6月中旬 遊園地へ行こう
こんばんは。ちょっと文字数多くなってしまいました。
宜しくお願いします。
6月に入った。少し早目の梅雨入り宣言があり、晴れたり曇ったりの微妙な天気が続いている。今日も雨が降ったりやんだりの、どうにも外に出づらい天候で、せっかくの土曜日だというのに、家でくすぶっていた。
全くもって退屈だ。色々やらなければいけないことはある。あるがなんだか気分がだれてしまって何もする気が起きないのだ。だらだらとベッドに転がり雑誌を眺めていれば、私の退屈を感じ取ったのか携帯が電話の着信を表示した。手を伸ばして携帯を取る。相手は誠司くんだった。
「もしもし、誠司くんどうしたの?」
遠慮するような相手でもないので、だらっとした気分のまま電話に出た。
電話なんて珍しい。いつもはたいてい兄を通すか直接話してくるのに。
「伊織か。いや……今大丈夫か?」
「うん。暇していたから、全然オーケーだよ。何?」
要件を聞くと、電話の向こうで誠司くんがちょっと詰まらせたのが分かった。
ん? 何か緊張している?
「――――あのな、奏の父親が経営している遊園地。お前行きたいって言っていただろ。さっき奏からチケットを二枚もらったから、よかったら一緒にどうだ?」
「……遊園地?」
復唱するとそんなに意外か。と耳元で苦笑する響きが聞こえた。
私はと言えば、意外というよりは驚きのあまり二の句が紡げなかっただけなのだが。
そう、私のこの驚きからもわかるように、誠司くんのさっきのセリフ、あれは彼を知っている人間にとっては、かなりの驚愕ものなのだ。彼はかなりの面倒くさがり屋で、それこそ無理やりにでも連れ出さない限り必要最小限以外、自分から外へ出ようとしない。唯一の例外は兄や私がいるときのうちの家くらいだが、それでも屋内には違いない。
その誠司くんが私をわざわざ外の『遊園地』に誘ったということに驚いているのだ。
というか、考えてみれば外に誘われたこと自体初めてだ。
「興味がないようなら他の奴にでもくれてやるが……」
「ああ、待って。行く行く。せっかく誘ってくれたのに行かないわけないよ」
なかなか返事をしなかったので、私が断ると思ったのだろう。別の人にあげるという誠司くんにあわてて了承の返事をする。誰がそんな勿体ないことするか。
「そうか。ならいいが。日にちはいつがいい?」
「私はいつでも。ちょうど明日は晴れるみたいだし、明日でもいいよ」
「俺も問題ない。では明日だな。10時ごろ迎えに行く」
そう指定する誠司くんに難色を示した。あの遊園地は、絶叫系の乗り物が非常に多い。どうせ行くなら、本気で全部回りたい。
「それじゃ遅いよ。行くと決まったのなら絶叫系全制覇したいから、オープンと同時に入りたい。それとも駄目?」
聞いてみるとため息をつかれた。
「……そういえばお前は絶叫系が大好物だったな。分かった、9時だ」
「私が絶叫系好きだって、もしかして兄さんに聞いた?」
誠司くんに直接言った覚えはない。どうも最近兄は妙に誠司くんの肩をもっているような気がするし、色々情報を流されているのかもしれない。兄よ、あなたは妹をどうしたいのですか。
「さあ、どうだろうな……ところで伊織。大事なことに気が付いているか?」
「何? もしかして兄さんも一緒に行くの? チケットって二枚って言わなかった?」
「そうじゃない。……俺はお前をデートに誘ったんだ。その辺りきっちり理解した上で、明日は待っているようにな」
じゃあな。そういって、一方的に電話は切れた。
ツーツーと耳元で通話終了音が数回鳴り、消える。
しばらくその体制のまま熟考した。まじまじと携帯を見る。
『デート』そう言いましたか。
そういえば、口説くとかおっしゃいましたね。誠司くん。その一環ですか、このお誘いは。
もしかして私とデートするために、わざわざ奏さんからチケット譲ってもらったのかな。普段は自分から外になんて絶対出ないくせに、重い腰をあげて誘ってくれたのかな。
考えていたら、なんだかすごくくすぐったいような気持ちになった。
それに我慢できなくなった私は、ベッドの上で奇声をあげながらごろごろと転がりまわってしまったのだった。
◇◇◇
日曜の朝は、予報どおりの快晴だった。いつもよりも早めに起きて、用意を整えていく。今日は遊園地へ行くから、パンツスタイルを選んだ。動きやすさ重視でスニーカーも揃える。そうやってぱたぱたと準備していると、いつの間にか兄が様子をみにやってきていた。
