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20 そしていつも通り


 目を覚ました立花は知らない部屋に寝かされていた。普段なら寝起きはボーっとしているのだが、痛みで急激に目が覚める。

 骨折した左腕が物凄く痛い。利き手ではなかったのでまだましだが、とにかく痛い。痛みに身をよじると足首も痛む。

 それでも何とか上半身を起こして隣を見ると、天パの男が寝ている。


 意識を失う前に頼んだ通りになっていて安心する。


 紫雲英は蟲と人間のハイブリッドだ。主にアウローラで生産されている兵器である。

 蟲の器官を移植したり、遺伝子から変えたりと作り方は色々あるらしい。

 共通しているのは体温が低いこと。生殖能力がないこと。また拒絶反応の為に薬が手放せず、寿命が短いこと。

 与えられた能力は様々だが、人間離れしているのは間違いない。


 立花は紫雲英の常備薬を痛覚のマヒする物から副作用の少ないものに変えて飲ませるように頼んだ。

 今はまだ死んだように眠っているが目を覚ました時が楽しみだ。生まれて初めて体験する痛みにどんな反応をするのか想像しただけでいい気分になる。


 立花が頑張って枕元にあった水を飲んでいると、窓の外でロブが尻尾を振っている。


 帰ってきた。日常のありがたみを噛み締めていると鬱金が入ってきた。


「目が覚めましたか?」

「うん」

 立花はストローをくわえたままコクンと頷く。


 はぁ〜かわいい……。

 顔面が崩壊しそうだった鬱金は立花から目をそらしてベットサイドの椅子に座る。


 立花は紫雲英を気にしているようだ。

「一命は取り留めましたが、今回の怪我以外にも色々と有ったみたいで芹が大喜びしてましたよ」

「大丈夫なのか?」

「妻も一緒でしたから。ああ、立花様は足が治るまで入院です。ついでに精密検査を受けて下さい」

 立花は悲しそうな顔をする。


 鬱金が思わず立花を撫でると恥ずかしそうにしながらもヘヘッと笑う。


 マズイ。非常にマズイ。鬱金は立花にメロメロらしく、妻にからかわれた。

 程々にしなさい、人前では気をつけなさいとか言いながらニヤニヤしていたのだ。


 大体立花も悪い。

 立花は二十歳になった今でもしょっちゅう人に撫でられるが、迷惑そうな顔で諦めたように大人しくしている。しかし鬱金が撫でると嬉しいそうにする。他人にはツンツンの小動物が自分にだけはデレデレで可愛くない訳がない。

 全く以ってタチの悪い性格なのだ。


「よく頑張りました」

 なんとなく取り繕っていると足音が近づいてくる。鬱金が苦笑して場所を空けると、勢いよくドアが開いて棗が現れた。


「たちばなさま……」

「棗無事だった?」

「棗は大丈夫ですぅ〜〜」


 棗は泣きながら立花に飛びつく。立花は骨折した腕が痛そうだ。


「なつめ、いたい」

「ごめんなさ〜ぃ」

「いや、いいよ。こっちこそごめんな?」

「ううぅ〜よかったです〜」

 棗は立花の怪我を避けて抱きつく。


「あいつが助けてくれたんだ」

 立花が紫雲英を見ながらいう。

「だれですか?」

「紫雲英っていう闇の人」

「闇の人なのにいい人です。ありがとうございます」

「うん。たぶん寝てるから」

 棗は立花の顔をマジマジと見る。


「あいつ大怪我なんだ……」

「立花様は?」

「俺は骨折と……」

「捻挫です」

 立花の言葉を鬱金が引き取った。


「そうそう立花様、棗様、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 棗は恥ずかしそうだが立花は意味がわからない。


「立花様、結婚式は二カ月後ですよ?」

「へ? けっこんしき?」

「はいっ!」

 立花が困惑していると、桐生と一ノ方、ニノ方、海棠が現れた。


「棗速すぎ……」

 桐生達は棗に置いて行かれたようだ。


「よー立花ぁ〜無事かぁ〜?」

 言いながら近づいてきた桐生は立花を乱暴に撫でる。

「いたい。痛いです。骨折してます」

「見れば分かるよぅ」

 桐生はしつこい。


「立花ちゃん、あぁよかった。お顔は無事ね。本当によかったわぁ〜」

 ニノ方は号泣している。


 一ノ方と海棠は呆れた様子だ。

「立花、これにサインしろ」

 海棠は立花に書類を見せる。三ノ方の処分が書いてあるものだ。

 立花は目を通すと何も言わずにサインをした。


「いつ出て行くんだ?」

「もういねぇよ。一応領地があるんだからそっちに居るだろ?」

「そっか……」

「ま〜招待状あるからお前の結婚式に来たりしてな〜」

「俺の結婚式って何なの?」

「あれ? 棗さんから聞いてないの?」


 立花が棗を見つめる。

「結婚式は二ヶ月後です!」

「もう決まったの?」

「はい!」

「そっか……」

 立花は何となく桐生を見つめる。桐生はこれ以上ないくらいの笑顔だ。


「棗は頑張ったんだぞ〜。あいつの動きを牽制するのに結婚式の招待状ばら撒いて、護衛の男倒して、え〜と……他にもなんか色々頑張ったよな?」

「はい!」

「うん。そんでその一ヶ月後が俺の戴冠式だから、お前準備頼むな!」

 桐生と棗は輝くような笑顔だ。


「はい? ……戴冠式ってなにをするんですか?」

「知らん! 王都の奴らに聞け!」

「でも俺、謹慎しょぶん……」

「それ極秘任務って説明してあるから。退院したらよろしくな!!」

「うへぇ〜三ヶ月後ですか……」

「立花様、結婚式も忘れないで下さいね?」

「それは棗に任せる……」




 こうして立花がいつも通りの不憫な日常に戻って行くのは、もう少し先の話になる。


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