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俺達の恋は、浮気と呼ばれる。  作者: 五月雨恋


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2/2

芽依はイエローヌバックを愛している。

「じゃあさ……私が智樹の家に泊まったら、どうなるのかな?」

「……え?」


 その言葉の意味を探ろうと考えた矢先――机の上で、スマホが短く震えた。

 

 <<メッセージ:芽依(めい)>>


 二人同時に俺のスマホを覗き込む。画面に映った名前を見て、俺と青路は何も言わずに視線を交わす。


「彼女から来てるよ?」

「……分かってる」


 俺は杏仁豆腐から手を離し、スマホを手に取る。

 

『今日友達に美味しいケーキ屋さん教えてもらってん!』

『ケーキ持って、お家に行っちゃダメかな……??』

『一緒に食べたいなって』


 メッセージに続いて送られてきたのは、ケーキの箱を持ってポーズをとる芽依(めい)の姿だった。


「……いや、もう買ってるじゃん」

「何を??」


 思わず口を突いて出た俺のツッコミに、青路が杏仁豆腐を食べながら答える。


「ケーキ」


  俺がスマホ画面を向けると、青路は食い入るようにそれを見つめる。

 

「……え、買えたの? ここ、すっごく並ぶんでしょ?? 補充のタイミングも公開しないし」


 ほうほう、そんなに美味しいのか。


「俺にはこのケーキがあるから。定食の杏仁豆腐はそのまま、青路にくれてやるよ」

「彼女の功績で偉そうにして……恥ずかしくないの?」


 青路はしかめっ面で、杏仁豆腐を口に入れた。


 * * *


 午後の講義は無いので、昼ごはんを済ませた俺は青路と別れて駅へ向かう。


 待つこと数十分。出口の階段から吐き出される人混みに混じって……栗色のウェーブボブがフワフワと揺れていた。


「ごめんっ! 遅くなったぁ~!!」

「なってないよ。連絡通りに着いてるじゃん」


 芽依(めい)こと――俺の彼女、黄瀬 芽依(めい)は華奢な身体に大きなリュックを背負い、ケーキの箱を慎重にぶら下げて『ゴッゴッゴ……』と足音を立てて駆け寄ってくる。

 目の前で立ち止まった芽依(めい)は、俺を見上げてニッコリとほほ笑む。


「トモ君、聞いて? ……リュックサック、めっちゃ重い」

「うん、足音で分かった」


 んふーと笑う芽依(めい)は、ブーツ(イエローヌバック)の踵をゴンゴンと鳴らす。


「その靴も重いだろ」

「暑くなったら履けへんし、少しでも履いておきたいやん? 似合ってるやろ?」


 そう言って芽依(めい)は両手を広げてアピールするけれど。……足に注目させたいなら、そのポーズはたぶん違う。


「似合ってるし、可愛いよ。とりあえずリュック貸せ。持つから」

「いいの? トモ君、おっとこまえー♪」


 芽依(めい)のリュックサックは予想より軽かった。


 そんな彼女を自転車のサドルに座らせて、俺が横からハンドルを持って押す。変な体勢で駅からの道を歩き出すと、風に揺れるウェーブのかかったボブが、彼女の頬にふわりとかかる。

 

「……いきなり誘って、ゴメンな」

「全然いいよ。というか、そんなに遠慮しなくて良いから」

「ううん、トモ君違う(ちゃう)で。これは遠慮やなくて、彼女としての配慮というもんやねん」


 芽依(めい)はそう言って、俺が背負う自分の鞄に目をやる。


「……やっぱこれ、ウチが背負った方が良くない?」

「いや、バランス崩すと危ないからダメ」


 冒頭の通り、俺たちは変な状態なのである。芽依(めい)は俺と自転車、交互に目をやりハッとしたように口を開いた。


「今のウチら、将軍様みたいやね?」

「……ごめん、よく分からない。どういう事だ?」


 俺の理解は全く進んでいないが、彼女は自分で言ってツボに入ったらしく、笑いを堪えきれずに吹き出した。

 ……いや、早く解説してくれ。

 ひとしきり笑った芽依(めい)は、妙に真剣な顔で解説を始める。


「まずな、この自転車が馬やとするやろ?」


 一人暮らしを始めてから買った、中古の自転車は馬らしい。


「で、うちが将軍様。馬に乗ってる」


 自転車だけどな。


「トモくんが……えっと……あれ? 何て言うんやろ?」


 将軍の馬を引く人か? なんだっけ……馬廻りだったか?

 一緒になってしばらく考えていると、芽依(めい)は首を傾げつつ俺を見た。


「……奴隷?」

「なんでやねん」


 二人揃って笑う。奈良出身の母の影響で、芽依(めい)の関西弁はどこか中途半端だ。そんな彼女の口調が、日常の中でジワジワと……俺に感染してきている。


「あ、でもな? トモ君」

「ん?」

「『なんでやねん』のイントネーションが違う」

「そうなん?」

「それも違う」


 俺は家に着くまで、関西弁講座を受ける羽目になった。


「何で言えへんの!? おかしない?? 普段もしかしてウチの話聞き流してる!?」

「聞き流してない。芽依(めい)だって、変なイントネーションの標準語になるだろ? それと一緒」


 芽依(めい)は真顔でボソリと言う。

 

「……え。私、標準語ちゃんと話せてないの?」

「話せてへんで?」


 俺たちは、エセ標準語と、エセ関西弁のカップルらしい。

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