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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第三章 -永遠の契約-
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第十三話 金魅の忌み子 中

 魔王を討伐し世界を救う祝福者と言われながら、自分の娘のためという比ぶべくもない理由を盾にその責任を放棄したアイリス。娘を出産した後、もう一度戦場に復帰すれば再び英雄と呼ばれたであろう。しかし最悪な結末として彼女は出産と共に命を失った。同時に、アイリスは幾度となく人々からの期待、もしくは縋りとでも評するべきものを裏切ったこととなる。


 その不満は国家そのものにぶつけられることとなる。彼女を妃とした、戴冠して間もない国王ラルク・ジオ・ルミナリアを中心としたルミナリア王国に。

 

 しかし、そんな状態の中にあってもラルクは辣腕を振るい様々な事態の対処に努め、他国とも協力し魔王軍の活性化を食い止めることに成功。さらには金魅によって救われた経験を持つ一部の人々の声掛けもあり、少しずつ国民の不満は収まっていく。


 だけど、安寧の日々はそうは続かなかった。


 アイリスが死去して五年。

 まるで母親の生き写しのように、輝く金髪と美しい容貌とともに成長する少女、リリス・ジオ・ルミナリアが【空間】の祝福に目覚める。


 その事実が人々に与えたのは新たなる期待ではなく、アイリスに裏切られた瞬間の諦観と憎悪だった。

 既に心の奥底に収まっていたはずの人々の感情が、再び大きく揺れ動かされた。

 アイリスに対して抱いた不信感が、そのまま容姿と祝福を受け継いだリリスに引き継がれたのだ。


 さらに、人々の不信感が掻き立てられる要因はそれだけに留まらなかった。


 リリスは産まれた時から身体が弱い――名付けられた病名は中毒性魔力枯渇症。

 吸収する魔力量と日常生活で発する魔力量がほぼ等しい人に現れる症状である。

 今でこそ吸収する魔力量の方が多く生活する上で問題は生じないが、少し気を抜けば……それこそ大量の魔力を必要とする祝福を使用すれば、すぐにでも倒れてしまうほどである。


 さらに問題なのは、その症状が訪れるタイミングだった。

 祝福に目覚めてからの長い年月において、彼女は国を挙げての儀式など、数ある重大な場面の多くで魔力を失い倒れた。

 同時に、世界のどこかで魔王軍が現れ何らかの被害を残すのだ。

 まるでリリスが倒れるその瞬間を待ちわびていたかのように。


 最初の数回は偶然だと言い張れていても、十回も同様の出来事が続けばそうもいかなくなる。

 魔王軍がリリスの魔力枯渇症の発現を見越し、行動に移しているのは疑いようもない事実だった。


 この出来事によって、リリス――ひいてはルミナリア王国と魔王軍には何らかの関係があるのではないかという推測が広がっていく。尤も、魔王軍の行動の起因となっているのはリリスが倒れるというマイナスの出来事であるため、協力の関係であるというよりは、リリスが一方的に利用されているのではないかという考えが多かった。が、リリスに否定的な感情を抱く者も少なくない割合でいたのは事実だ。


