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2 薔薇王

 街の広場に超大型の輸送機が停まっていた。遠目に見るとグレーだが、どうやら黒地に細かい模様が入っている様で立花は思わずカッコいいと呟いた。

 見たことのない機体だったので不思議に思って見ていると、大勢の人が楽しそうに作業している様だった。


 立花は人が楽しそうにしている所へは余程の事がない限り近づかないことにしている。立花の存在に気が付いた途端に火が消えた様に静かになられると申し訳ない。


 立花が戸惑っていると足元にいたロブが珍しく吠える。


「ロブ?」

 その声に気づいて海棠の秘書官の氷花(ひょうか)が走ってきた。氷花は見た目は美しい女性だが、立花以外には非常に冷たいクールビューティーだ。


「立花様! お怪我は大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。氷花さんも来てたの?」

「はい! 子供のお守りなんです!」

「子供?」

「ガキばっかりですよ!」

「そうなんだ……忙しそうだから俺帰るよ?」

「何をおっしゃるんですか! 立花様を待ってたんですよ!!」


 そう言って氷花は立花を引きずって行く。

「姫様! 立花様が来ましたよ!!」

「ひめ……?」

 氷花の声で機体から少し変わった格好の女の子が出てくる。


 数年後には物凄い美人になるであろうポテンシャルを感じさせるが、大人になってしまうのが勿体なく思える美少女。黒いドレスはシルエットは普通なのだが、何やら蜘蛛の巣のようなレースや差し色が毒々しい赤だったりして変わっている。


「貴方が立花ですか! まぁ、思っていたよりずっといいです!!」

「初めまして……。失礼ですが姫とは……」

「はい。レオモレアの王女、桜と申します」

「さくらさま……。すみません。いつからココに……?」

「先日です。どうしても本人を見てからにしたかったので、早く此方に」

 立花が勢いに飲まれていると、輸送機の中に連れて行かれる。


 輸送機の中では海棠が疲れた顔をしていた。

「ああ、立花、来たのか……」

「何があったの? 何で姫がここに?」

「うん……色々あってさ……説明するから」


「立花、怪我は大丈夫ですか? 着替えは一人で出来ますか?」

 海棠と話していた立花は再び姫に連れて行かれる。

「着替え? はい、一人で大丈夫ですが……」

「では、これに着替えて下さい」

「えっ? はい……」

 立花は訳も分からずに着替えを命じられる。高貴な方特有の押しの強さで何も聞くことが出来ない。


「手伝ってやるよ……」

 そして何故か海棠が着替えを手伝ってくれるらしい。着替え用の部屋に案内される。


「何がどうなってるの?」

 なんとなく予想はついている立花が不機嫌な声でいう。


「あ〜、お前がいない間にさ、姫様と誰か結婚するってことになってな。んで、誰がいいかなぁって探してる内に、楢葉(ならは)と姫が仲良くなって、今お前の服を一緒に作ってるんだ」

 楢葉は桐生の従者筆頭で立花を兄様あにさまと慕いまくっている少年だ。


「何で俺の服?」

「ん〜〜? いやぁ。姫様の相手はさ、桐生様の養子にするらしくてな……だっだらお前がいいんじゃないかって、ここに連れてきたらお前が居なくてさ……」

 立花が物凄い目つきで海棠を見上げている。


「フフフ、で、お前ん家に泊めてもらったら、服が気になったらしくて、姫は洋服作りが趣味なんだって……だから楢葉と一緒に……」

「海棠? 他に何か言うことはないの?」

「……ごめんなさい。すいませんでした!」

 苦笑いでゴマ化そうとしていた海棠だがここは素直に頭を下げた。


「で? 俺はどんな礼をすれはいいの?」

 立花は珍しく冷たい声で海棠に詰め寄る。

「楢葉に……姫様と結婚して貰えるように頼んで欲しい……」

「別にいいけど……聞いてみるだけだからな。ダメなら海棠が何とかしろよ……」

「はい……」

 海棠は疲れた様子で頷く。


「それよりさぁ……これ何?」

 立花は追加で渡された黒い羽根つきの布を眺める。

「マントですね。羽織ってみてください……」

「マント……?」

「うん。まだまだ来るから……」

「何が……?」


 立花が渡された色々な物を身につけて部屋から出ると満面の笑みの楢葉に迎えられた。


「サイズはどうですか?」

「楢葉……久しぶり……うん。ちょうどいいよ……」

「はい! じゃあ次はこれを!」

「…………」

 手の平の骨を渡された立花は戸惑う。

「肩に付けるんです。それからこのパンジャは手につけます」

 パンジャは本来インド風のデザインだが、立花が手に付けられているのはイカツイくてカッコイイと立花は思った。


 立花が気に入って手を動かしていると、海棠と目が合う。

 お前そういうの好きそうだな、と海棠の目が言っている。なんとなく恥ずかしかったので鏡を見ると不思議な格好になっている。黒魔術師とかヴィジュアル系の格好だろうか?


「まぁ! やっぱり良くお似合いね!!」

 現れた姫はとても嬉しそうだ。そしてロングの黒髪のカツラを被らされる。


「…………」

 姫は立花の姿を睨むように観察すると侍女に何か持ってくるように伝えた。


 立花は居心地が悪くて思わず楢葉に話しかける。

「この服……は二人で作ったのか?」

「はい。細い装飾は全部姫ですが」

 言いながら楢葉は姫を見つめて、目があった二人は微笑みあう……。見てる方が恥ずかしくなりそうな初々しさだ。


「そっそっかぁ……なんかあるのか?」

 仮装パーティーでもない限りこんな服を着る機会などないだろう。


「特になにかの為にって訳じゃないんです。作りたかったから勝手に作っただけなんで気にしないで下さい」

「うん……」

 立花が納得していない返事をしていると、いつの間にか姫の手には棘のびっしりついた造花の蔓が握られている。

 そして姫は立花のカツラにその蔓を器用に編み込むと最後に小ぶりな赤いバラを付ける。少し距離をとって立花を眺めた姫と楢葉は満足そうに微笑む。


「これは……なんの格好ですか?」

 立花が恐る恐る尋ねる。

「妖精王って感じですかね?」

「いや、薔薇王じゃないですか?」

 謎の単語に怯えながら海棠の様子を伺うと海棠は気配を絶って逃げようとしていた。


「待って海棠! どこ行くの!」

「いやぁ。ひょ氷花がいないな〜あいつに写真撮ってもらおう。どこ行ったのかな〜」


「俺探してきます!」

 楢葉が嬉しそうに出て行くと姫は海棠にもお着替えを命じる。立花には何が何だかわからなかった。

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