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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第二章 -壊す願いと創造者-
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第十五話 エルトリア帝国皇太子


 ◇


 商業都市サンリアラを出発して一週間。

 俺達はスアレル王国の王都スーリカに辿り着く。


 まず、見上げるような巨大な壁が立ちはだかった。

 中立国家スアレルの王都スーリカは城塞都市でもある。

 王城を囲む城壁と、その外側に広がる街並みを囲む壁と二重になっている。

 目の前の壁は都市全体を囲む外側の方だ。


 門番と言葉を一言二言交わした後に都市の中に入っていくと、静粛な雰囲気を感じた。

 ルミナリア王国の王都ルミナダやサンリアラと比べても賑わいの差は一目瞭然である。


 戦争時代には各国の要人がこの都市に亡命したという。

 戦争後そのまま住み着いた貴族などの権利や立場が複雑に絡み合う都市だ。

 他の国の王都と比べ、身分の高い者が多く庶民の居住許可も出にくい。

 そこらへんの事情が、この静けさにも影響しているのかもしれない。


 そんな話を、俺達は馬車の中でリリスから聞いていた。

 最低限知っておいた方がいい知識を教えてもらっていたのだ。


 王都の中に入り、馬車はそのまま進んでいく。

 静かな雰囲気とはいえ、町の景色そのものは普通だ。


 そして、俺達はスーリカの内側の壁。

 王城を守る城壁に辿り着き、そのまま中に入っていくのだった。



 ルミナリア王国とエルトリア帝国による、魔王軍に対抗するための協力を約束する調印の儀が執り行われるのは三日後。

 その間、ラルクやリリスはともかく、俺達に特別な用事はない。

 リリス達の護衛として付き添う程度だろう。


 俺達を迎え入れてくれたスアレル王国、国王アドルフ・アルド・スアレル。

 暗い茶髪の、精悍な顔つきが特徴的な五十くらいの男性だ。

 ラルクとアドルフが数度言葉を交わした後、俺達はとある広間に連れて行かれることとなった。

 エルトリア帝国の人々は既に到着しているため、当日前の顔合わせだ。


 特に断る理由もなく、俺達は案内されるまま移動する。


 そして。


 そこで、俺はレイ・ジオ・エルトリアと出会った。



 ◇



 イケメンだった。

 すごいイケメンだった。

 顔を凹ませたくなるほどのイケメンだった。


 白銀の髪。金色の瞳。整った容貌。

 普通の女性なら一目見ただけで胸がときめき、微笑みかけられれば一瞬で恋に落ちるだろう。


 だけど俺が注目するのは彼の容姿ではなかった。

 身に纏う純白の鎧でもない。


 腰に下げる、一振りの剣だ。

 漆黒と純白が入り混じった様な、禍々しい灰色の鞘。

 そこに収められる剣は――――抜くまでもなく、圧倒的な魔力を醸す。


 あれは、まずい。

 そう本能が叫ぶ。

 リーベやソラと向かい合った時とは比べ物にならない程の鬼気。 


 そんな剣を携えた、強者たる空気を纏う存在が、俺、リリス、逢ヶ瀬、ソラに向けて名乗った。

 自身を勇者だと、英雄だと。

 少し恥ずかしい子なのかもしれない。

 俺達も名乗り返すべきだろうか。


 そう思った矢先、小さな影が動く。

 ルミナダにいた時と比べ簡素なドレスに身を包み金髪の少女、リリスだ。

 彼女は悠然とレイの前に立つ。

 ……いや。肩が、少しだけ震えている?