 そんな複雑な状況のまま年月は過ぎる。

 ひっそりと、水面下で言いようも知れぬ何かが蠢きながら――――



 四年後、祝魔歴489年。

 リリス・ジオ・ルミナリア九歳。

 ルミナリア王国とエルトリア帝国は魔王軍に対して、一時的に共闘を約束する調印の儀を結ぶこととなる。

 場所は、当時最大の国土と権力を持つエルトリア帝国。

 そこで全てが崩れ落ちることとなる。


 当時、世界に名を轟かせる祝福者は二名いた。

 一人は勿論、ルミナリア王国第一王女、リリス・ジオ・ルミナリア。

 そしてもう一人は、エルトリア帝国の第一皇女。


 二人が同じ場所に会合するのはその日が初めてのことで――最後となった。



 その日、リリスがいつも通り倒れて。

 普段は姿を見せることのない魔王が現れて。

 エルトリア帝国の第一皇女を殺して。

 リリス・ジオ・ルミナリアには傷一つ与えず、去っていった。



 またたく間に調印の儀は中断され、魔王軍への対応に備える。

 しかし、魔王軍がそれ以上攻め入ってくることはなかった。


 失われた命は、エルトリア帝国の祝福者のものただ一つだった。


 その出来事はかつてない騒ぎとなり全土に広がっていった。

 なぜ魔王が現れ第一皇女を殺したのか。そして、リリスだけは生かしたのか。

 その推測を誰かが呟いた。


 ――――ルミナリア王国が敵国の戦力を奪いたかったのではないか、と。


 祝福者、それはたった一人で数万を相手することすら可能な圧倒的な戦力。

 敵国からいなくなることで、どれだけの利益があるかなど言うまでもない。

 加え、ルミナリア王国には元々魔王軍と繋がりがあるのではないかという疑いも存在していた。


 疑問が、怒りが、憎しみが。

 混ざり合って爆発する。



 ――――金魅の忌み子。

 アイリスの容姿と祝福を受け継ぎ、彼女と同様に世界に災厄を齎す少女を誰かがそう呼んだ。



 ここまでが、リリス・ジオ・ルミナリアが金魅の忌み子と呼ばれるまでの話。

 そしてここからが、新たに生まれた希望の話だ。



 怒りと憎しみを露わにする国民の感情が収まる原因となったのは、奇しくもエルトリア帝国の活躍によるものだった。


 エルトリア帝国皇太子、レイ・ジオ・エルトリア。

 彼が祝福に目覚め、さらには使用不可能と言われる祝魔剣を扱うことに成功。

 彼はその剣を振るい魔王軍をことごとく討伐してみせた。

 一騎当千と呼ばれる幹部すら、彼の手にかかれば容易くその命を奪える。


 その活躍ぶりは、人々がかつての熱気を取り戻すには十分なものだった。

 しかし一方、魔力枯渇症かつ幼い少女であるリリスが戦場に出ることはない。


 エルトリア帝国の祝福者――勇者には期待を。

 ルミナリア王国の祝福者には失望を得るのも仕方ないことだった。



 それからルミナリア王国の権力は少しずつ縮小していき、人々の感情を煽らないように騙し騙しやっていく他なかった。しかし、そんな状態に痺れを切らしたのが元老院などの貴族達だ。国家が衰退していくのが耐えられないと彼らは言った。


 そしてそんな折に、古い文献から異世界の存在を見つけた。

 本来ならば自分達と関わりのない世界など一蹴されて当然だ。


 しかし、今のルミナリア王国にはその常識を覆すことが可能だった。


 【空間】の祝福――それを使用すれば、異世界とこの世界を繋げることが可能なのではないか。

 異世界から祝福者を召喚し、勇者として魔王軍と戦ってもらおう。そんな他力本願な考えを告げた。


 奇しくも、その試みは成功してしまう。

 その結果召喚されたのが、水色の勇者ソラである。

 彼女は騎士団が総出でも討伐できなかった魔王軍幹部リーベを、一瞬で手負いにし撃退するという成果をあげてみせたのだ。


 この方法ならば祝福者であるリリス自身が戦えなくとも、再び我が国が魔王軍を討伐し栄光を得ることが出来る――その考えのもとに再び儀式が行われ呼び出されたのが、白崎 修と逢ヶ瀬 伶奈だった。


 彼らは魔王軍幹部リーベとアトロス、スパーダを討伐するという成果を残す――が、それでもやはり国民達の期待はエルトリア帝国に向けられたまま。ルミナリア王国に対する不信感がこれ以上増えることのないようにするのが関の山であった。


 ――――それが、現在の状況の“はず”だった。



 ◆



 ――――馬鹿げた話だ。


 リリスの話を聞いて真っ先に浮かび上がった思考は、そんなものだった。

 今の話のどこに、リリスによる世界を憎む感情が含まれているのか。


 つまり、国民がリリスを金魅の忌み子と呼び醜い感情を抱いているのは、彼女が魔王軍と繋がりがあると考え、それに伴って魔王軍から与えられた被害の責任を押し付けているに過ぎない。何故その原因となる出来事が起きたのかまでは分からないが、そのどこにもリリスの想いが含まれているようには思えなかった。


 だけど、それでも。

 彼女の話を聞いて、少しだけ思い出すことがある。


 いつの日か俺はリリスに尋ねた。

 お前は本当に魔王軍に協力しているのかと。

 それに対して、たしか彼女はこう答えた。


『……私の意思では、していないと断言できます』


 弱々しい、その言葉。

 私の“意思では”……まるで、意思を除けば協力しているとでも捉えられる表現。


 だけど、それとは別に彼女はこうも言っていた。


『私は、この世界が好きです。私を大切に想ってくれる人がいて、私が守りたいと思う人がいるこの世界が好きです。ですから無理なんてしていません。私がこの世界を救おうとするのは私の願いそのものなんです』


 その時の彼女の笑みが、嘘だったとは思えない。


 きっと、俺にはまだ知らないことがある。

 それを聞かなくてはならない。


「続きを、頼む」


 話の検証は、もう少し後でもいい。

 まだ俺は、俺達が召喚されるまでの事情しか聞いていない。


 なぜ現在の状況になっているのか――国民達が殺意までも抱いているのか、その核心を聞いていない。


 だからこそ続きを促した俺の言葉に。


「はい」


 大人びた笑みとともに、リリスは頷いた。

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