海老で鯛を釣る
「棗は何してたんだ?」
ようやく立ち直った立花が話しかけてくる。
「お昼に誘おうと思って立花様を探していたんです」
「えっ? なんで?」
「海棠様からの依頼は継続中なんです!」
「なんだっけ?」
「立花様の餌付けです!」
「ああ……」
立花はうんざりした様子で立ち止まる。
「さあ。一緒に食べましょう」
「棗も食べるのか?」
「何か問題でも?」
「すいません、ありません」
立花は畏まって木陰にハンカチを敷き、その隣りに腰を下ろす。
「何?」
「……そういった気遣いは、出来るんですね……」
「ああ、これ? 子供の頃にこういうの教え込まれたんだよ……」
立花は遠い目をしている。
「誰にですか?」
「桐生様の知り合い」
「そうですか……」
なんだか面白くなかったが、棗は大人しくハンカチの上に座りお弁当を広げる。立花を観察して作り上げた自信作だ。
パンに様々具を挟んだサンドイッチを差し出すと立花は大人しく受け取って食べ始める。棗はコーヒーの用意をする。
「美味しい……」
なぜか意外そうに立花が呟く。
それはそうでしょう。培養肉が苦手そうな立花の為に貴重な天然の鶏肉を使用しているのだ、味付けも立花に合わせて激辛だ。
「立花様は培養肉はお嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど……始めて食べたのが学園に入ってからで、臭みがあるから苦手だな。ってことはこれ天然?」
「そうですよ? うちも実家は天然しか食べませんし」
「へぇ〜凄いな」
この星で一番問題になるのが食糧問題だ。野菜などは昔から遺伝子操作が盛んで、今では一本の木から年中色々な種類の野菜が収穫できる。しかし動物性の物に関しては飼育する場所や動物の餌などの問題で、ほとんどが培養でまかなわれている。例外は鶏と昆虫だ。特に昆虫は昆虫科学で産業の様々な所に利用されている。その弊害として、蟲と昆虫が交雑してまった訳だが。
「あれ? 棗は違うの食べてるのか?」
「立花様のは辛すぎます……」
「別に同じでいいのに……」
「そこは、ありがとうで十分です!」
「はい、ありがとうございます……」
棗の笑顔の威圧に立花は素直に従う。
「棗は料理できるんだなぁ……」
「何か問題でも?」
「いえ、違うんです。お姫様は料理なんてなさらないのかと思っていただけです」
「お姫様はお料理しないのでは?」
「棗はしてるだろ?」
「棗は姫じゃありません」
「いや領主の娘は姫だろ?」
「違いますよ! お姫様っていうのはもっと大きな領地の……王女様とかを言うんです!」
「下々にしたらあまり変わらないんですが?」
「じゃあ立花様はお姫様が屋敷の手入れを手伝わされたり、訓練させられたりすると思いますか?」
「ええっと……」
「ほら! だから棗は姫じゃありません。認めません。だから立花様のプリンスも認めません」
「なんだそれ?」
「知らないんですか? パウロニアのプリンスって言われてるの?」
「……知ってるけど……それ悪口だから……」
「悪口だろうと何だろうと、認めません!」
「はい……」
棗が姫や王子に過剰な憧れを抱いているらしいことは立花にも良く分かった。
「そう言えば立花様?」
「何だよ?」
「さっきはなんで絡まれてたんですか? 外交がどうのって聞こえましたけど?」
「そのまんまだよ。外交は担当外なのに北に行ったりしたから……」
「交渉は失敗したんですか?」
「いいや? そもそも失敗するような内容じゃない。ほとんど決まっていた物を詰めて、サインしてきただけだ」
「じゃあなんで失敗したって言われるんですか?」
「それは……」
棗が無邪気に見つめてくる。悪気がないのは分かっているが、嫌な記憶が蘇って来て不快な気分だ。
「なんでだろうな? 俺にも良く分からない」
立花は投げやりに言う。
「そんなことより、俺はしばらく領地に行くから食事の用意はしなくていいぞ」
「そうですか……しばらくってどれくらいですか?」
「さぁ? なんかあるまでは戻らないだろうから……」
「例のパーティの頃ですか?」
「あれ俺も参加すんのか?」
「当たり前です! むしろメインの参加者です!」
「でもあれ、誰がやってるか知らないけど、全然進んでないだろ? 日程も分からないままだし」
立花はどうでも良さそうに呟くが、色々な心当たりがある棗は力説する。
「いいえ、必ず開催します!」
「ふーん。まあなんでもいいや……」
立花は傍観者を貫くつもりのようだった。
棗は知っている。
知っているというか、自ら仕組んだとのなので当たり前だが、実は例のお見合は今棗の兄、蘇芳の手で進められているのだ。
棗は忘れていなかった。兄に幼少期の黒歴史を暴露されていた事件、棗は兄に事情を問いただすと共にささやかな嫌がらせを実行していた。