「伊織、おはよう。今日は日曜だというのに早いね。おでかけかい?」
「おはよう。兄さん。うん。今日は誠司くんと遊園地に行くの」
「誠司と……遊園地?」
驚愕の表情で兄が固まった。
まるで昨日の私のようだ。
「今、ありえない単語の組み合わせを聞いたような気がするよ。もう一回聞かせてくれ。……あの、誠司が遊園地に行くと言ったのかい?」
それはすごいねと真剣な顔をする兄に首を縦にふる。
「私が誘ったんじゃないよ。恐ろしいことに、誠司くんからの提案なの」
「……それはますます天変地異の前触れだね」
あの面倒くさがりがわざわざ休日に自分で用事を作ったのか、という兄に頷く。
「そうなの。もうびっくりしちゃって。あまりにも希少なお誘いだったから、即座に頷いちゃったよ」
というか、兄さん知らなかったの? と聞けば、まさかという顔をされた。
「誠司だって、いちいち私に報告したりしないよ」
「なんか、兄さんなら誠司くんの行動を把握していてもおかしくないかなって思っちゃって」
最近、私の情報も筒抜けのような気がすると、すねたように言えば気のせいだよと躱された。絶対嘘だ。
「せっかくなのだから、楽しんでおいで」
笑顔で送り出されれば、私も頷かないわけにもいかない。
丁度チャイムが鳴った。お迎えが来たみたいだ。
「うん。いってきます」
そう言いながら思い出す。遊園地デートイベントって、本来なら兄のルートで発生するイベントだった。誠司くんのルートにはなかったはず。勿論、ゲームと全然流れが違うから、これがイベントでないことは分かっているが、ついふと考えてしまった。別に兄を攻略する気なんてない。でも
「……今度は兄さんと一緒に遊園地行きたいな」
兄と一緒に遊園地。妹として是非とも発生させたいイベントだ。
伊織のお願いなら叶えなくちゃねと言ってくれた兄に大きくうなずく。
楽しみにしていると笑顔で答えて、私は家をでた。
「ああ、きたか」
「お待たせ」
急いで外に出てみれば、カジュアルな服装に身を包んだ誠司くんが、こちらを見て微笑んだ。相変わらずのイケメンぶりに感嘆のため息がでる。私にとっては、兄や誠司くんは目の保養だ。
「おはよう、伊織。今日は晴れてよかったな」
車にエスコートしてくれる彼に挨拶を返し、後部座席に座る。遊園地まではここから1時間弱だ。車内では生徒会の話や、定期考査の話で盛り上がった。
「3年の1位はやっぱり兄さん?」
不満気に肯定する彼に思わず笑いがこみ上げる。
「何がおかしい。あいつのおかげで、俺は万年2位だ。納得いかん」
「あ、一応勝とうとはしてるんだ」
「あいつが天才って奴なのは分かっている。だからと言って、戦わないという選択肢は違うだろう?」
誠司くんのこういうところ、本当に好きだ。多分兄もそうなのだろう。2人が親友である一端を見た気がする。
「教え方では、完勝だったよ」
「里織のあれは教えるとは言わない。そう思っているのは本人だけだ」
「聞くんじゃなかったと後悔した」
俺もやったという誠司くんと顔を見合わせて笑う。
楽しい気持ちのまま、遊園地に到着した。
車から降りて、入口を探す。迎えは閉園時間でお願いした。隣の誠司くんはどこまで本気で乗るつもりなんだと呆れていたが、誘ったのはそっちだ。付き合ってもらおう。
丁度オープンする直前の時間だった。私は手に入れた遊園地のマップをしっかり頭にたたきこむように覗き込んだ。それを誠司くんが横からさっと奪い取る。
「何するの。計画たてていたのに」
「方向音痴が無駄な事をするな。どこへ行きたいんだ」
地図を示しながら私に聞く誠司くんに、テンションが上がった。
「連れていってくれるの?」
「お前に任せていたら、1日かかっても予定を消化しきれない」
くっ。痛い所をついてくる。なまじ否定しきれないのが更に嫌だ。少しむすっとしながらも、最初に行きたいアトラクション名を告げる。
「このバックスピンアタックっていうアトラクションが乗りたい」
「名前からしてまたハードなものを……」
やれやれと言いながらも地図を見て計画をたて始める。私はその横で、これが乗りたいだの、次はこれだの希望を述べるだけ。一緒になって地図を覗き込めば、邪魔だと怒られた。
「あ、誠司くん。開園時間だよ。早くいかないと最初から躓いちゃう」