「お久しぶりです、レイ殿下。ルミナリア王国第一王女、リリス・ジオ・ルミナリアです」


「……ええ、お久しぶりです。リリス王女」


 リリスの言葉に答えるレイ。

 口調は丁寧に、声色も優しく、相手に対する敬意を感じる。

 だが、俺は違和感に気付く。

 眼。そう、眼だ。

 リリスを見つめるその眼は、どこか冷えていた。

 少なくとも好意のある相手に向ける眼ではない……いや、元々が敵対関係にあった国同士の王女と皇太子だ。そのくらいは当然なのかもしれない。


「…………」


 だけど俺の心の中には、いつまでもその違和感が残り続けた。


「リリス王女。一つお尋ねしたいのですが、そちらの方々はやはり、異世界から召喚した勇者で正しいのでしょうか?」


「はい、その通りです」


「なるほど……半年ほど前からルミナリア王国の勇者が活躍しているという話は聞いていましたが、まさか三人もいるとは。名を、聞かせていただいてもよろしいですか?」


「もちろんです」


 リリスは振り向くと、お願いするような目線を俺達に向ける。

 一番初めに動いたのは、黒色の長髪を靡かせる少女だ。


「ご紹介にあずかりました、逢ヶ瀬 伶奈と申します」


 名前を言うと、それだけで彼女は口を閉ざす。

 異世界の身分の話をしても仕方ないし、これから味方になるとは言え現時点で得意な戦闘方法を教える仲でもない。


 逢ヶ瀬に続くのは水髪の少女。


「私は、ソラ」


 逢ヶ瀬の時よりも簡潔に。

 必要事項のみを一言で伝える。

 次は俺の番か。


「白崎 修」


 ソラよりも短くまとめる。

 全員の名前を聞いたレイは、ふむ、と小さく頷く。


「アイガセ レナ。ソラ。シラサキ シュウ……うん、確かに覚えたよ」


 小さな声で間違いがないか確かめるように呟いた後、彼は真剣な眼差しで俺達を見つめる。


「僕の方からも改めて名乗らせてもらおう。エルトリア帝国皇太子、帝国騎士団副団長、レイ・ジオ・エルトリアだ」


「……副団長?」


 彼の言葉の内容を聞き、俺は首を傾げる。

 皇太子たる身分の存在が、騎士団に所属しているというのか。


「ああ、その通りだよ。若輩なこの身にはとても恐れ多い役職だと思っているけれどね」


 疑問に思ったのはその点ではなかったのだが、彼は故意的に回答をずらしたのだろう。

 ならば特に、これ以上詮索することもない。


「まあ、そういうわけだ。これからよろしく頼むよ」


 レイは微笑みながら純白の革手袋に包まれた右手を差し伸べる。

 他の誰でもなく、俺に向けて。


「…………ああ」


 わざわざ場の流れを壊すこともない。

 俺とレイは握手を交わす。

 この場における顔合わせはこれにて終了した。



 ◇



 やることがない。

 与えられた客室のベッドに横たわりながら俺は暇を持て余していた。


 現在、ラルクやリリスの護衛はソラが受け持っていた。

 俺と逢ヶ瀬は自由行動。

 ただ、スーリカに滞在する間は、出来る限り城内にいておいて欲しいと言われている。

 暇潰しに町に繰り出すことすら出来ない。

 何日間もこのような状況が続くのは辛いなぁ。


 っと、そうだ。


「修練でもするか」


 この二週間、馬車に乗りこのスアレルに向かった。

 途中、何度か魔物とも遭遇し無事討伐したが、雑魚ばかりだったため大して苦労することはなかった。

 結果、ほとんど身体を動かせていないのだ。

 フレクトさんもワンパン、いや、ワンキックだったしな。


 となると、問題は修練するための場所か。


 しかし、その問題はすぐに解決した。

 城内を見回る兵士に尋ねると、城を出てすぐ横に、兵士が特訓を行うための練兵場があるらしい。

 広義的に考えれば城のすぐ外は城内だ。うん、問題ない。

 そんな超理論と共に、俺はそこに向かった。



 ◇



「はぁッ!」


 強固な防壁に囲まれた赤茶色の地面。

 短い掛け声と共に、俺は練兵場を駆ける。

 超速度で後ろに流れる風景の中、仮想敵を想定し殴打を繰り出す。


 俺が来たとき、練兵場には人影がなかった。

 別に俺に遠慮したわけではなく、たまたまだろう。

 場所を聞いてからここに来るまでには数分しかなかったわけだしな。


 修練の内容は、フィルフの魔樹林で行っていたことと相違ない。

 魔力を調整し、目標の速度で動く。

 速すぎても遅すぎてもいけない。

 いけないの、だが。


 どうも、今日は力を入れすぎてしまう。


 ……レイという存在に出会ったことが、影響しているのかもしれない。

 圧倒的な魔力を醸す剣。リリスに向けた冷たい視線。

 それらを思い出すと、つい気を張り詰めてしまう。


「……っ」


 修練を始めて三十分。

 ふと、俺は一つの存在に気付く。


 練兵場の入り口。

 そこには白銀の青年、レイ・ジオ・エルトリアが立っていた。

 たった今、中に入ってきたようだ。


「すまない、邪魔をしたみたいだね」


 動きを止め、彼の方を向くと、レイは申し訳なさそうにそう言った。


「いや、そろそろ休憩するつもりだったから」


 彼の存在が休憩のきっかけになったのは確かだが、その言葉自体は事実だ。

 俺は練兵場の壁際にまで歩き、置いていた水筒から水をごくごくと飲む。

 乾いた喉に、潤いを与えながら奥に流れていく。


「凄い身体能力だね」


 いつの間にかすぐ隣にまで移動していたレイが呟く。

 修練を見た感想のようだ。


「大したことないだろ」


 顔の向きも変えないまま、俺はそう答えた。

 しかしレイは機嫌を悪くすることはなく、それどころか少しだけ嬉しそうな声をあげる。


「そうだ、シラサキ シュウ」


 そのまま、彼は告げた。


「よかったら今から、僕と手合わせしてくれないかい?」

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