しょんぼり
翌日、退院した立花は家に帰った。
愛犬のロブが嬉しそうに迎えてくれるが、棗はいない様だ。
棗を探して出掛けると菖蒲に会った。
「棗様なら立花の隣に執務室を用意しましたからそちらですよ」
菖蒲はとても嬉しそうにしている。
「ありがとう……」
「いえ、退院おめでとうございます。棗様の邪魔しちゃダメですよ」
「邪魔……?」
「はい、流石宗家のお嬢様ですね〜」
そして菖蒲は嬉しそうに去っていく。
棗の事だから無駄に根性を見せてリストを覚えるつもりなのだろう。自分が覚えているから必要ないのにな、と立花は思う。
教えられた棗の執務室に行くと棗が真剣な顔でリストに向かっている。
「棗?」
「立花様、退院おめでとうございます。迎えてに行けなくてごめんなさい」
「いいよ。気にしないで」
棗は疲れた顔で微笑むとリストに戻る。
立花にはそれが何となく不満だった。色々頑張ってくれたみたいだからお礼がてら甘やかそうと思っていたのに、つれない……。
「棗さん……何してるの……?」
立花は棗の視界に入る様に机の前に回り込んでしゃがむ。
「見て分かりませんか?」
「それ俺が覚えてるから棗はいいよ」
「そんな事では話になりません!」
「棗しゃん……」
構ってくれないの? と立花は棗を見つめる。
「うっ……ダメです……」
棗はこう言うのに弱いので大体立花の思い通りになるのだが今回は耐えたらしい。
立花はわざとらしくしょんぼりするが棗は無視だ。
別に邪魔したい訳でも気を引きたい訳でもないのだが気に入らない。いや素直に認めよう。退院したばかりなんだから少し構って欲しい。
立花は今度は背後に回ると怪我をしていない方の手を机について棗を囲い込むようにして耳元で囁く。
「ねぇ、なつめ?」
棗は顔を赤らめて涙目で睨んでくる。
「かわいい」
そういってキスしようとした立花への返事は頭突きだった。
「〜〜〜っ〜〜〜」
頭への衝撃もなかなかのものだったが、精神的なダメージが大きい。
「邪魔しないで下さい!!」
「ごめんなさい……」
棗に撃退された立花は隣の自分の執務室に撤退する。
「立花様? どうしたんですか?」
部屋にいた鬱金が振り返る。
「うこん……」
「今日退院でしたか、おめでとうございます」
「ありがとう……」
「どうしたんです?」
「棗に頭突きされた……」
立花が悲しそうに言うと鬱金に笑われる。
「あんなに頑張ってらっしゃるのに邪魔するからですよ」
「だって……」
「海棠様が街にいらっしゃると思いますから探してみては?」
「うん……」
立花はとぼとぼと部屋を出て行った。




