慰労会
ブクマ数700突破!ありがとうございます!!
本編も100話までカウントダウン!…ここまで続くとは作者もビックリ。
今回短めです(><)
真っ赤な天鵞絨の絨毯が大広間の中央を我が物顔で縦断する。三階分ほど吹き抜けた高い天井には歴史的超大作の絵画がこれでもかと敷き詰められている。外に面した壁には厳かな教会に似合いのステンドグラスが各処にはめ込まれて差し込む陽光を色とりどりに染めてゆき、その神秘的な輝きがより部屋の重厚感に拍車をかけていた。
中央を走る天鵞絨の終点、十段程の段差の上に堂々と鎮座するのは――金と玉に飾られた――豪奢の髄を極めた全く機能性の欠片もない椅子。
それに腰かける者、即ち国主である『アルフレッド・フォーチュン・クロムアーデル』が広間に負けない威厳を放ちながら段下にて首を垂れる者どもを見下ろしていた。
―――ここはクロムアーデル王城にある謁見の間。
そこに集められた私たちは儀礼に則って傅き、王からの許しの言葉を頭を下げ続けて待っていた。
宰相であるシルビアパパが序列順に参列者の名を呼んでいく。更にお決まりの定型文がニ三続き、漸く「以上」という待望の声が響くと、シャラリと震えた空気とともに頭上に圧が降り注いだ。
「許す、面を上げよ」
たったそれだけの短い言葉。特に張り上げたわけでもないのに広間の隅々まで響き渡った低音は凛とした芯の中にしっとりとした重厚な色気を含み、文字通り質量を伴ってのしかかってくる。それに何とか反発しながら全員が一斉に顔を持ち上げた。
「此度の件、誠に大儀であった。よって褒美をとらす。今日は一日、我が城でゆるりと過ごすがよい。」
「斯様に多分な処置を賜り恐悦至極にございます。我ら一同、王の御恩情ありがたく頂戴いたします」
この場で直答する事の出来る序列の最高位、王太子であるラルフが壇上の父王を見上げて、一同を代表した礼を述べた。私たちはその間一言も発すること無く玉座と床の間くらいの段差を見つめ続けて――貴人を直視する事は不敬に当たるため――いる。結局、その殿下の言葉を最後に謁見は終了となり、扉に近い者からしずしずと退場していった。
「あ~、お前たちは少々残りなさい」
子爵位までの者たちが退場した後、宰相から投げられた声に私たちは振り向いた。
残っていたのはシルビア、く~ちゃん、ラルフ、そして私。私たちが立ち止まったのと同時に謁見の間の重厚な扉が閉められた。
「お父様、どうしたの?」
きょとんとシルビアが父を見上げる。
「驚かせてすまないね、君たちはこっちだよ」
答えたのは宰相ではなく別の声。額を押さえ頭痛を堪える宰相の顔から視線を滑らせ、呼ばれた方へ首を向ける。
そこには一度退場したはずの王様が、先ほどの威厳など感じられない人の良い笑顔でおいでおいでと手をこまねいていた。
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謁見の間の隅から扉続きになった小部屋。調度の行き届いた品の良いその部屋は貴人用の控えの間だろうか。そこに設えられた応接セットには既に人数分のお茶の用意が為されていた。
「いやぁ、すまない。ここしか時間が取れなくてな」
柔和な態度で王自ら案内された私たちは、勧められるままにその丁度良い塩梅の硬さのソファに腰掛けた。……何故か息子のく~ちゃんが一番緊張している。
「それで、そんなにお忙しい父上が何用ですか?」
にっこりとラルフが棘を出す。
「いや、お前に用は無いから出てもらって構わんぞ?」
が、鏡で即座に反射された。
「……アルおじ様、実際は?」
「君たちレディに頼み事があってな」
砕けた振舞いからいつもの――秘密の――茶会同様、王様業お休みの雰囲気を感じ取って、敢えて親しい呼称で宣えば――でないと話してくれないのだこのおっさんは――、嬉しそうに此方を向いた。その親し気な様子に息子二人が瞠目して……ん?ラルフは目を剥いてる!?
「頼み事ってなぁに?」
物おじしないシルビアが可愛らしく小首を傾げた。
「ああ、そこの愚息たちのことでね……」
ちらと二人の息子に目をやるおじ様。それにく~ちゃんの肩が跳ね上がり、ラルフの眉間に深い谷が現れる。しかしどちらも見当つかずらしく、その表情には困惑と訝しさが浮かんでいた。
「しかし遠方までの慰問とは恐れ入ったよ。立ち寄った街でも面白い試みをしていたね?中々の民衆操作だった」
「そんな、人聞きの悪い。……私たちの名誉の為に言わせて頂きますが、あれはマルベック様の策ですから」
「……あの狸爺か。なるほど、その分だと役に立っているようだな」
「ええ、それはもう」
私が多分な含みを持たせて笑えば、面白そうにおじ様も口角を上げる。突然飛んだ話題にシルビアが再度首を傾げると、アルフレッドが軽く苦笑を漏らした。
「シルビア嬢の素直さは母親譲りかな?父に似なくて良かったの」
「ほっといてください」
少し後ろに控えていたシルビアパパが鋭く突っ込む。
「……しかしこんなに可愛らしい令嬢に頼むにはちと酷か…」
と言いつつ止める気が無いおじ様は続ける。
「実は今回のお前たちの働きで、そこのクロードの株が急上昇でな。わんさと縁談がきている」
「なんですって!?」
寝耳に水のく~ちゃんが叫んだ。
「落ち着け!……それで物は相談なんだが、其方たちにこ奴らの婚約者となってもらいたい」
「「「「婚約者ぁ!!?」」」」
子どもたちの声が重なった。
感謝も込めて、暫し息抜きターンが続きます。楽しんで頂ければ嬉しいです(^^)




