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第二章商会乗っ取り編 第24話「暗転」

あらすじ

清王朝初期、王朝拡大に大きな影響をもたらした摂政王ドルゴン。

徳川家康の孫にして、豊臣秀頼の正室・千姫。

権力の絶頂期に若くして急死したドルゴンと、

大坂夏の陣で落城寸前だった千姫は、

突如見知らぬ世界へと身一つで飛ばされる。

そこから成り上がる二人の物語。


流れ着いたローデン王国王都フィオレンツにて、

荷役として働き始めたドルゴンは才覚を発揮し、

遂にハルトマン商会の王都倉庫長として正社員に就任する。

その裏で、王宮の奥にあるという帰還の鍵を手に入れるために、

二人は商会乗っ取りに向けて動き出す。


主な登場人物

ドルゴン:清朝初期の権力者・摂政王

千姫:徳川家康の孫・豊臣秀頼の正室 猫かぶりのお姫様

   孤児の才女サラとして、商会長屋敷に潜入中

フカ:逃亡奴隷、ドルゴンにフカと名付けられる

河野:ドルゴンの部下となった日本人女性 人の醜聞を覗くことが生きがい

ヨアン:妹を買い戻すためにドルゴンの部下となった元丁稚の少年 

エルドリン:繁華街で火起こしの術を披露している大道芸人 ダルガの食客

ルーヴァ:エルドリンの孫 聡明な頭脳と術師の血統を持つ

ブリギッタ:ダルガの管理人となった老婆


ゲルト:商会への借金で嫁を奪われた元自作農 王都で荷役をしていたが農民たちを率いて反乱を起こす

    ドルゴンにより処刑される

マティアス:中規模自作農 商会に怒りの声を上げた 長女が結婚間近だった

      ドルゴンの呼びかけに反乱から最初に降りた

フリッツ:マティアス長女の婚約者


リリア:ハルトマン商会長の一人娘 我儘お嬢様

カロリーネ:ハルトマン商会長夫人 ドルゴンと不貞の関係になる

エーバーハルト:ハルトマン家家宰

フロレンツィア:リリアの養育係


商会長:ハルトマン商会会長 不審死を遂げる

ベッセル:ハルトマン商会番頭

アグリオス:ハルトマン商会 農村統括長


主な用語

ハルトマン商会:ドルゴン、フカが働いている商会

正社員:幹部

準社員:従業員

グライフェン地方:王都を支える一大穀倉地帯

港:グライフェン地方の物流拠点


ダルガ:ドルゴンの屋敷、転じてドルゴンの私的組織

術わざ・奇跡の術:体内の血肉を違う形に変換する術のこと。街の人たちからは魔法と呼ばれる

「帰還」


ハルトマン商会長が謎の死を遂げた裏で、グライフェン港ではドルゴンが慌ただしく動いていた。


農民たちから穀物の供出を約束させたのち、穀物は直ちにグライフェン港へ運び込まれてきた。

ドルゴンは、ゲルト一派の埋葬をラドウィンの傭兵部隊に急ぎ行わせた。

同時に、グライフェン港に残っていた二名の商会準社員のうち一名を、

反乱終結の連絡とグライフェン港への応援要請のために向かわせた。

そしてドルゴンは、農民たちを陣頭指揮し、穀物を港の倉庫へ搬入させるとともに、

残った準社員と人質から解放された社員のうち動ける者にも手伝わせ、帳簿上の事務手続きを進めた。


反乱終結翌日の夕方には、王都倉庫からフカが荷役たちを率いて到着した。

さらにその翌日には、王都から商会の事務職の社員と船団が到着し、港の体制は整えられ、穀物は王都へと搬送され始めた。

人質となっていた社員たちは、この時点で仕事を引き継がせたうえで王都へ返された。


また、グライフェンの砦で各農家の穀物が混じってしまった件についても、ドルゴンが調整を行った。

さらに、ゲルト一派によって「徴発」された物品についても、返却の可否を適切に判断し、処理を進めていった。

その際、揉めていた農民たちからは仲裁料を取り、それを被害を多く受けた家族へ渡すという配慮も見せた。


穀物搬出の手際の良さはもとより、農民たちは、ドルゴンが農家間の利害調整において的確な判断を下すことに舌を巻いた。

こうしてドルゴンは、港での活躍を通して農民たちから絶大な信頼を得るに至っていた。


十月末、商会の王国への年貢上納の目途が立ったことで、ドルゴンは一連の業務に一区切りをつけ、

王都への帰路につくこととなった。

