漆黒の英霊祭③【帝国side】
※長くなりましたので二つに分けました。明日か明後日に、また更新します。
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皇帝ソロモン。
世界に冠たる大国。帝国の現皇帝であり、永き歴史の中で最も強大な魔力と智謀を持ち、稀代の名君と称えられた『黒き氷の帝王』。
帝国が長年に渡り行ってきた『異世界人召喚』。それが先細りし、遂には全く異世界人達を召喚出来なくなってしまった中で、その辣腕を振るい、帝国を大国として維持し続けて来た賢帝である。
だが、何故かここ十年の間は表立って行動を起こす事なく、腹心達に指示を出すのみで、皇族であっても謁見すら出来ずにいる状態が続いていたのだ。
久方ぶりに見る絶対君主は、記憶に残る威厳に満ちた姿そのままで、その場の全員にある種の感動をもたらす。
誰もが偉大なる皇帝へと、羨望と憧憬、畏怖の視線を注ぐ中、ソロモンは腹心である宰相。そして、皇帝に対し絶対の服従を誓ったとされる側近達と共に、大聖堂中心部に設置されている漆黒の石碑へと歩み寄る。セオドアと彼の近衛騎士であるゼンは、彼らと少しだけ距離を取りながらその後へと続いた。
ソロモンに次ぎ、皆の視線が、新たに皇位継承権一位となった第三皇子へと注がれる。
皇帝に準ずる立場を暗に示す豪奢な衣装を纏う彼は、周囲の意図に呑まれる事なく、堂々とこの場に立っている。
現皇帝によく似た面差しと相まって、ある種の威厳すら放つその姿。それを目にした者達からは、憎悪と嫉妬という負の感情だけではなく、息を呑むような音と僅かばかりの感嘆の眼差しが入り混じっていた。
……だが、当の本人は大聖堂中から集まる視線を意に介する事無く受け流している。そればかりか、逆に彼らを挑発するかのように不敵な笑みを浮かべているのだ。
人を食ったようなその姿に、各派閥……特に直系皇族を旗印にしている高位貴族達の怒りと殺気が高まる。
『半端者め……!!』
『今に見ていろ……!!』
誰もがこの後におこる粛清へと思いを馳せる。……だがふと、殺気だった貴族達の間で、困惑と疑念の感情がさざ波のように広がっていった。
何故ならば……。
「おい、あの幼子は誰だ?」
「ゼン・ラジェディが抱きかかえている……という事は、『例の』第三皇子の同腹とされている『弟』なのだろうか?」
「噂には聞いていたが……。初めて目にするぞ」
困惑し、囁き合う彼らの視線の先。そこにはゼンが腕に抱き抱えている、黒髪黒目の少年の姿があった。
容姿のどこにも、父である皇帝の面影が見受けられない。だが、纏う『色』は皇帝と同じく、一切の光が射さぬ深淵のような漆黒。幼いながら、ゾクリとする程に冴え渡る美貌。だが、その瞳には感情のひとかけらさえも見受けられず、その整い過ぎた容姿と相まって精巧な人形のようにも見えてしまう。
――第三皇子の実母が『病死した』時。死の間際に産み落とした男子がいる。
そう、まことしやかに囁かれていた噂。
だが、誰もその姿を見た者がおらず、いつしかその存在自体を疑問視する声によって忘れ去られる事となっていたのだ。だがこの場において、その『噂』が一気に蘇り、現実味を帯びてくる。
ウリセスは眉を顰めながら、少年を凝視する。
『……確かに、あの時あの女は妊娠していた……』
皇帝である父は、新しく後宮に入った女に手は出すものの、その者が子を産んだ瞬間、その女の元に通わなくなる。それが通例だった。
なのに、側室にもなれない敵国の平民。戯れに嬲ったがゆえに子を孕ませられた……と思われていた女が再び妊娠したのだ。
それはすなわち、皇帝の寵愛があの女に注がれているというなによりの証明で……。皇后である母や他の女達の嫉妬と憎悪。そして、彼女達を取り巻く勢力との思惑が絡み合い、あの女は命を落とす事となったのだ。
『……あの女が亡くなったのは、セオドアが十歳になるかならないかの時期だった。だとすれば、生まれた弟の年は七歳ぐらい……か?だが、どう見てもあれは三歳児ほどにしか見えぬ』
しかも、あの女はまだ臨月にもなっていなかった。もし奇跡的に赤子が取り上げられていたとしても、生き残った可能性は限りなく低い。それに母は、確実に『母子もろとも』殺すように指示していたのだ。