くいっと、誠司くんのシャツの裾を引っ張る。正反対の方向へ走り出そうとした私を捕まえて、誠司くんは「こっちだ」とため息をつきながら案内してくれた。
◇◇◇
「あははは」
楽しくて仕方がない。あれから私たちは、全ての絶叫モノを制覇するべく、駆けずり回った。予約チケットがあるので、それを使って効率よく回っていく。
誠司くんは実に根気よく付き合ってくれた。さすがに絶叫系ばかり、5連続乗った時には渋い顔をしていたが、それでも諦めたかのように並んでくれた。
出不精の彼が、まさかこんなに付き合いがいいとは思っていなかったので意外だ。
次の予約時間まで少し間があいたので、今は小休止中。ベンチに座ってお茶を飲んでいた。時間は2時過ぎ。ノンストップで走り回っていたのでさすがに少し疲れた。
「お疲れ様。誠司くん。大丈夫?」
隣で、額を押さえてうつむいている彼に声を掛ける。よくよく見ると息が荒い。顔色も少し悪いようだ。
「……大丈夫だ。少し時間があるだろう。休憩すれば何とか」
スポーツドリンクをあおりながら、自分を鼓舞するかのように息を吐く。
こちらを見ながら、疲れたように笑った。
「しかし、伊織は元気だな。俺の方が先にばてるとは思わなかった」
「好きなものだからね。でも多分帰ったら倒れると思う。明日学校行けるかな……」
そんな感じがする。大丈夫かなあと明日の心配をする私に、誠司くんは「子供みたいだな」と言った。
「まだ15だもの。子供だよ。だからいいの」
……本当は50歳だけど。考えたらいい年した大人がはしゃぎまわっているっていう……想像したら痛すぎて泣ける。
うわあ、と思いながらも鞄を漁った。今日は比較的大きめのトートバッグを持ってきているのだ。
はい。と言って取り出した包みを渡す。
「なんだ?」
「おにぎり。こうなることは予想できたから、作っておいた。気分悪いなら少しおなかに食べ物入れた方がいいよ。空腹だと余計気持ち悪くなるから」
「……伊織が作ったのか?」
渡されたお握りを凝視しながら誠司くんが問う。はい、朝早起きして作りましたけど。前世は主婦だ。料理は一通りなんでもできます。
「そうだよ。いらない?」
「いや。もらう」
取り返そうとすれば、ひょいっとかわされた。そのまま、包み紙をはがして口に入れる。
「……うまい」
「そう? それならよかった。たくさん作ってきたから好きなだけ食べて」
本当にお握りしか作ってないけどね。その代り具は種類を豊富に作ってみた。きっとベンチで食べることになると思ったので、余計なおかずは作らなかったのだ。お箸がいらない方が食べやすいだろうという予想は見事大当たりだった。
しばらく無言でお握りを食べる。今日は、少し気温が高く、ベンチでお昼を食べているとじんわり汗ばんでくる。冷たいお茶を飲んで周りを少し観察すると、道行く人が皆誠司くんに見惚れていた。
「相も変わらず、老若男女問わずにモテモテだねえ」
隣に並ぶのが辛いわと言えば「そうか?」と首をかしげてきた。
「お前も大概人目を集めていると思うが」
「冗談。誠司くんほどではないよ」
見目は悪くないと思ってはいるが、兄さんや誠司くんと比べる気にはなれない。二人をみても全くうらやましいとは思わないが。むしろ、わずらわしいこと多そうで大変ね、としか思えない。
「俺や里織は慣れているからな」
「慣れる必要があるというのもなんだかな」
言いながら、立ち上がる。
「じゃ、誠司くん。お腹も膨れたことだし、午後の部もお付き合いいただけますか?」
誠司くんは、苦笑しながらもうなずいてくれた。
◇◇◇
遊園地の閉園時間は20時だ。
結局19時半まで、ひたすらアトラクションに並んで、乗ってを繰り返した気がする。
おかげで、予定の乗り物は全て消化。誠司くんには感謝してもしきれない。
「うーん。これで大体消化かなー。ありがとう誠司くん。ミッションコンプリート!」
Vサインをつき出せば、誠司くんはやっと終わったかという顔で天を仰いだ。
「後は、特に乗りたいものもないしお土産見つくろいつつ、帰ろうか」
「伊織」
くるりと背中を向ければ、肩をつかまれた。
「大事な乗り物をわすれてはいないか?」
「ないない。全部乗った。私は大変満足だよ。うん、だから帰ろう」
「俺は今日、随分と伊織のわがままを聞いてやったように思うが。一つくらい俺の希望を叶えてくれてもいいんじゃないか?」