ドルゴンが発つ前夜には、宴が開かれ、多くの者が訪れた。

今年は反乱のために収穫祭が中止となっていたため、この宴がその代わりとなっていた。


宴の場では、ドルゴンのもとに多くの村の代表が訪れ、謝意を述べるとともに

今後の関係を築こうとする者たちの列ができていた。

その中には、反乱の開始と終結のきっかけとなった中規模自作農マティアスの姿もあった。


「ドルゴンさん、短い間だったけど世話になった。あんたのおかげで、娘も無事結婚できることになった」


マティアスは、共に連れてきた長女とその相手フリッツを紹介した。二人はドルゴンに頭を垂れた。


「マティアスさん、おめでとう。君たちもお幸せに」


ドルゴンは、マティアスたちの感謝に応じた。


「ドルゴンさん、そこでなんだがよ……

 今年できなかった婚姻の祝いを、来年改めてやろうと思う。

 そこに……あんたを招待したいんだが、来てくれねえかい?」


マティアスは遠慮がちに誘いを切り出した。


「ああ、是非行かせてもらおう」


「ありがとうよ、ドルゴンさん」


ドルゴンの返答に、マティアスは破顔し、その目から涙をこぼした。

長女夫妻もその様子を見て涙を流し、改めて頭を垂れた。


翌朝、ドルゴンが港を去る際には、商会の社員たちはもとより、多くの農民たちが見送りに集まった。


「フカ、戻るぞ」


「おう、兄貴!」


「ありがとう!ドルゴンさん!」「ありがとう!」


ドルゴンは多くの者たちに見送られながら、フカとともに王都へ向けて川を下っていった。



ドルゴンが王都倉庫の川港に戻ると、倉庫で働く多くの者が迎えに訪れていた。


「おかえりなさい、ドルゴン様」「ドルゴン様万歳」


港には、ドルゴンを称える声が溢れていた。


「倉庫長、おかえりなさい!フカもよく戻ってきたな」


「オズヴァルト、これまでの倉庫長代役ご苦労だった」


迎えの先頭には、臨時の倉庫長となっていたオズヴァルトとヨアンが立っていた。

ドルゴンは、不在中の二人の尽力に労いの声をかけた。


「皆も、穀物の納入ご苦労だった」


続いてドルゴンは、倉庫の商会準社員や荷役たちに次々とねぎらいの言葉をかけていった。


「これから、報告のために商会長のもとへ赴く」


そしてドルゴンは、倉庫に長くとどまることなく、商会長屋敷へ足を向けた。


「暗転」


十月末、商会の王国への年貢の納入は、手続きを含めて無事に完了した。

カロリーネは、ようやく一つの山を越えたことに安堵していた。

だが彼女には、大きな後片付けが残されていた。


リリアは何度か見舞いに訪れていたが、そのたびに仕事が忙しいことを理由に追い返されていた。

しかし、それも限界を迎えつつあった。


ドルゴンが王都に帰還したのは、納入手続きが終わった翌日のことであった。

ドルゴンから帰還日の連絡を受けていたカロリーネは、その到着を心待ちにしていた。


「奥様、ドルゴン様がお見えになりました」


「こちらまでお通ししてください」


家宰エーバーハルトから到着を告げられたカロリーネは、心を浮き立たせつつ、ドルゴンを商会長の部屋まで通すよう命じた。

屋敷内には、英雄ドルゴンの到着に歓声が上がっていた。


「商会長、失礼します。……奥様、どうされました?商会長は体調を崩されていると聞いておりますが……」


ドルゴンは商会長の部屋を訪れたが、そこに商会長の姿はなく、カロリーネがいることに疑問を抱いた様子を見せた。


「ドルゴンさん、よくご無事でお戻りくださいました。……実は……


 ……マルタ、エーバーハルト。今後のことをドルゴンさんと相談します。二人は下がっていなさい」


カロリーネは、側女マルタと家宰エーバーハルトを下がらせた。

二人の退室を見届けた後、カロリーネはドルゴンに身を寄せた。


「ああ、ドルゴンさん……実は……」


カロリーネは、商会長が十月十五日の朝にすでに亡くなっていたこと、

さらに穀物納入が迫っていたため、その死をこれまで秘匿してきたことを明かした。


「カロリーネ様、お悔やみを申し上げます。そして、お辛い中、商会の危機を乗り切るために尽力いただき、感謝いたします」


ドルゴンは、カロリーネの手腕と、重責を担ってきた心労を労った。


