1 しょんぼり
棗は立花の副官の菖蒲と言うおじさんに色々と教えて貰っていた。菖蒲は以前にも会った事のある普通のおじさんだ。普通と言うのは桐生軍においては褒め言葉で安心して話せる人の事でもある。
「立花様は元々私の部下だったのですが、部隊を持つ時に心配だったのでついてきたんです」
「心配ですか?」
「人間関係ですかねぇ? 色々あった時期なので」
「何があったんですか?」
「うーん。三ノ方の事もあって城に居づらいので新しく領地になった国をまわっていたんですが……まぁ、嫌な思いもいっぱいするので一時期荒んでたんです。それでですね……」
菖蒲は少し悲しそうな顔をする。
「荒んでる立花様ってどんな感じ何ですか?」
「うーん。無表情で……言葉がキツくなって、とにかく感じ悪いんですよ」
「あー分かります! 眠たい時みたいな感じですね?」
「そうそう、眠たいと本当に感じ悪いんですよねぇ」
ひとしきり立花の話題で盛り上がると菖蒲が倉庫らしき部屋のドアを開ける。
「……なんですか? これ??」
「棗様へのお祝いの品々が商人から届きまして、立花様は全て送り返すんですが、棗様はどうされるのか分かりませんでしたので、まとめておきました」
菖蒲は優しい笑顔だ。
「何個、あるんですか?」
「リストにしてあります。中身は確認していないので、差出人だけですが」
棗が受け取ったリストの総数は四桁に迫るものだった。
「これをどうすればいいんですか?」
棗は涙目で縋るように尋ねる。
「立花様はほっとけと言うと思いますが、私は出来ればリストの最初のページの方々とは仲良くして頂けると嬉しいですね。奥様は領地の管理が必要ですから領民からの情報も大切です」
「ううう〜」
リストの各ページは二百人。家族構成や仕事の内容、過去の陳情内容などがまとめてある。
「無理にとは申しません、棗様は結婚式の準備もあってお忙しいでしょうし。
でも立花様はそういった事が苦手なので棗様に助けて頂けると本当に助かります」
菖蒲はいい笑顔でそう言うと他の場所の案内を続けた。
立花のところは領主にもスパルタらしい。
棗は助けを求めて立花のお見舞いに来た。
「いらないよ。最低限でいいでしょ?」
少し助けて貰いたいと言った棗への返事がこれである。
「でも、立花と違って棗はずっとここにいるんですよ? 仲良くしておいた方がいいんです!」
「だから俺に選べって? うーん……」
棗から受け取ったリストは立花は全て把握している。話した事もあった事ないが、何となく何を目的に棗に贈り物をしてきたのかも分かる。
この交易都市は古いので、昔ながらの商人と新興勢力との静かな争いが続いている。領主はどちらにも肩入れ出来ないのでリストは両方からバランスよく上げてある。立花が選んだら増えそうなぐらいだ。
しかし棗は涙目で多過ぎると訴えている。覚えるのが大変らしい。
「棗はどうしたいの?」
「こんなデータだけじゃ覚えられないのでお会いしたいですぅ」
「でもそしたら贈り物をくれた人みんな呼ばないといけなくなるし、追加が来るよ?」
「ううう〜」
棗は立花の服を握り締めている。
「……うーん。そうだ、兄さんも呼んで、顔見せでもしたら?」
「? 何か変わるんですか?」
「兄さんがいれば、色々分散するし、みんな遠慮するから……でもこのリストは全部見ておかないとだね……」
「全部……?」
棗の顔には絶望が浮かんでいる。
「覚えなくていいから、見ておくだけでいいから」
「ううう〜知らない人の事なんて……」
「だからいらないよって言ってるのに……」
「うぇ〜ん。意地悪!!」
棗は立花のベットに突っ伏してジタバタする。
結局棗は拗ねて帰ってしまった。その様子を見送っていると立花の隣のベットで寝ている紫雲英が虚ろな目を向けていた。
「ごめん。うるさかったか?」
「いえ……悪いと思うなら薬を下さい……」
「痛みでは死なないから大丈夫だよ」
「ショック死とかあると思います……」
「普通の痛み止めはあげてるからな? みんなそれぐらい我慢してるんだぞ?」
「すいませんでした……許して下さい……お願いだから助けて……」
諸事情により痛覚のない生活をしてきた紫雲英には手術後の痛みが耐え難いらしい。これでも少し元気になったが声に全く力がない。
「俺明日退院だからそしたら薬返すよ」
「はい……」
立花は検査も終わったので三日間の入院を終えて退院予定だ。腕の骨折は通院治療となる。
「お前すぐ帰るのか?」
「知りません……」
紫雲英は考えるのもダルそうな様子だった。




