5月下旬 公式見解
こんばんは。いつもの時間に間に合いませんでした。すみません。書いてたら、過ぎてた……。誤字脱字結構あるかもしれませんが、とりあえず投稿します。随時直します。
お気に入りのカフェは、学園と家の丁度中間地点くらいにある。
迎えの車を断って、悠斗をそこへ案内した。
古いアンティークをふんだんに使った店内は、非常に居心地のいい空間を醸し出している。
店名は「アフィリア」。紅茶専門店だ。
地味に小学生の頃から通っていた店、常連の中で一番年齢が低かったこともあり、店長さんにはずいぶん可愛がってもらった。ドイツへ行ってからは、行く機会もなくなってしまっていたが帰国を機に、また通いだしたのだ。
「伊織ちゃん?」と久しぶりに入った店内で、店長さんに声を掛けられてうれしさのあまり泣き出しそうになってしまった事は、悠斗には秘密にしておこう。
カランと音を立て、店内に入る。店長と目が合って、その目が後ろに向かうのを見る。
「いらっしゃい。伊織ちゃん。後ろにいるのは彼氏?」
「こんにちは、理玖さん。まさか、違います。仲の良い友人ですよ。同じクラスの今里悠斗くんです。いつもの席、空いていますか?」
私が好んで座る席。入口からは見えにくい場所で、人目を気にする必要があまりないのでとても気に入っている。
「空いているわよ。どうぞ。今里くんも」
ぺこりと悠斗が会釈する。
理玖さんは、30代半ばの落ち着いた雰囲気のある女性……のように見える男の人。
10年ほど前から一人でここを経営している。最初はてっきり女性だと思っていたので、本人の申告によりこの事実を知ったときは、心底驚いた。どうみたって女性にしかみえない。
彼女(と言っておいたほうがよい)のオーケーサインがでたので、いつもの指定席に悠斗を連れて行く。二人掛けの席に座って、ひとまず注文をすることにする。
「悠斗、何がいい? いつも迷惑かけているし、誘ったのはこっちだからおごるよ」
「そういうことなら。何がおすすめだ?」
「紅茶専門店だから、紅茶をお勧めするよ。あと、ここはスコーンが絶品」
ケーキも美味しいんだけど、初めてここのスコーンを食べた時は感動した。
「んー、なら俺はダージリンのセカンドフラッシュをストレートで。あと、そのおすすめのスコーンを」
「時期的には、ファーストフラッシュがおいしいと思うけど」
「ちょっと苦手なんだよ」
「まあ、独特だからね。私は、アールグレイをストレートで、勿論スコーンもお願いします」
注文を取りにきてくれた理玖さんは、にこにこしながら聞いてきた。
「クロテッドクリームでいいのかしら?」
「はい。お願いします。悠斗もそれでいい?」
「ああ」
注文の品が来るまでの間、悠斗は物珍しげに店内をきょろきょろと眺めていた。
「落ち着かない?」
「いや、逆。すごく落ち着く。ただ、こんなところにこんな店があったなんて知らなかったなと思って」
「このあたりの隠れ家的カフェ。私のいきつけ」
ふふふと、頬杖を突きながらこのカフェを発見するに至った経緯を説明してみた。
単純な話だ。迷子。
「迷子になっている伊織ちゃんを発見して、迎えが来るまでこの店で保護したのが私」
いつの間にかやってきた理玖さんが、私の言葉を引き継ぐ。
「それ以来の付き合いだから、もうかれこれ10年近いんじゃない?」
「確かあの日は、このお店の開店初日だったんですよね」
「まさか、開店初日に迷子の女の子を保護することになるとは思わなかったわ」
「……あの時はご迷惑をおかけしました」
さぞや扱いづらい子供だったことだろう。紅茶に目を輝かせるような6歳児なんて私だっていやだ。
「いいえ。第1号のお客様が、かわいらしい紅茶好きの女の子でとても嬉しかったわ」
「理玖さん……」
ゆっくりしていってね。と厨房に下がっていった理玖さんが男前すぎる。
悠斗はといえば、すっかり理玖さんに見惚れていた。
「悠斗、理玖さんは男の人だからね」
「な? マジで?」
一応注意しておくと、やっぱり勘違いしていたらしい。非常にがっかりした様子をみせた。
「すっごい好みだったのに……。はあ」
「年上趣味?」
「違う。目の保養」
「それなら、性別なんてどちらでもいいじゃない」
「そういう問題じゃない」
男心は難しいのかもしれない。私にはよくわからない。美人さんなのだから、どちらでもいいと思うのだけどな。
「で、どう? この店のスコーンと紅茶は?」
「すっげーうまい。なんかはまりそうかも」
賛同を得られて嬉しくなる。
「でしょ。気分転換したいときにもうってつけだよ」
「だな」
しばらく二人紅茶とスコーンを楽しむ。一通り片づけてから本題に入った。
私たちの周りには他の客はいない。理玖さんも厨房に下がっているようだが、一応小声で話すことにした。
「今日の本題なんだけど……」
「ああ。なんか思い出したって言ってたな。あの姉ちゃんが言ってた公式見解ってやつだって?」
悠斗の確認に頷いてみせた。死の記憶が戻った時、そのことも一緒に思い出したのだ。
「そう。といっても大した話じゃないよ。だから後回しにしていたわけだし。ただ、悠斗とはきちんと情報共有しておいた方がいいかと思って」
「そうだな。また別の何かがでてくる可能性もあるしな」
言葉を切って私をみた。
「で?」
「うん。公式見解は、イベント当日の午前0時にネット上で発表されたの」
記憶にない? と聞くと、悠斗は首をひねった。
