33.ラインアルスト防衛戦Ⅰ
レオは前線にいた。
目視でガルフの大群がこちらに押し寄せてくるのが見える。
ラインアルスト北部は山形の地形が続くのだが、一点だけ平地の部分がある。王都から東西南北に伸びる大街道に合流できるその道を、今は人ではなく魔物が通っている。
ラインアルストの丁度北に出た魔物たちがどこに向かうか。簡単な話だ。獲物に向かってくる。
「――初撃準備! ……撃て!」
後方、ケインの掛け声で高台にいる弓やボウガンを持つメンバーや魔法を扱えるメンバーが初手として先頭集団に攻撃を放つ。
無数――とは言いがたいが、確かな数の力が、押し寄せるガルフを迎え撃った。
魔物と言えど、ガルフも生物であり、強さ自体もゴブリンより少し上というもの。
一撃で走行不可になる個体、そうでないものも数発の被弾で脱落していく。
「続いて第二射!」
掛け声とともに、第一射を放った者達がすぐ後ろに控えていた者達と場所を入れ替える。
これは一週間前、ジュンイチがミストとケインに提案していたものだ。
高台に射撃隊を置き、サイクルで射撃を絶え間なく続けるというもの。
「射撃できる人が少ないから、オダのテッポウタイには敵わないだろうけどなー」なんて言っていたが、実際に目にして効果がわかる。
こちらに近づいてくるガルフが、どんどんとその数を減らしている。防衛線において、この上ないほど有効なのだ。
射撃隊の攻撃をすり抜けてきたものがいたとしても、その数は元々の数から大きく減っており、近接攻撃を主とする者はそれに対応すればよい、という形だ。ガルフの大群に飲み込まれる、ということもなく、個体との戦闘に集中できる。
欠点があるとすれば、足元――自分達が戦うであろう場所には誤射の可能性から援護ができない事だが、そこは自分たちがどうにかするしかない。
「構えなさい! ガルフが来ます!」
自分達の中央、ミストが叫ぶ。
言葉通り、あと数十秒で接敵する。
レオは自分の得物を構える。それはジュンイチからもらった二つの剣だ。
彼がスキルで作成したもので、自分が使っていた武器と同じようなものを作ってくれたのだ。
試しに使ってみれば、初めて持ったと言うのに、しっくりきたのを覚えている。
そんなことを思っているうちに、ガルフの一体が目前に来ていた。
「――!」
●●●
レオは最初の行動として、数歩下がることを選択した。
対し、ガルフはそのままレオの頭部を食いちぎろうと加速を止めない。
だから、間に入るものがいた。
レオの二倍ほどの身長を持つ巨漢だ。
アルフレッドと呼ばれる彼はレオを覆い隠せるほどの盾を身体の前に置くことでガルフの走りを防いだ。
頭部から激突した事により、ガルフがよろめく。
「いきます!」
そこにレオがアルフレッドの盾の影からガルフの上に跳んだ。
未だ復帰できていないガルフの胴体にレオは落下の勢いを利用して双剣を突き刺した。
突然の激痛にガルフが訳もわからないまま暴れだす。
「離脱しろレオ!」
「はい!」
後ろからの声で深く突き刺さった剣を、魔流活性で腕力と握力を強化し、強引に引き抜いて横に跳ぶ。
直後、ガルフの頭部が半分に断たれた。
アルフレッドが盾とは別に持っていた、斧を振り下ろしたのだ。
「やりましたね、アルフレッドさん!」
「ああ――だが喜んでいる暇はないぞレオ!」
動かなくなったガルフを飛び越えて別のガルフがアルフレッドに跳びかかって来たのだ。
「ふん!」
だが、アルフレッドは盾でそれを受け流し、ガルフを投げ飛ばした。
そのまま斧で首を断ち切る。
「射撃隊のおかげで減っているとは言え、数は多い。油断はするな」
「了解しました」
ふと、レオは周囲を確認した。
自分達と同じように、皆対応は出来ており、負傷して撤退する様子も今のところ見られない。
ガルフ自体もそこまでの強さではない。戦ってみてわかる。
キメラが不安要素であるが、ミスト支部長を中心にした精鋭であれば、対応も可能なはずだ。
大丈夫、そう思った時に、ケインの声が戦場に響いた。
「第二波が来たぞ!」
レオは北を見やる。
確かに新たな集団が来ている。だが、レオはそこで異変に気づいた。
毛色や体格などが統一されていないのだ。今討伐している種類よりも体格など大きく見える。
魔物も通常の生物のように、近縁種などが存在する。
ガルフの場合、最も基本的な種がそのままガルフとなるわけだが、そこから派生して様々な種類がいる。
通常の生物と異なることと言えば、驚くことだが保有魔力により一世代だけで別種に進化する個体も存在するという。
とは言え、基本的には生物だ。近縁種だろうが、同じグループは作らない。同種でさえ、だ。
考えを修正しなければ。
やはり、楽には終わりそうにない。
「――レオ!」
アルフレッドの声が聞こえたと同時。しまった、と直感的に思った。
油断するな、と言われていたのに考え事をしていた。
だから、狙われた。
ガルフが襲い掛かってきたのだ。
「くっ……!」
仰向けに倒れた自分にガルフが跳びかかってきた。
双剣で顔面を斬る。だが、それは防がれた。それどころか、牙で剣を噛み抑えられてしまった。
「今助ける!」
こちらに駆け寄るアルフレッド――その前に別のガルフが立ちふさがる。
「邪魔だ……!」
あれではすぐにこちらにこれない。
「……はっ……!」
息が上がる。
死に直面している。
一ヶ月前に毒蜘蛛に襲われた、その時よりも恐怖が大きい。
ぎちぎちとジュンイチからもらった剣を噛んだ牙が顔に近づいてくる。
このままでは剣を折られるか、取り上げられて喰われる。
「そんな……!」
そんな終わり方、嫌だ。
だから、腕に込める魔力を増やす。魔流活性の強度をあげる。
既にいっぱいいっぱいだが、体勢の問題か、ガルフ自体が強いのか、それでもガルフの力に勝てない。
しかし、変化があった。
「!?」
剣身に走る光の線、それが発光したのだ。
それは柄の方から切っ先に伸びていった。
そして切っ先に達した、その瞬間だった。
「ギャんっ!?」
突如、剣身が燃え上がり、咥えていたガルフの口内を焼いたのだ。
ガルフはどうすることもできず、のた打ち回る。
それに止めを刺したものが居た。
リーシャだ。