その後、カロリーネは今後についての不安を吐露した。


カロリーネが案じていたのは、商会長の死の扱いと、今後の商会の体制についてであった。


商会長はこれまで体調不良として隠されてきたため、死を公表すること自体は

屋敷の使用人や世間に対して大きな支障はないと考えられる。

しかし、娘であるリリアに対しては事情が異なっていた。

すでに遺体は傷み、対面させることもできない状況にあり、

今さらどのように説明すべきか判断に迷っていると、カロリーネは語った。


また、新しい商会の体制について、誰を商会長とするのか、

そしてカロリーネ自身がその地位をどう保つのかについても、彼女の懸案事項であった。


ドルゴンはその話を落ち着いて聞き、やがて微笑んで答えた。


「カロリーネ様、ご安心ください」


そうしてドルゴンは、今後どうするかについてカロリーネに策を授けていった。


――その夜遅く、ハルトマン商会長の遺体は地下室から自室へと戻され、

医師によって密かに用意されていた棺に収められた。



そしてその翌日――


「うるさいわねぇ!」


そう言うと、リリアは怒りに任せて千姫に物を投げつけた。

体調を崩した父親に会えないことで、リリアの苛立ちは増していた。


「痛っ!おやめください、お嬢様っ……」


千姫はそう言いながら、なんとか耐えていた。体には小さな痣がいくつもできていた。

フロレンツィアは、その様子を困った顔で見つめていた。


その時、部屋の扉が叩かれた。


「奥様、どうされましたか……?」


「フロレンツィア、リリアはいるかしら……」


そこに現れたのは、カロリーネであった。

カロリーネが自らリリアの部屋を訪れることはほとんどないため、フロレンツィアは驚いていた。


「大事なお話があります。リリア、こちらへ来なさい」


「な、何よ……」


カロリーネは部屋の机の前にリリアを呼び寄せた。

その神妙な顔に、リリアはただならぬ予感を覚えた。


「サラ、あなたは部屋に戻っていなさい。後ほどあなたにも知らせます」


「……かしこまりました、奥様」


カロリーネは千姫に退室を促し、千姫は素直にそれに従った。

千姫が退室し、しばしの沈黙の後、カロリーネは意を決して口を開いた。


「……リリア……お父様が亡くなりました」


「……え」


リリアは突然の告知に呆然とした。


「嘘……体調がちょっとお悪いって……だけど、お仕事をされているって……」


リリアは錯綜しながら言葉を紡いだ。


「奥様……なぜですか……」


フロレンツィアが、理由を求めるように口を開いた。


カロリーネは頭を伏せた。


「ごめんなさい、リリア。

 お父様は体調を徐々に悪くされ、一週間前に息を引き取っていたのです。

 商会が大変な時でしたので、お父様のご命令で今日まで内緒にしていたのです……」


「……嘘よ!」


リリアは部屋を飛び出し、商会長の部屋へ向かった。

扉の前には、それを遮る者はいなかった。


リリアの中では、父親はまだ生きているはずだった。

亡くなったなどという話は悪い冗談であり、部屋の中には父親がいるはずだった。


扉を開けると、部屋の中にはエーバーハルトがいた。そこには大きな箱が置かれていた。


「エーバーハルト、お父様は……」


「お嬢様……」


リリアの顔を見たエーバーハルトは、居たたまれない表情となり、顔を伏せた。


「お父様は棺の中におられます……亡くなって日が経っているため、中を開けることはなりません……」


リリアを追って部屋に入ってきたカロリーネが、暗い声で告げた。


そこにいるはずだった父親の姿は崩れ、リリアの視界は暗転した。

リリアはふらつきながら棺に近づき、倒れ込むようにしてしがみつき、やがて哭いた。



ハルトマン商会長は、本日未明、衰弱のため亡くなった。

王国への穀物の納入が済むまで気力を振り絞っていたが、それを見届けての最期であった。

屋敷内および世間には、そのように発表された。


ドルゴンという人物が好きで書いた妄想小説です。

楽しんで頂けたら幸いです。


次回、2026/4/3 20時投稿予定

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