「姉ちゃん騒いでたのって、あれイベント前日の夜ってことか。言われてみればそうかもしれない。発表がどうのこうのってその前から結構うるさかったし、発表があった日はそれこそ一晩中騒いでた。イベント中もずっと周りの作家仲間と話してたな」
「色々謎の多いゲームだったからね。プレイヤー同士で推測は立てたりしていたけど、情報が少なすぎた。公式ではファンブックすらでなかったから。それがイベント当日の午前0時に発表するって一週間まえくらいに突然告知があって、ネットのファンの間では、結構な騒ぎになったの」
私もその一人だ。
「内容は?」
「ああ、うん。一文だけ。『このゲームの公式攻略キャラは一人です』って」
「一人?」
分からないという風にいう悠斗に説明する。
「『ドラプリ』って隠しキャラ含めて5人攻略キャラいたでしょ。あれが、5人ではなくて実は1人でしたっていう話、みたい」
「すまん。意味が分からん……エンディングとか他4人にもあったよな?」
「あった。でも、色々これはおかしいんじゃないかとか、バグじゃないかとか、かなり叩かれていてね。時間かけて攻略しないといけないわりには、たどり着いた各4人の恋愛エンディングはほぼ同じような終わり方だったり、歌だってあれだけ用意されているのに何故かエンディング曲だけは同じものを使い回しだったりで。まるで手抜きみたいだって。覚えてない?」
苦労してプレイしていただけに、あの画一的な終わり方は納得できなかった。
「言われてみれば、どれも確かに似たような終わり方していたな。3月末頃、桜の木の下でヒロインと攻略キャラが未来を誓い合う。その後ヒロインがそのキャラの為だけに歌を歌って終わりみたいな。それがエンディング曲だったよな。隣に座って彼女の歌を聞いているのが、攻略した各キャラ。んで、その歌に反応するかのように一斉に桜が開花。桜であふれる学園全体が映り、タイトルが出てシステムセーブ。間違っているか?」
「あっているよ。キャラが変わっても、セリフやスチルがかわるくらいで構成は全く同じ。私はディアスルートがしたかったからそこまで気にしなかったけど、各キャラのファンはかなり怒っていたな」
「そりゃおこるだろうなあ」
「その分、何故か二次創作の方が爆発したんだけどね。不満を原稿にぶつけた……らしい」
「成程」
納得したという悠斗に続けていい? と聞く。頷いたのを確認して口を開いた。
「そういう中での、公式見解だった。その一文から推測がとびかったけど、一番多かったのが、全部ひっくるめてディアスルートっていう説」
「ん?」
「確かに、説明書とかにも登場人物紹介とはなっているけど、どこにもあの4人が攻略キャラとは書いてないんだよね。ディアスはその紹介にでてもこない。プロモにちらっと出てくるのみ。ゲームのシーン回想だって各キャラ個別に分かれていなくて、見にくいってかなりクレームになっていたし。何より、4人を攻略した時にはエンドマークがでない。ディアスを攻略したときにはでるのに。つまり、製作者側は4人を攻略キャラとして設定していなかった。ディアスルートに至るための通過点という扱いじゃなかったのかっていう説が一番有力なの。ディアスの外に4人いるように見せかけたのは、本当は1人だということを隠すためのブラフ。どう考えても、攻略キャラが一人だけだなんて乙女ゲーとしては間違っているからね」
あくまでも、有力な説にすぎないけど、と注釈を入れることは忘れない。確定というわけではないのだ。
「それが私の思い出した公式見解の話とプレイヤーたちの推測」
それを証拠づけるもう一つの説もあるのだが、あまりにも荒唐無稽すぎて話す気にもなれない。もしそれが本当なら回避のしようがないからだ。
「つまり、公式では攻略対象はディアスだけってことか?」
「そうみたい。どう考えても他のキャラと扱いが違いすぎるし、一人だというのなら彼で間違いないと思う」
「……それって今の状況とどう違うんだ?」
不思議そうに聞く彼にだよね、と言った。
「だから、あまり大した話じゃないよって言った。元々の目的がディアスルート回避であって、他のキャラを攻略しようって話じゃないし」
攻略キャラが彼だけだと言われたところで今更やることは変わらない。むしろ彼しかいないというのなら、他を気にしなくていいのだから気が楽になるくらいだ。
でも、さすがにそういうわけにもいかないだろう。ここはゲームじゃない。現実世界だ。本当にディアス一人が対象とは限らない。
だから問答無用でディアスルートなんてことには絶対ならないと思うけど、言い換えれば他のキャラたちも、攻略キャラじゃなかったからと言って無視するわけにはいかないってことだ。
「だな。まあ、公式見解については分かった。結局今まで通り、ディアスルートを攻略しないように気を付けようってことでいいよな」
ごちそうさん、そういって立ち上がる。
私もうなずいて席を立った。
「方針に変化なし、そういうことで」
まだ、疑問はあるが考えても仕方のないことばかりだ。はっきりわかっていることから対処していくしかない。次の手は、また何か起こったとき考えよう。
お会計を済ませた私たちは、店の前でそれじゃあ、といって別れた。
まだ、隠し要素は色々残してあるので、「ここ、つじつま合わない。おかしい」とかのつっこみ入れたい部分はそっとしといてください。多分そこが隠し要素です。数か所ありますので。ありがとうございました。




