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第二.五章商会飛躍編 第38話「その間起きたこと1親衛隊結成」

あらすじ

清王朝初期、王朝拡大に大きな影響をもたらした摂政王ドルゴン。

徳川家康の孫にして、豊臣秀頼の正室・千姫。

権力の絶頂期に若くして急死したドルゴンと、

大坂夏の陣で落城寸前だった千姫は、

突如見知らぬ世界へと身一つで飛ばされる。

そこから成り上がる二人の物語。


千姫とドルゴンは策を巡らせて、ハルトマン商会を掌握する。

王宮の奥にあるという帰還の鍵を手に入れるために、

二人は王宮に近づくために商会を大きく飛躍させるべく動く。


主な登場人物

ドルゴン:清朝初期の権力者・摂政王

     ハルトマン商会番頭に就任

     ダルガではフルシヤンと呼ばれる。

千姫:徳川家康の孫・豊臣秀頼の正室 猫かぶりのお姫様

   孤児の才女サラとして、商会長屋敷に潜入中⇒ハルトマン商会を乗っ取り商会長となる

フカ:逃亡奴隷、ドルゴンにフカと名付けられる

河野:ドルゴンの部下となった日本人女性 人の醜聞を覗くことが生きがい

ヨアン:妹を買い戻すためにドルゴンの部下となった元丁稚の少年 

エルドリン:繁華街で火起こしの術を披露している大道芸人 ダルガの食客

ルーヴァ:エルドリンの孫 聡明な頭脳と術師の血統を持つ

ブリギッタ:ダルガの管理人となった老婆

オズヴァルト:商会倉庫の荷役統括⇒倉庫長

ミルガ:娼館の呼び込みにして、自称街の情報屋

ラドウィン:小所帯の傭兵部隊の隊長

コンラート:孤児の子供たちを率いる獣人の少年。護衛としてドルゴンの部下になった。


ラナ:狼族の美しい少女 千姫直臣

マナ:ラナの母親

ミナ:ラナの妹



主な用語

ハルトマン商会:千姫、ドルゴンが奪った商会

正社員:幹部

準社員:従業員


ダルガ:ドルゴンの屋敷、転じてドルゴンの私的組織

術わざ・奇跡の術:体内の血肉を違う形に変換する術のこと。街の人たちからは魔法と呼ばれる


「親衛隊結成」


話は、コンラートたち路上の孤児がドルゴンの配下に加わった直後まで遡る。


コンラートの仲間たちは獣人の子供が中心であったが、その中には人間の子供も一部混じっていた。

そのことは、種族の違いを越えて仲間をまとめ上げたコンラートの統率力の高さを物語っていた。

ドルゴンは、コンラートたち子供へダルガの一室を与えた。

だが、その部屋は子供たち全員が暮らすには手狭であった。


ドルゴンは、「いずれ子供たち全員が暮らせる家を用意する。それまではしばらく我慢せよ」とコンラートへ伝えた。


その言葉を受けたコンラートは、子供たちの中でも年少の者や体の弱い者を優先して、まずはダルガの部屋へ住まわせることにした。


コンラートは、ドルゴンの護衛を務めるという約束を果たすため、自身を含め、

子供たちの中から素質がありそうな者を親衛隊候補として選び出した。


コンラートたちの訓練は、ドルゴンの命を受けた傭兵隊長ラドウィンが個人的に定期的な指導を行った。

訓練はダルガの一室や城外の森などで繰り返し行われていった。

その内容は容赦のないものであったが、子供たちは自分の頑張りが仲間たちの生きる糧になるという意識と、

何よりコンラートが精神的な支えとなることで、厳しい訓練に耐え続けた。


そして、ある週末の夜――

ダルガの一室へ、コンラート率いる親衛隊ボーイは、訓練と称して集められた。


そこには、コンラートたちが見たことのない、美しい獣人の少女が一人立っていた。

少女は姿勢を正し、清潔で品のある服装を身にまとい、その体からは微かに心地よい香りが漂っていた。

その姿は、獣人から想像されるものとはかけ離れた、どこか浮世離れした雰囲気をまとっていた。


コンラートたちはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて、


「姉ちゃん誰だよ」、「お姉ちゃん誰?」


と、次々に少女へ問いかけた。


「あたいはラナだよ。あんたたちこそ誰だい」


ラナと名乗った少女は、先ほどまでの凛とした立ち姿からは想像もつかない下町言葉で、コンラートたちへ問い返した。


「俺はコンラートだ」


「ニル」、「エマ」


と、子供たちも順番に名乗っていった。


互いの名乗りが終わると、コンラートはラナへ尋ねた。