『やはり、あの少年は奴の実弟ではないのか……?』
だが、無関係な者をわざわざ、こんな場所に連れてきたりはしないだろう。そもそも、得体のしれない部外者が英霊祭に参加する事を、あの皇帝や重鎮達が良しとするとは思えない。
では、やはりあの少年はセオドアの『弟』……?だが、それにしても……。
「……皆、よく集まった」
様々な憶測と不穏な空気を切り裂くように、黒い石碑の前に立った皇帝ソロモンが静かに口を開く。
「!!」
「――ッ!!」
決して声を張り上げている訳ではない。にも拘わらず、その声は誰もが逆らえぬほどの威厳と威圧に満ちていた。
この場の全ての貴族達が一斉に、皇帝に向かい最高礼を執る。
そして、彼らの従者や護衛騎士達も次々とその場に片膝を突きながら、彼らの絶対的主君に向け、床に額が付きそうなほど深く首を垂れた。
その様を、ソロモンは感情のこもらぬ漆黒の瞳で静かに見つめる。
「これより英霊祭を執り行う。皆のもの、面を上げよ」
「「「「はっ!!」」」」
その言葉により、その場の全員が一斉に顔を上げ居住まいを正す。
「……だがその前に、お前達に言っておかねばならぬ事がある」
緊張感により、一気に空気が張り詰める。そんな彼らに対し、ソロモンは静かな口調で話しを続けた。
「遥かなる過去において、我らが祖たる魔族を壊滅寸前にまで追い込み、混沌と破壊を司りし我らが主神たる魔神を封印した、忌々しき女神とその使徒達。我が帝国の宿敵とも言うべき女神の使徒達が興した国……アルバ王国。彼の国との此度の戦いは、長きにわたる因縁に終止符を打つ戦となるだろう」
ソロモンの言葉に、ザワリ……と、その場にいる全ての者達が色めき立った。
「……おお!」
「皇帝陛下!!」
今まで、自分の血を分けた息子達が、アルバ王国によってことごとく潰されようが、戦況がどれほど芳しくなかろうが、沈黙を貫き続けたこの国の至宝が遂に動くのだ。
大聖堂に詰めかけた貴族達から興奮と感嘆の声が次々と上がった。
「遺憾ではあるが、今日に至るまで、我が帝国の思惑と戦術はアルバ王国にしてやられ、ことごとく灰燼に帰してきた。……だが、喜ぶがよい。此度の英霊祭は特別だ。それこそ、帝国の歴史に刻まれるべき栄誉の日となろう。……なにせ、我らを導く主神が復活されるのだからな」
「……は!?」
「こ、皇帝陛下……?一体、なにを……?」
唐突に、『魔神の復活』を口にした皇帝に対し、ウリセスや皇后、派閥に属する貴族達、そして第二皇子の陣営やその他の貴族達も皇帝の意図を汲めず、動揺と困惑が広がっていく。
だが、当の皇帝本人は至って凪いでおり、皇帝の側近達にも、動揺する様子は一切見受けられない。それはセオドアとゼンも同様で、狼狽え騒いでいた貴族達は、彼らの態度にただならぬ『何か』を感じ、次々と口を噤んでいく。
「セオドア。ここに」
得体のしれない不気味さと不安感による静寂の中、ソロモンが第三皇子を呼ぶ。そして、自分の前で片膝を突き、頭を垂れたセオドアへ、自分の腰から引き抜いた漆黒の長剣を差し出す。
「後継の証として、我が剣を託そう」
「御意。謹んでお受けいたします」
ソロモンに下賜された剣を恭しく両手で受け取ったセオドアは、ゆっくりと立ち上がる。すると、ゼンに抱かかえられていた少年が、スルリと腕の中から抜け出して地面に降り立つと、セオドアの元へと向かった。
ソロモンは、セオドアの足元にやってきた少年を静かに見下ろした後、セオドアへと視線を戻す。
「……お前が成すべき事を行うがよい」
その言葉と、自分に向けられた表情を目にしたセオドアは、一瞬だけ泣き笑いのような表情を浮かべた。
「感謝します。……そして、さようなら。父様」
言葉が終わると同時に、鞘から抜き取られた剣が、元の主であるソロモンの身体を斜めに切り裂いた。
前書きで書きましたが、今回は長くなってしまいましたので、一旦切って明日か明後日に更新します!
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次回更新も頑張ります!




