対価
この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』9巻及び、ジュニア文庫2巻も発売中です。よろしくお願い致します!
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「え……!?」
一瞬、何を言われたのか理解出来ずに呆けてしまった私を見下ろしながら、天照大御神はゆったりと目を細める。けれども、それに続いた言葉はもっと衝撃的なものだった。
『そなたには、あちらの世界に残した大切な家族や仲間がおろう。我と共に帰る事を了承したならば、我が名にかけて、彼らと再び相まみえる事を約束しよう』
「……!!……か……ぞく……と?」
――……私の家族と……大切な人達と、また会える……?
一瞬、脳裏に父母や祖父母、友人達の姿が浮かび、胸の奥が激しく騒めく。
「そんな事、僕は認めない!!」
「オリヴァー兄様!?」
その時だった。空気を震わす大声と薄いガラスが砕け散るような音が周囲に響き渡った。
ハッとして慌てて振り返る。するとそこには、憤怒の形相を浮かべながら肩で息をしているオリヴァー兄様が立っていたのだった。
「に……兄様!?」
思わず呆気に取られながら兄様を見つめる。
どうやらオリヴァー兄様、先程まで自身の身体を雁字搦めにしていたペンポポスミレを引きちぎり、結界を破壊したようだ。
小人な私も消えてしまっている。あれって、私の『大地』の魔力が具現化したものらしいし……ひょっとしたら土に還ったのかもしれない。
「……ッ……!」
だが、まだ完全に傷が塞がっていなかったのだろう。オリヴァー兄様は先程シリルに刺された脇腹を抑えながら、その場で片膝を突いてしまう。
「兄様ッ!!」
慌てて駆け寄った私の身体を、オリヴァー兄様が胸にきつく抱き締める。そして大御神へと、鋭い視線を向けた。
「異界の女神よ。救済されるべき魂と共に、我らをもその御力でお救いくださった事。深く感謝申し上げます。……このような不甲斐なき身でありますが、恥を忍び、進言したき事が御座います」
『ふむ。許そう』
「有難う御座います。……『彼女達』を助けようと、必死の思いで貴女を召喚したエレノアに対価を求めるというのは、あまりにも酷ではないでしょうか?」
『……ふむ。まあ、理屈としてはそうであろうな。だが、この世界ではどうかはしらぬが、我の世界において、神を降ろす「対価」とは召喚者自身が払うべきもの。その事に関しては、そこな巫も十分理解しておろう。のう?違うか?』
「……その通りで御座います」
「エレノア!?」
そう。『婚姻』『穀物』『人柱』……。神道において、『神の威』を借りるという事は、それに見合う『対価』を支払わなくてはならない。いわば、等価交換の原理が発生するのだ。
強大な力を持つ者が、その力を好き勝手に行使してしまえば世界は必ず歪む。
下手をすれば、世界そのものの崩壊に繋がる可能性さえあるのだ。だからこそ世の理を乱さぬよう、神は人の望みに対し『対価』を求める。
『……思えばそれは、この世界の女神様が『世界の理』に干渉しないという不文律を己に課しているのと似ているのかもしれない』
実際、シリルは『女神による世界への介入によって秩序が狂い、その弊害で女の出生率が極端に低くなった』と言っていた。……ひょっとしたら、このような事態になっても女神様が私達に直接介入してこないのって、これ以上世界が歪まないようにする為なのかもしれない。
「……でしたらその『対価』、私が支払う事をお認めください」
「えっ!?オ、オリヴァー兄様!?だ、駄目です!!そんな事!!」
『ほう?では、そちが我の僕として、我が世に来るとでも申すのか?』
「……お望みとあらば」
「兄様!!」
慌てて止めようとする私に構う事無く、オリヴァー兄様が肯定する。そんな兄様を、大御神は興味深そうに見つめた。
「ですが、これだけは言っておきます。私の全てはエレノアのもの。それゆえ、貴女の元に下っても、僕にはなりません」
「ち、ちょっ!?オリヴァー兄様!?」
あんまりにもキッパリとした口調で言い放ったオリヴァー兄様に対し、大御神の形の良い眉がピクリと吊り上がった。
いや、それはそうだよね!『対価』を払うと言ったその口で、「僕はエレノアのものだから、貴女のものにはなりません」って言っちゃうんだから。
兄様!否定してくれるのは嬉しいんですが、こんな時に万年番狂いを発動するのはどうかと思います!!