「ラナ姉ちゃんは、なんでここにいるんだ?」


ラナは少し困ったような表情を浮かべた。


「あたいは……ここへ行けって、お千に言われたんだよ……あんたたちは、なんでここにいるんだい?」


ラナ自身も、ここへ来た目的を十分に理解できていない様子で、逆にコンラートたちへ問い返した。


「俺たちは……」


コンラートが答えようとした、その時であった。


部屋の入口に一つの人影が現れた。


「元気そうだな、コンラート」


その声を掛けた人物は、ドルゴンであった。


「フルシアン!」


コンラートは間髪入れずに合図を出した。

その合図と同時に、子供たちは一斉に列を整え、気を付けの姿勢を取り、ドルゴンを迎えた。


「ラドウィンは、しっかり教育をしているらしいな……皆、楽にしてよいぞ」


ドルゴンはそう言って手で合図を送った。


子供たちはその言葉を受けて姿勢を緩めていった。


続いて、ドルゴンはラナへ視線を向けた。


「番頭さん?……どうしてここに?」


何も聞かされていなかったラナは、ドルゴンが現れたことに驚き、そして子供たちが規律正しくドルゴンを迎えたことに驚いていた。


ラナは、商会長である千姫に付き従う形で何度も商会の本館を訪れており、商会長室では千姫の傍らに立つことが多かった。

そのため、商会の番頭であるドルゴンとは面識が既にあった。

しかし、ラナはこれまでドルゴンと言葉を交わしたことはなく、商会ではドルゴンも千姫の側に立つラナを特に気に留める様子はなかった。

ラナにとってドルゴンは、普段は千姫と難しい話をしている商会の偉い人物という印象しかなかった。

だが、今目の前に立つドルゴンは、普段番頭として見かける時とはどこか雰囲気が異なり、威圧感をまとっているように感じられた。

その空気に圧倒されたラナの体は、わずかに震えていた。


「ラナ殿か……千姫から話は聞いている。千姫の護衛として鍛えてほしい、とな」


その言葉遣いも、商会で商会長としての千姫へ向ける丁寧な口調ではなく、一人の統率者として威厳を感じさせるものであった。


ドルゴンは、千姫からラナを鍛えてほしいと頼まれていた。

これから千姫が王宮へ進出していくにあたり、千姫は直臣であるラナに護衛としての役目を期待し、

ドルゴンのもとへ送り出していたのである。


「さて、ラナ殿。そしてコンラート……今宵は、儂が皆の相手をする。良いというまで、儂にかかってくることだ。

 お前たちは何をしてもよい。殴って蹴っても構わぬ。今回は、儂は殴ったりはせぬ。

 制圧だけに留めるゆえ、遠慮はいらぬぞ」


それは訓練を兼ねた指示であると同時に、ドルゴン自身の運動不足を解消する意味合いもあった。


「さあ、誰でもよい。かかってこい……」


子供たちとラナは躊躇した。


「俺が行きます」


暫しの静寂の後、コンラートが最初に声を上げた。

こうした場面で真っ先に前へ出るのは、いつもコンラートであった。


「やっ!」


コンラートはドルゴンへ飛びかかった。

しかし、その動きはあっさり見切られ、コンラートはそのまま制圧された。


「動きは悪くない。もっと相手に読まれにくい動きを覚えていくことだ」


ドルゴンは、コンラートの動きを踏まえて短く助言した。


「うす」


コンラートも短く答えた。


「次、来い。まとめてかかってきても構わん」


ドルゴンがそう言うと、


「やあっ!」


と、三人の子供が同時に飛びかかっていった。

しかし、その動きもドルゴンは見切り、三人を次々と制圧した。

そして、ドルゴンはそれぞれへ短く助言を与えた。


「次、ラナ殿もかかってこられよ」


ドルゴンは、その場で立ち尽くしていたラナへ声を掛けた。


「え、あたい……」


ラナは躊躇した。

ラナはこれまで、人へ攻撃を仕掛けるような経験はほとんどなかった。


「遠慮はいらぬ。……躊躇していては、いざという時に千姫を護れぬぞ」


ドルゴンはラナを静かに促した。


「お千を……」


千姫の名が出たことで、ラナの胸に小さな火が灯った。


「そうだ……儂を千姫を害する者と見立て、遠慮なくかかってこい」


「わかったよ、番頭さん……いくよ」


ラナはそう答え、ようやく前へ踏み出した。


「いやっ!」


ラナは獣人特有の身体のばねを生かし、鋭い踏み込みでドルゴンへ飛びかかった。


(……さすがは千姫が見込んだ者というところか……)


