男前
その様子は立花の領地にいる鬱金達も見ていた。
「なにこの子〜これが立花の嫁? ウケる〜立花よりよっぽど男前じゃな〜い」
「比べるのも失礼だろ? 十倍、いや百倍?」
「ゼロにどんな数字を掛けてもゼロだから」
芹をはじめとした立花の部下のゾンビ部隊が全員集合してワイワイ言いながら観戦している。
「間に合って良かったな」
「これで敵さんには撤収命令が出ちまうのか?」
鬱金がいうと鬼田平がつまらなそうに返事をする。
「効果は期待出来ないがな、」
立花の領地まで来ているような連中は筋金入りだ。立花への憎しみは命令や金銭に関係ないだろう。
「おっしゃ! 準備すっか。今回はライバルがいるからな、負けんなよオメェラ!!」
鬼田平が隊長らしく指示を出す。その言葉通り、拳紋の門下生達も参加している。遅れを取ると敵にありつけなくなりそうだ。
敵も立花の到着を待ち構えているが、あえて野放しにしている。一瞬でも早く立花を見つけたいので余計な騒ぎは避けた。
鬱金の隣ではロブが静かに座っている。
捜索の要はロブ達軍用犬だ。立花が面倒を見ている十数匹が散らばって立花を探している。
遠くで犬の鳴き声がする。それにロブは遠吠えで答える。
敵の一部が動き出したようだが、ロブはまだ動かない。
▽▲▽
立花は街の境界で機体を降りた。ここからは歩いて越境する。限られた人しか知らない入り口だ。貧血で震えている紫雲英を見て立花は唇を噛む。
時間がない。
デイモスは立花が初めて作った機体だ。時間も労力も一番掛けてある、思い入れのある機体に額をつけて別れを告げた立花は遠隔操作で機体を飛ばし、囮にする。
立花は感傷を振り切り紫雲英を支えて歩き出すが、重たいし冷たい。
「もう少しだから頑張ってくれ。俺じゃ引きずって行けないんだから」
立花の言葉にも反応が薄い。
気持ちは焦るがゆっくりとしか進めず、それでも何とか安全圏に入り林の終わりが見えてきた頃、遠くで戦闘の気配がする。
立花は飛んでいるデイモスが撃たれているのを見ながら林の終わりで足を止める。
人の気配はなさそうだ。走り抜けたいところだがそうもいかない。
「置いていっていいですよ……」
紫雲英が力のない声でいう。
「うるさい、弾除け、黙ってろ」
立花は心の中でロブを呼びながら歩き出す。久しぶりに陽射しを浴びて肌がチリチリする。
恐る恐る歩いていると、犬の鳴き声がする。
「ロブ」
あまり大きな声は出せないが、それでも返事がある。
「もう少しだから」
立花が紫雲英に話しかけた時、遠くで爆発音がする。見上げるとデイモスが墜落してくところだった。
「…………」
立花が悲痛な顔をしていると、ロブの姿が見えた。
「ロブ……」
ロブがすごい勢いで駆け寄ってくるので、立花はバランスを崩してしまう。
このまま転んだら紫雲英がヤバイ。そう思った立花が無理な体勢で踏ん張ると足に痛みが走る。
体勢を崩したまま転びそうになった二人を誰かが支えてくれた。見なくても分かる。鬱金だ。
「うこん……」
鬱金は二人を支えて座らせてくれる。ロブが嬉しそうにすり寄ってくる。
「おそいよぉ……」
立花は情けない声を出して鬱金にしがみついた。
「大丈夫ですか? すぐに医者が来ますから」
「こいつを頼む。命の恩人だから」
紫雲英は安心したのか意識を失っている。
「分かりました」
遅れて駆けつけた救護班に紫雲英を預けた鬱金は立花を抱えて後に続く。
「立花様は骨折ですか?」
「足も痛い……」
「それから熱ですね」
そう言って鬱金は立花の額に触れる。怪我のせいか発熱していて、そのせいだけでなく潤んだ瞳で鬱金を恨めしそうに見ている。
「もう少し早ければ……」
「移動機は残念でしたね……」
「うん」
「でも、心配しましたよ」
「ごめん。ありがとう……」
「お礼を言わないといけない人がいっぱいいますからね」
「はい……」
立花はしょんぼりして鬱金の肩に顔を埋めた。




