6月下旬 四面楚歌
こんばんは。今日もぎりぎりです。
誤字脱字、言い回し等、見つかり次第明日修正予定です。とりあえず投稿します。
寝不足のまま朝を迎えてしまった私は、結局考えがまとまらないまま登校することになった。
……正直今日は休みたい。顔色がひどい自覚はあるし、まともにコミュニケーションがとれるかどうかも正直怪しい。
でも、兄にこれ以上心配かけたくない。
休むなんて言ったらどう思われるだろうと思うと、登校以外の選択肢はなかった。最悪、保健室かどこかで眠らせてもらえばいい。そう思って、必死の思いでやってきたのだ。
「あれ。悠斗は?」
教室へついた私は悠斗を探してきょろきょろした。彼はいつもわたしより早めに登校する。いないはずがないのだが……。
「伊織ちゃん、おはよう。あいつなら、今日は休みだよ」
「っ!」
かけられた声に慌てて振り返る。声の主は総ちゃんだった。
「お……おはよう。総ちゃん。……悠斗、休みなの?」
「うん。風邪こじらせたって言っていたよ。……伊織ちゃんは知りたいだろうと思って」
「そう。ありがとう」
お礼を言って、席についた。そうか、悠斗は休みか。残念。
夢の事もそうだが、色々と相談したいことがあったのだが。
でも、常識的に考えて、調子の悪い人間にする話でもないだろう。体調がよくなって、少し余裕があるようなら聞いてもらおうと思った。
いつも悠斗にはお世話になっている。
協力関係と言いながら、結局こちらの都合ばかり押し付けているのが現況だ。
たまにはゆっくり休んでもらいたい。
仕方ないと一限目の教科書を取り出す。そこで違和感に気が付いた。
――――え? 私、さっき総ちゃんと会話してたよね?
会話をざっと思い返してみる。
何故、総ちゃんが悠斗の欠席を知っているのか。
風邪をこじらせたと聞いたと彼は言った。つまり、本人から直接聞いたという事になる。
悠斗、総ちゃんにINELのIDおしえた? いや、結構悠斗は慎重なところがある。そう簡単に教えはしないだろう。だとすると、非合法的手段?
でもまてよ、あの口ぶりだと悠斗の方から連絡があったっぽい。
え、なにそれ。私が師匠たちに振り回されているあいだに、いったい何が起こったの?
さらには、会話を軽く終了させたにもかかわらず、総ちゃんはおとなしく自分の席に帰って行った。普段なら一度きたら、先生がくるまで離れようとしないのに。
……何? 総ちゃんの中で何の革命がおこったの?
間違いなく、犯人は悠斗だろうとは思う。私ではどうにもならなかった総ちゃんを、悠斗がどう対応したのか非常に気になる。
総ちゃん本人には聞きにくいし、後で悠斗に聞いてみよう。
というか、あの総ちゃんの手綱握れるとかすごいな。ぜひコツを伝授していただきたい。
そうこうしているうちに授業が始まる。ぼんやりと黒板を眺めながら、昨日の夢について考えてみた。
「マスター」の話をまとめると、どうやらこの世界はループするらしい。わざわざ「何周目」と言ってきたから間違いないだろう。
つまりは、ネットのあの説は大当たりということだ。頬杖をつきながら、小さくため息をつく。
ディアス以外のルートをクリアした場合、皆そろいもそろって似たようなエンドになるという話。未来の約束だけして、歌っておわりという中途半端さ。よくある数年後、いや、数ヶ月単位のエピローグすら全くでてこない。
そこから考えて、一時期ネットで出回った噂というのが、ディアス以外のルートをクリアした場合は、3月おそらく中旬から下旬の間に何かがおこり、一年前の4月へとまき戻るのというものだった。
そして公式見解を合わせる。攻略対象者は一人。という情報。
導き出されるのは、4週まわって、5週目のディアスが本命。前の4周も込みで一連の一つの話。ということだ。考えてみれば、ゲームの中でも既視感を覚えたり、中庭が気になったりと、軽くではあるが匂わせる記述はあった。
そうすると、最初から公式のエンディングは2種類しかないということになる。桜エンドと世界崩壊エンド。がっちがちの一本道ではないか。他の人のルートへ行っても、結局まき戻るので、最終的にはどうあがいてもディアスルートへ向かうしかないと。
……それってどうやって逃れたらいいのだろう?