ドルゴンはラナの高い運動能力に感心した。

しかし、その動きはあまりにも直線的であったため、ドルゴンは容易に見切り、そのままラナを制圧した。


「ぐっ……」


身動きの取れない体勢へ抑え込まれたラナは、小さく苦しそうな声を漏らした。


「護衛は、ただ相手を殴ればよいものではない。主を護るため、敵を傷つけることなく制することも必要だ。

 このようにな……少しずつ身体に身に着けていくとよい」


実践を交えたその言葉は、ラナの胸へ素直に染み込んでいった。


「はい、番頭さん!」


ラナは大きく返事をした。

その返事を聞いたドルゴンは、ラナへの制圧を解いた。


「さて、次、かかってこい」


ドルゴンのその一言に応じるように、コンラートたちとラナの訓練は、その夜、何度も繰り返されていった。



翌々日、週明け――

商会本館の商会長室では、千姫、ドルゴン、ラナの三人だけがその場にいた。

千姫とドルゴンは商会の業務について話しており、その脇で、ラナは千姫の傍らに姿勢を正して立っていた。

ラナは、先日の訓練で激しく身体を動かしたため、体のあちこちに痛みを感じていた。

それでもラナは、千姫とドルゴンが交わす小難しい話を、眠気をこらえながら聞いていた。


「ドルゴンよ、一昨日はラナを鍛えてやったな。いかがであった?」


業務の話が一段落すると、千姫はラナの話題をドルゴンへ振った。


「悪くはない……このまま鍛えていけば、千姫の護衛として十分に役割を果たせるであろう」


ドルゴンは、率直に感じたところを述べた。その口調は、番頭としての丁寧なものから自然と切り替わっていた。


「ふふん、そうであろう」


千姫は、ラナの評価を自分のことのように得意げに受け止めた。

ラナは、今までとは違う二人のやり取りに驚いた。

そのやり取りは、千姫とドルゴンの間に、商会長と番頭という立場以上の関係が存在していることを、ラナに自然と感じさせるものであった。


「千姫……例のことだが……」


ドルゴンは、言葉を少し濁す形で千姫へ話を切り出した。


「おお、そうであったの……ラナよ、ドルゴンからそなたに話があるとのことじゃ。聞いてくれぬか?」


「え……あ、はい。なんでしょうか、番頭さん?」


ラナは、急に話を振られて戸惑った。


「ラナ殿、コンラートたちはどうであった?」


ドルゴンは、コンラートたち子供への感想をラナに尋ねた。


「コンたちは、いい子たちでした……それがどうかしましたか?」


飾らない言葉ではあったが、その受け答えからは、ラナがコンラートたちに親近感を抱いている様子が見て取れた。


その様子を見たドルゴンは、言葉を続けた。


「コンラートたちは、街の孤児たちだ」


「え……そうなんですね。うちの周りにも、そういう子供たちはたくさんいました」


唐突なドルゴンの切り出しであったが、ラナは冷静に受け止めた。それは、王都の一角にまぎれもなく存在する現実であった。


「実はな、コンラートたちに家を与えてやろうと思っている」


「それは……とてもいいことだと思います」


ラナは思ったところを素直に述べたが、ドルゴンの言葉に含まれた意図まではまだ理解していなかった。


「だが、子供たちだけで住まわせるのは、不安がある。

 ……そこで、コンラートたちの家に、子供たちの面倒を見てくれる管理人を置いてやりたい」


「……はい……」


「だが、獣人の子供たちの世話を、まして孤児の世話を見てくれる者はなかなか見つからなくてな……

