっと!」
このまま大通り通っていてもいいが、確かここを通った方が早いと前にココナが言っていたな。
裏道通ることになるが、ま、大丈夫だろう。
俺はココナに教えて貰った道を通ることに決めて再度走りだす。。
しばらく走っていると、物音が聞こえたような気がして足を止める。
「……気のせいか?」
息を殺しながらゆっくりと前へ進んでいく。
すると――
「んーんー!!」
まるで何かを口に押しつかれているような声が聞こえてきた。
その声にさらに警戒を強めて足音をできるだけたてないように進み。
「え?」
少し広い場所に出てきた、そして、その場所に二人の人物がいた。
一人は馬乗りにされ押さえつけられ口を塞がれている。
そして、もう一人は馬乗りになり口を押え、ナイフを片手に持っており上に構えている。
「なん……で」
「んー!! んーんー?」
驚きのあまり棒立ちになっていると下の人物が俺に気がつく。
そして、もちろんナイフを持っている奴もその反応に気がつき、こちらに顔を向ける。
月明かりが差し込み二人の顔がはっきり見えてくる。
「え?」
「ぷはッ! カエデ様?」
俺を姿を確認して、驚いたのか口を押えている手が緩み、馬乗りにされている人物が手を退け俺の名前を呼ぶ。
「なんで……こんな所で何してるの? カエデ君」
「それはこっちの台詞だよ――ココナ」
そう、この真夜中に裏通りにいた人物は――ココナとアリア様だ。
「お前、こんな所で何をやっているんだ?」
「……」
「なぁ答えてくれないか? なんで、アリア様がここにいるんだ? そしてどうしてお前はアリア様を襲っている?」
「……」
答えてはくれないのか。
ココナは無言のままアリア様から退いた。すると直ぐにアリア様は距離を取りこちらに少し近づく。
そして、ココナはこちらに顔を向ける。
その顔は今まで見ていたココナの顔とは違う、暗く無感情な顔をしていた。
「カエデ君」
「なんだ?」
「私がカエデ君の質問に答える前に、私の質問に答えてくれる?」
「……わかった」
「じゃあ、なんでこんなとこに居るの?」
その質問に俺はポケットに入れていたペンダントを取り出して、ココナに見せる。
「これ、ココナのだろ? 大事にしてるって言ってたから届けに来たんだ」
「それ……どこにいったのかと思ってた」
無表情の顔から、少しだけ感情が覗かせた。そして、それは少し安心した顔だった。
どうやら、無くして心配していたみたいだ。
さて、次は俺が質問する番だな。
「ココナ」
「何?」
「お前はアリア様に何をしようとしていた?」
「……」
「俺はちゃんと答えたぞ? ココナは答えてくれないのか?」
「そうだね、それは平等じゃないよね」
そして静かに一言。
「アリア様を殺そうとしていた」
そこ一言に俺は驚きの表情をする。
アリア様もココナの台詞に絶望の表情を浮かべている。
襲われていた張本人だが、信じたくなかったのだろう。
そして、何かしらの冗談であって欲しいと思っていたに違いない。
「……何故アリア様を殺そうとしたんだ? 彼女はココナの友達だったんじゃないのか?」
ココナはちらりとアリア様の方を見た。
そして、すぐに俺の方へ向き直る。
「私はアリア様を友達なんて思ったことなんてない」
「そん……な」
相当ショックだったのだろう、アリア様は膝をついて涙を流す。
「アリア様……」
「……」
ココナ、お前は本当にアリア様を友達って思っていなかったのか?