そう言って、ちらっと見上げる先には観覧車。夕方すぎたくらいから、誠司くんが妙に観覧車を意識していることには気が付いていた。あんな、密閉空間に二人きりとか無理です。断固回避。そう思ってみて見ぬふりをしてきたのだが、流されてはくれなかったようだ。
ほとんど引きずられるように、観覧車に連れて行かれる。なけなしの抵抗も簡単に無視され、順番のきたゴンドラにぽいっと放り込まれた。
「往生際が悪いぞ」
窓に張り付くようにして、誠司くんから距離をとる私に意地悪くいう。だって、観覧車だよ。乙女ゲーだろうが、ギャルゲーだろうが、アニメだろうが、全てにおいての鉄板のラブイベントスポットじゃないか。私には敷居が高すぎる。
「別にとってくいやしないから、落ち着け」
「う、うん」
恐る恐るゴンドラのベンチに座る。誠司くんが外を指さす。
「伊織、ほらあれ見てみろ」
「うわあ」
誠司くんの示した先には、パレードの光がみえた。
「お前、せっかく来たのにパレードには全く興味がなかったみたいだからな」
こうやって、上から眺めるのもいいものだろ?という誠司くんに無言でうなずく。
光の列が長くうねって、幻想的な風景をかもしだしていた。
「綺麗」
うっとりと呟くと、誠司くんの笑い声が聞こえる。
「そんなに気に入ったのなら、パレードもチェックすればよかったのに」
「……存在自体すっかり忘れてたの。絶叫モノに気を取られすぎたなって現在反省中」
満足いくまで眺めてから、改めて座りなおす。正面に誠司くんは座っていた。
「満足したか?」
「うん。ありがとう」
これを私に見せる為に観覧車に乗りたかったのか。誠司くんは思いやりを示してくれたのに、バカみたいに警戒して申し訳なかったなと思う。
そう思っていたら、誠司くんがくすっと笑った。
「伊織」
「ん?」
何と首をかしげれば、誠司くんはさらに笑う。
ちょいちょいと手招きされたので、素直に近づいた。
隣をぽんぽんと叩かれたので、座る。
「俺は今日、かなり頑張ったと思う」
唐突に話し始めた誠司くんに目を向ける。……まあ確かに、誠司くんは色々と頑張ってくれた。そこに疑問の余地はない。だからこくこくと頭を縦にふった。
「だから、伊織。ご褒美をくれないか」
「は?」
「頑張った俺にご褒美をくれ。伊織」
誠司くんの笑みはもっと深くなった。私は突然の話に全くついていけてない。この人は何をいっている。
「ご褒美って」
「そうだな。遠慮して、頬にキスでいい」
簡単だろ? そう言って自分の頬をここだという風にとんとんとたたく。
……どうやってこういう話になったのか。警戒して悪かったと思った私の謝罪を返せ。
「は? なんで」
「頑張った奴には褒美が必要。そうだろう?」
いや、そうかもしれないけど!
「……誘ったの、誠司くんじゃない。ご褒美をねだるのおかしくない?」
低い声で呟けば、今度こそ誠司くんは声を上げて笑った。
うわ、からかったな!
「ははは。やっぱり引っかからないか。上手くいけばキスしてもらえるかと思ったんだがな」
「ひどい、誠司くん」
ぎっと睨みつけるも、全く効果がないようだ。まだ笑っている。
「せっかく観覧車に乗ったんだ。伊織も期待していたようだし、なら期待に応えてみようかと思ってな」
「期待なんてしてないから!」
「わかったから落ち着け。もう着くぞ」
誠司くんに言われて周りを見れば、ほとんど下までゴンドラは降りてきていた。息を整え、無理やり落ち着かせる。
係員がドアを開けてくれて、立ち上がろうとする。隣にいた誠司くんは、その隙を逃さずすっとそのまま腕を引いた。立ち上がれず、バランスを崩した私はそのまま彼の腕の中に落ちる。時をおかず、そっと彼の唇が私の頬に触れる。
「!」
驚きのあまり、頬を押さえて目を見開く私に、誠司くんはしてやったりといった表情をみせた。
「今日俺に付き合ってくれたお礼だ」
想定外の事態に、言葉もない。ふらふらしながらゴンドラを降りた私は、振り返って諸悪の根源である、観覧車を睨みつける。
何がお礼だ。やっぱり、観覧車は危険ラブスポットなんじゃないか……。
なんだか、妙な敗北感を覚えながら誠司くんに連れられて、その後はまっすぐ帰途に就いた。
昨日の感想の返信は明日になると思います。すみませんがご了承ください。
いつもありがとうございます。