 千姫に聞いたが、ラナ殿には母上がおられるな」


「はい。母はマナと言います。それに妹のミナもいます」


「……どうだろう。母上のマナ殿に、コンラートたちの面倒を見てもらうことは頼めないだろうか?」


ドルゴンは、なかなか言葉の含意に気づかないラナに、ようやく本題を切り出した。


「ええっ……母ちゃん、いえ、母にですか……それは、母に聞いてみないと……

 コンたちはいい子たちなんで、嫌がることはないと……思いますけど……」


ドルゴンの依頼に、ラナは驚いた。


「では、一度会って話をさせてもらえないか? 今度の休みに、ラナ殿は母上と一緒にダルガへ来てほしい」


「……分かりました。母に話をしてみます」


ラナは、ドルゴンの依頼を引き受けた。


「よし、話はついたの……ラナ、妾は同席できぬがの。マナ殿には、よろしく伝えておいてくれ」


「わかったよ……お千」


ラナの母マナには、ハルトマン商会の商会長が千姫であることを伏せていた。

そのため千姫は、マナとドルゴンの面談に同席することを控えることにした。


「さて、ドルゴンよ……マナ殿は、ラナに似てとても美しいお方じゃ……」


「ほう……」


ドルゴンの眉が少し動いた。


「なにが“ほう……”じゃ。硬く申しておくが……決して手を出すことはならぬぞ……」


「……善処しよう……」


ドルゴンの視線は少し千姫から逸れた。


「これ、答えをはぐらかすな!」


千姫の一喝がドルゴンに飛んだ。



次の日曜日――


ラナは約束通り、母のマナを伴ってダルガを訪れた。


「ラナ、ここね。あなたの働いているところの番頭さんの家は……私にどういう話なのかしら?」


「お母さん、詳しくは番頭さんが話してくれるわ。それに番頭さんは、とても素敵な方よ」


「そう?」


ラナは、マナに事情をうまく伝えられていなかった。

ただラナは、自分が働いているハルトマン商会の偉い番頭が、マナに会いたがっているのだとだけ伝えていた。

マナは、ラナがよくしてもらっている働き先からの頼みであり、

ラナの様子にもやましさがまったく見えなかったため、話だけなら聞いてみようと考え、ラナに伴われてダルガを訪れていた。


カラン……


ラナはダルガの扉の呼び鈴を鳴らした。


「ちょっと、ラナ。いきなり鳴らして……まだ心の準備ができていないわ」


マナは少し焦った様子を見せた。

そしてマナは、扉が開くのを待つ間に、何度か深く呼吸をして息を整えた。

しばらくして、扉の向こうから声が聞こえた。


「どちら様ですか?」


その声は、ラナにとって聞き覚えのある声であった。


「番頭さん、ラナです。母を連れてきました」


「ラナ殿、よく参られた」


扉を開けて二人を迎えたのは、ドルゴン本人であった。

ドルゴンの視線は、すぐにマナへ移った。


「……マナ殿ですね。本日はよくお越しいただきました。私はハルトマン商会の番頭のドルゴンと申します」


ドルゴンは丁寧な言葉でマナを迎えた。


「ラナの母のマナだよ。娘がお世話になっているね」


(あら……いいおとこね……あの人にどこか似ているかも……)


マナは、ドルゴンの挨拶に応じた。

そしてマナは、ドルゴンの男ぶりに少し目を奪われた。

ドルゴンとマナは、ほんの少しの間、視線を重ねた。


「どうぞこちらへ……」


ドルゴンは、二人をダルガの応接室へ通し、長椅子に座るよう促した。


「それで、ドルゴンさん……今日はどんなご用事なんだい? 