あの時、もう少しお話したかったと言っていた時の事、俺は覚えている。
あの時の少し残念そうな顔を、そして、アリア様が大好きだと言った時の顔を――
「随分と酷い事をいうものだな。友達だと思っていないのはわかった、じゃあ――」
「私がアリア様を殺そうとした理由でしょ?」
「そうだ」
「そんなのは簡単だよ。私が殺人予告を出した張本人であり、この町で起こっている連続殺人事件の犯人」
「そうか……」
「あまり驚いていないね」
「昨日」
「うん?」
「昨日俺を襲ったのココナだろ?」
そう――一瞬だ。一瞬だけあげたあの声、あの声は普段一緒にいて聞き間違うはずがない。
あの声は間違いなくココナの声だった。
「そうだよ。よくわかったね」
「一瞬だけ声を出したからな」
「それだけでバレちゃったか」
「まぁ普段聞きなれてるからな」
好きな人の声をわからないわけないじゃないか。
だから、俺はわからないんだ。
どうしてココナがこんな事をするのかが。
「それじゃ、私の正体を知ってしまった以上どうなるかは予想できるよね?」
「……あぁ」
ココナはナイフを構える。
俺も刀に抜刀する。
連続殺人の犯人の正体を知ってしまった者はどうなるか……。それはもちろん口封じの為に命を狙われるだろう。
「一つ聞くけど。逃げないの?」
「逃げてどうするんだ? どうせ追いかけてくるくせに」
「まぁね。でも、万が一にも逃げ切れるかもよ?」
「そうだな……だけど、アリア様を見捨てるほど俺は弱虫じゃないんでね」
「ふーん。でも私に勝てると思ってるの?」
正直に言うと勝てるとは思えない。
だが仮に逃げて憲兵などを連れてきても、その間にアリア様は殺されてしまう。
ならばこの場でアリア様を救えるのは俺だけだ。
「最近の俺は、結構強くなってるからな。意外とあっさりココナに勝てたりできるんじゃないか?」
「そう、それは楽しみだね」
ココナは殺気を放ってくる。
やっぱりすごい殺気だな。もうこれだけで逃げ出したくなる。
「アリア様離れていてください」
「はい」
よし、完全ではないが、これでアリア様が巻き込まれる事は減るだろう。
次は目の前のココナだ。
彼女はリリーとの戦いで初めて知ったが、特殊な力を使えるようだ。
それは剣聖の予知でも感知することができない。そして目の前に居ても消えてしまう。とんでもない力。
「攻撃仕掛けてこないの?」
「あぁ、動いた拍子に見失う訳にはいかないからな」
「そんな事言って、本当はわかってるよね? たとえ目の前に居ようと、私を見つける事は出来ないって」
ココナの姿が消える。
やっぱり無駄だったみたいだな、目の前にいても消えてしまう。
姿が現れると同時に目の前に紫の線が見える。
俺はそれに反応して防御する。
「流石剣聖の予知持ってるだけあるね。今の一撃で殺すつもりだったのに」
「まぁココナに散々鍛えられたからな」
「うーん。ちょっと構い過ぎたかな? 直ぐに殺しておけばよかった」
ココナはナイフを連続で振るう。
俺は何とか刀で捌く。
リリーは簡単に受け流していたりしていたが、実際に体験すると予知を持っていてもキツイ。
真剣な勝負だからこそわかる。ココナとリリーの強さが。
「どうしたの? ほらほら! 反撃してきなよ!」
「くッ!」
反撃したいのはやまやまなのだが、あまりにも隙が無さすぎる。
このままでは一方的にやられてしまう。
「これで終わり!」
大きくナイフを振りかぶる。
ここだ!
俺はナイフを受け止めて、ココナに蹴りを入れる。
「がッ!?」
「何とか反撃できた」
「やるね……カエデ君」
「はぁはぁ、俺を舐めるなよ? さっきも言ったが散々お前に鍛えられたんだからな」
「そうだね……ちょっと舐めてたかも」
ココナはふぅっと息を吐く。
そしてゆっくりと瞑目して、目を開くとこちらを睨みつけてくる。
その瞬間――俺は悟った。今度こそ油断などしてくれそうにない――と。
「もう油断しないから」
ココナの姿が消える。
「目の前にいたはずなのに、なんで消えるかね? その力は一体なんなんだ?」
「今から私に殺される貴方に、言う義理はないよ」
「冥土の土産っていうだろ? そんな感じで教えてくれないか?」
「無理」
一言で切り捨てられたな。
さて――どうするか。このままだと一方的に殺されるな。
俺は何か逆転の糸口が無いかを探す。
待てよ? むしろそのまま攻撃をおとなしく受けてみるか?
相手の姿は見えない。だけど攻撃を当ててきた時はその居場所がわかる。
やって見る価値はあるが――痛いだろう。
だって斬られるか刺されるんだ、転生する前もここに来てからも、まだ人に切られたり刺された事は無い。
「覚悟を決めるしかないか」
自分に言い聞かせるように独り言をつぶやく。
そして、俺はあたりに気を配る。
いつどこから仕掛けられてもいいように。
もし気を緩めて急所を切られたりして、即死なんて事になったら元も子ないからな。
「どこだ……どこからくる?」
辺りを見渡す。
そして、紫の線が見えた。
「正面!?」
いつもの俺なら防御をするか、避けるだろう。
だが、今回はそれでは意味が無いのだ。
だから、俺はその場から動かない。
「くッ!」
俺は痛みを堪えるため歯を食いしばる。
しかし何故か刺される痛みが来ない。
「なん……で」
「え?」
「何で避けようとしないの!」
俺のお腹を刺すためにギリギリまで近づいていた、ココナが上を向きこちらに顔を向ける。
そして、その顔は涙で濡れていた。
「なんで泣いているんだ? 俺を刺さないのか?」
「刺せるわけないじゃない……だって私はカエデ君の事が――」
パンッ!
何かが破裂したような音が響き渡る。
そして目の前のココナが突然倒れた。