「私は彼女の愛に応え、この世界でエレノアを幸せにすると、この魂にかけて誓ったのです。……ですから、この人生が終わった後。貴女にこの魂を『対価』として捧げましょう」
『……ほぉ……?』
「――ッ!?オリヴァー兄様!何を……!?」
オリヴァー兄様のとんでもない発言に、私は悲鳴交じりの声を上げた。流石の大御神も、目を思い切り見開いて兄様を凝視している。
「ですが、それは人一人の一生分である百年だけ。その百年の間、誠心誠意お仕えする代わりに、その後はエレノアのいるこの世界に還して頂きたい。なにせ僕は、彼女に九百九十九本の薔薇を捧げる予定なのです。そのうちの一回分を貴女様に捧げるのですから、それ以上は絶対にまかりなりません!」
「……!!」
――九百九十九本の薔薇の花言葉……。それは、『何度生まれ変わっても君を愛する』
魂になっても、たとえ何度生まれ変わっても、私と巡り合い愛するというオリヴァー兄様の不動の誓い。それを破り、一回分の人生を『対価』にあてるんだから、それで納得しろと大御神に突きつけるだなんて……。本当に、オリヴァー兄様って……。
「……オリヴァー兄様、離してください」
「……エレノア……」
オリヴァー兄様の腕の中で身じろぐと、私を抱きしめていた腕の力が緩む。
「…………」
そうして兄様と視線を合わせると、兄様は無言で私を自分の腕の中から解放した。
「天照大御神様」
興味深そうな表情で見下ろしている大御神を真っすぐに見上げる。
「……残念ながら私はもう、この世界の人間になると決めております。それゆえ、この身も兄の魂も、貴女様への『対価』として差し出す事は出来ません」
『ほぉ……?ではそなた、我に何を差し出す?』
「……舞を」
『舞?』
「はい。此度の騒動が収束した暁には、天照大御神様の為だけに『奉納舞』をお捧げしたく存じます」
『…………』
降り注ぐ大御神の神力に臆して視線を逸らさないよう、腹に力を込める。
――……これは、一つの賭けだ。
天照大御神は、『舞』をこよなく愛する神とされている。
実際、伝承には諸説があるんだけど、『天の岩戸』に引き籠った時、天宇受賣命という女神の舞いに興味を引かれ、姿を現したという話は有名だ。だからこそ、彼女の為だけに舞を奉納する事を約束すれば、少しは心を動かしてくれるのではないだろうか。
『……もしこれで「一回じゃ足りない」と言われたら、何十回でも舞う覚悟は出来ている!なんなら三日三晩舞い続けてもいい!!』
あ、でも流石にトイレ休憩はもらえないだろうか。そのついでに水分や一口サイズの軽食も……いや、「対価舐めてんのか!?」って怒られそうだな。だったら、私の『大地』の魔力で疲れと飢えを癒して……って、そんな事したら、全身ペンポポスミレまみれになっちゃうだろが!!そんな格好になっちゃったら、奉納舞台どころの騒ぎではない。むしろ神罰が下ってしまうんじゃ……。
『ホホホホホ!!』
突然、天照大御神が袖を口にあてながら笑いだした。……というか、滅茶苦茶笑っている。もはや爆笑と言っても過言ではない。その光景を、私だけでなくオリヴァー兄様も唖然としながら見上げる。
『ホホ……ふふっ。ああ、楽しいのう。そこな男の子の、恐れ知らずな豪胆っぷりもあっぱれであったが、流石は「愛し子」じゃ。思考回路が一味も二味も違う。はて、このように笑ったのは、幾千年ぶりかのう?』
あっ!私の心の声が読まれていたー!!ち、ちょっ!オリヴァー兄様!?『エレノア……。君、また何かアホな事を……?』って目で私を見るの止めて!!
『「奉納舞」……か。類まれなる魂を持つそちの舞いは、さぞ美しいのであろうな。……よかろう。我を楽しませてくれた事に免じ、それで手を打つとしようか。……だが、そうだの。手土産ぐらいは貰っていくとしようか』
そう言い放った大御神は、神御衣の裾を翻す。するとその動きに合わせ、光の矢に縫い留められていたシリルの身体が浮かび上がった。
『強欲極まる、愚かな盗人の血を持つ者よ。そなたを我が世に連れていく』
「――ッ、な……ッ!?」
告げられた言葉に、蒼白な顔面を引き攣らせるシリルへと向かい、大御神は艶やかな深紅の唇を吊り上げ、酷薄な笑みを浮かべた。
『なに、そう怯えるな。一千年以上にも渡り、そなたらがしてきた所業はまことに許しがたい。ゆえに、その業をそっくりそのまま、そなたに返してやるまでの事じゃ』
つまり、帝国人が『彼女達』を無理矢理こっちの世界に連れてきたのと同じ事を、大御神がシリルにする……という事なんだろう。
『そなたの処遇は、黄泉の大神たる我が母に一任する。母は穢れた魂をことさらに嫌う。きっとあらゆる責め苦をその身に受ける事になるであろうよ』
黄泉の大神……って、確かあの有名な、日本を創った創生神の一柱だよね?
こちらも諸説あるけど、確か伊邪那美命って、黄泉の国の秩序と魂の管理の為に、敢えて黄泉の国に下ったんだそうで、不浄を殊の外嫌う女神様って言われているんだとか。
そんな女神様の元にあのシリルが行けば、どんな目に遭うかなんて推して知るべしだろう。いや、同情なんて全くしないけど。それに地獄の責め苦で罪を清められれば、真っ当な魂に生まれ変われるかもだしね。
「い、いやだー!!離っ、離せ!!僕を誰だと思っているんだ!!?『魔神』様の眷属たるこの僕にこんな事をすればどうなるか……ふぐっ!!うーっ!!」
『ああ、貴様の飼い主か?出来ればそちらにも神罰を下してやりたかったが……。流石にこれ以上、この世界の理には干渉出来ぬ。この世界の大神にも、無理をさせてしまったからのう』
「大神……って、女神様ですか!?」
光の縄でシリルをグルグル巻きにした後、大御神は微笑みながら頷いた。
『うむ。己に課した贖罪に縛られながらも、我をこの世に顕現せしめる為に、身を砕いてくれておる。あれ程に己を律する事の出来る神は中々おらぬ。これからも、よくよく心を向けてやるがよい』
「は、はいっ!!」
「御意に!」
私達の返事に満足そうに頷いた大御神は、捉えたシリルと無数の光の玉と共に眩い光に包まれていく。
『……まさか、再びそなたと相まみえられるとは思わなんだ』
「え?」
『ふふ……。そなたの舞、心の底から待ちわびておるぞ』
そう言い終えた後、天照大御神は光に包まれ、消えていった。
オリヴァー兄様の不敬は異界の最高神にまで発動されたもようです。
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