 この娘からは、会ってほしい、詳しくは番頭さんが話してくれる、としか聞いてないんだけど」


マナは、ラナに視線を少し向けた。

その様子を、見たドルゴンは少し間を開けたのち、口を開いた。


「……分かりました。今、王都には親を失った孤児たちが溢れています」


「ああ……うちの周りにも、そんな子供たちがたくさんいるね」


「とりわけ、獣人の子供たちは、とても大変な立場に置かれていますね」


「そうだね……見ていて可哀想になっちまう子供たちも多いよ」


ドルゴンは、街の孤児たち、とりわけ獣人の子供たちが置かれている惨状について話を切り出した。


「我が商会の商会長は、ラナ殿から、そのような獣人の孤児の子供たちの惨状をお聞きになり、とても心を痛めまして……

 なんとか微力ながら助けることができないかと、私に相談してこられました。

 そこで、商会長と私で話し合った結果、このたび、街の孤児たち、

 とりわけ獣人の子供たちのための保護施設を用意しようという話になったのです」


ドルゴンは、コンラートたちのための家を用意する件について、商会長による慈善活動という体裁を整えて説明した。


「まあ……商会長様は、とても情けが深い方なんだね……」


マナは、ラナを雇った商会長について、ラナから説明を受けていた。

ラナによれば、商会長はラナと同世代の少女であり、千姫はその商会長の下で働いている。

さらに、千姫の話を聞いた商会長が、ラナを側近として雇ったということになっていた。


そしてマナは、ラナから商会長がとても素晴らしい方であるという話ばかり聞かされていた。

そのためマナは、ドルゴンから説明された商会長の慈善事業に対し、その慈悲深さへ心から感動を示した。


「……今回、マナ殿にお越しいただいたのは、その件なのです」


「……というと?どういうことだい?」


「保護施設に子供たちばかりで住まわせるわけにもいかず、子供たちの面倒を見てくれる管理人の方を探しているのですが……

 なかなか、引き受けていただける方が見つからないのです」


「それは、難しいことかもしれないね……」


マナは、獣人の子供たちの世話を引き受けられる者がなかなかいないという意味を感じ取り、難しい顔をした。


「マナ殿、そこでです……」


ドルゴンは、マナを強く見つめた。

その視線の意味を、マナは感じ取った。


「今日……私を呼んだのは……」


「はい……いかがでしょうか、マナ殿。実際にお会いして確信しました。

 子供たちの世話ができるのは、あなたであると。子供たちも、きっとあなたを慕ってくれると思います」


ドルゴンは、視線をマナから外さなかった。


「……はい……あ、いや、これはそういう意味じゃなくてね……すまないけど、ドルゴンさん。

 少し考えさせてくれないかい……今働いている仕事もあるんでね……」


マナは思わず返事をしかけたが、慌てて言葉を取り消した。


「失礼。急かしてしまいましたね……マナ殿、どうぞ、ごゆっくりお考えください。

 しばらく日を空けて、あらためて答えをいただいても大丈夫です」


ドルゴンは、答えを急かさなかった。


「……ドルゴンさん……この話、お受けするよ。私も……商会長様の力になってあげたくなっちまったよ」


だが、少し沈黙した後、マナは自身の答えを出した。


「お母さん……」


ラナは、マナがドルゴンの話を受けてくれるとは思っていた。

しかしラナは、マナがすぐ答えを出したことに驚いた。

ラナは自覚していないが、すぐ答えを出すのはマナとラナは親子で同じであった。


「マナ殿、よろしいのですか?……もう少しじっくり考えていただいてもよろしいのですよ」


「ドルゴンさん、もう決めたんだ。この話はお受けするよ」


今度はマナが、ドルゴンを見つめ返した。


「マナ殿、ありがとうございます!」


「ドルゴンさん、こちらこそよろしくね」


ドルゴンは、マナの手を厚く握った。

マナも、ドルゴンの手を握り返した。

二人は、また少しだけ見つめ合った。


「それで、子供たちの保護施設となる家は、すでに用意してあります。その家は郊外にあるのですが……

 どうでしょう。まだ日も高いですから、今日これから見に行きませんか?

 仕事は住み込みとなりますので、どういう所になるか、見ておいた方が良いと思います」


ドルゴンは、マナを誘った。


「それは……ごめんなさいね。今日は話だけ聞いて、すぐ家に戻れると思っていたんで、下の娘を家で留守番させてしまったんだよ。

 そろそろ戻らないとね……」


マナは、申し訳なさそうに答えた。


「お母ちゃん……ミナはあたいが面倒を見ておくから、番頭さんと行ってきなよ。

 番頭さん、暗くなるまでには戻ってこられるでしょ?」


「ああ、大丈夫だ」


「ラナ、ありがとうね。ドルゴンさん……じゃあ、この後、ご一緒させてもらうね……」


マナは、少し顔を赤らめながら、ドルゴンに返事をした。


ドルゴンは、ブリギッタに四人分の持ち運べる昼食を用意させた。

そしてドルゴンは、ラナとマナを伴ってダルガを出た。

途中でラナは、自身と妹のミナの分の昼食を持ち、自分の家へ戻っていった。


ドルゴンとマナは、そのまま郊外にある保護施設へ二人で向かっていった。



その後しばらくして――

マナは、それまで働いていた市場の仕事を辞め、ラナの妹ミナと共に、

獣人の子供たちのための保護施設へ住居を移した。


マナが子供たちを迎える準備を整えたことで、

いよいよコンラートたちは仲間を伴って、保護施設へ住まいを移すことができた。


ドルゴンの見立て通り、子供たちのほとんどはすぐにマナに懐いた。

ミナもまた、子供たちと少しずつ打ち解けていった。

ラナも、度々マナのもとへ帰省し、子供たちとよく遊んだ。


保護施設は、王都城壁外、郊外の森の中にある、人目につきにくい一軒家であった。

そこは表向きには獣人の子供たちの保護施設であったが、

実質的には、コンラートたち――ドルゴン護衛のための親衛隊ボーイの軍事訓練所であった。

拠点を得たコンラートたちは、護衛として真の実力をつけるべく、訓練を本格化させていくのであった。


ドルゴンという人物が好きで書いた妄想小説です。

楽しんで頂けたら幸いです。


次回:「その間起きたこと2」2026/7/24 20時投稿予定

⇒執筆が進めば、2026/7/17 に投稿します。

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