ディアス以外のルートに行ったら、はい巻き戻しじゃ、彼を選ぶまで永遠にループということになる。
ループを逃れたいなら、彼の手をとればいいのかもしれない。
でも、好きでもない男と、一生どころか永遠に一緒とかどう考えても無理だ。いつか好きになるかもしれないが、確約もない賭けにのるほど愚かではない。世界崩壊? そちらだって勿論ごめんだ。
ますます行き詰ってしまった。マスターは私をヴィンスとくっつけたいみたいだから、のんきに笑っていたが、聞いたこちらはそれどころではなかった。
まるで四方八方を全て防がれているような感覚。襲ってきた閉塞感に気が狂いそうになった。
誰かの意見が聞きたい。強く、そう思う。
一人でぐるぐるしていても全く解決策が思い浮かばない。
今何周目かなんて、知らない。
私の感覚ではまき戻ってる感じなんかしない。
一周目でいいんじゃないの? でもヴィンスのルートは開いている。あのオープニングイベントが発生したから間違いないだろう。
なら本当は5周目なの? 記憶にはないけれど、兄や悠斗たちを攻略したの?
それはないと思いたい。
兄は私にとっては兄でしかないし、悠斗だって仲間であり友達だ。それ以上を求めるつもりは全くないし、想像できない。
わからない。
今日ほど、悠斗の意見を聞いてみたいと思ったことはない。他の人には話せない。ヴィンスになんて絶対言えない。この世界へ転生してきた人にしか話せない。
――――蓮
蓮がここにいたら、と思ってしまう。
彼は非常に切れる人だった。何故うちの大学にいたのか不思議なくらい頭のいい人だった。
いつでも私や皆の2歩3歩先を読み、導いてくれた。
蓮なら、助けてくれるだろうか。……きっと助けてくれる。
でもそれは私と引き換えのはずだ。
私を手に入れることができるなら、彼は動いてくれるだろう。
……結局、誰かの手を取らなくては、私は進むことすらできないのか。
自分の心も定まらないのに、その誰かを頼らなければ、生きていくことさえままならないというのか。
情けなくて、悔しくて。
涙でにじむ視界の中、クラスメイト達に気づかれないように、窓の方に視線をやった。
◇◇◇
――――お前は俺を見ない。
勝手に賭けを始めてから、そろそろ二月がすぎる。
相変わらず俺に気が付くことはないようだ。失望感に胸がしめつけられる。
待つと決めているから、俺の方からは何もしないが、お前は相変わらずのようだった。
誠司に口説かれ、ディアスに口説かれ。
……特にディアスには要注意だ。
前世の頃から、格好いい、好みだとお前はうるさかった。
2次元だと分かっていても気分のいいものではなかったが、現実となった今となっては、腹が立つ以外の何物でもない。
……いっそ正体を明かしてしまおうか。
何度そう思ったか。そのたびに、何とか理性を総動員させてこのやりきれない気持ちをおさえこんだ。
……まさかお前、俺を覚えていて他の男に走るなんてことないよな?
俺がいないなんて思っていないよな? お前なら俺が分かるはずだ。俺は一目でお前が分かった。
……一つ問題が発生した。すでにディアスルートにはいっているかもしれないという可能性だ。
もしそうだとすれば、お前はディアスと結ばれるというのか。
ディアスと桜エンド? それこそ永遠にお前を失うというのか?
……許せるはずがない。俺の目の前で俺からお前を奪わせると思うな。
それくらいなら世界なんて滅べばいい。二人で共に死ねるのなら、それはこの上ない幸せだ。世界崩壊エンド、喜んで受け入れてやる。
だが、そうでないならば――――。
お前は、ディアスと生きるつもりはないだろう? そうだよな。だって、お前は俺だけのものだから。
……ああ、大丈夫だ。俺が助けてやる。
お前を助けるのは、昔から俺の役目だ。お前を俺以外の男には渡さない。
そうだ。……褒美がほしいな。
助けてやった暁には、もういちどお前をもらってもいいだろう?
……勿論、お前には応じる以外の選択肢は与えない。
早く俺を見つけろよ。
でなければ助けてはやるが、許してはやらないからな。
賭けをチャラにしたわけじゃあない。
……さあ、お前はどうする? 俺のイオリ。
ありがとうございました。




