噂の山村で ~後始末~
ここまで書きたかったの。
…収まりが悪かったので連投です。
書ける時に、書かないと……ね?
村は少し前までの喧騒が嘘であったかのように静まり返っていた。
広場の中央では祭りの篝火が弱々しく、その役目を終えようとしている。
前世で言えば『丑三つ時』とでもいう時間だろうか。すっかり草木も寝静まった深夜、私は今、村に一番近い山裾の前に仁王立ちしていた。
「く~ちゃんばっかりに良い格好させられないからね」
「な、姫さん。皆を呼んどいて良かっただろ?」
私の隣に立った師匠が得意気に――子どもみたく――笑った。
「ええ、本当に。流石師匠!」
言えば更に嬉しそうに笑みを増した大きい大人に苦笑する。
実はこの遠征中、私の行動範囲外の情報を集めるために隠密部隊の半分を動かしていた。より客観的で多くの国状を纏めて父様に報告するためだ。
そして本日齎された情報。それは例の『ガオエル』についてのものだった。
『ガオエル』の習性は狼に似ており、多くが群れを組んでいる。種族愛が強く、上下関係がはっきりしており、団結力の強い頭の良い生き物なのだそうだ。
それ故平時であれば山奥から降りてくることは無い。群れの営みを乱されなければその必要性もないからだ。
だが山の恵みが涸れ、そこに生きるものたちもその被害を被った。ガオエルたちもそれにより行動範囲を人里の方まで広げざるをえなくなった。
そんな時、若い個体が我慢できずに村に侵入。結果討伐されてしまう。臭いでそれを察知した群れが怒り狂い、夜襲を仕掛けようと動き出したというものだった。
「まさか久々に本業で呼ばれたと思えば、野犬の討伐だなんてついてないですよ」
メガネをくいと押し上げながらいつの間にか近くに来ていたユージンさんが溜息を吐いた。
「私たちは漸く姫様と仕事が出来て張り切ってるけどねん!」
そう言って艶やかに笑ったのは領邸のメイドさん。……本当にいろんな場所でなりすましているんだなぁ。私は一時に集まってくれた隠密部隊の顔を一人一人眺めながら苦笑を禁じ得ない。皆一度はどこかで見かけた事のある人達ばかりなのだから。
「そうそう、頭ばっかりズルいぞー!」
「あら、それならユージンやカーティスだってそうじゃないかい?」
わいわいガヤガヤ。とても普段隠密してるとは思えない賑やかさで方々から不満の声が上がる。
「だーー、うるせぇ、お前らっ! 大人しく任務をこなせっ」
堪りかねたソウガが一吠えした途端、周囲がシンと静まり返った。……決して師匠の喝によるものでは無い。ピンと張りつめた空気で一斉に皆が山裾を睨みつけていた。
「どうやら奴さんが来たみたいだな」
舌なめずりをするように師匠がニヤリと嗤う。常にない殺気に満ちて、その瞳が獰猛に輝いていた。
「……可哀想だけど、村が蹂躙されるのは看過できないわ。皆、撃ち漏らしの無いよう。……殲滅して」
ギラリ。ガオエルに負けない獰猛な光を宿してそれぞれが諾を返し、一斉に散会した。
四方で静かに繰り広げられる戦い。私も負けじと向かってくる個体に刃を走らせた。
(……ごめんね)
朝陽が昇るより早く収束した暗躍は『隠密』の名に相応しく、人知れず遂行されたのだった。
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「本当に、ありがとうございました」
村の玄関に村民が総出で駆け付け、代表である村長が大きく頭を下げた。
「自身の健康は自分で守るしかない。衛生環境を整える事が何より大切じゃ。不精する事の無いように、用心し過ぎる位でちょうど良いのだから」
マル爺が念を押せば、大人を押しのけて出てきたジェシカが配布した石鹸を押し抱いて叫んだ。
「こんなに凄い物、初めて使いました! いい匂いだし、すごく綺麗になるの! これを使っていれば私もお姫様たちみたいになれるかな?」
ちらとクロードに視線を向けて頬を染めた少女が俯く。
「ジェシカは可愛いからすごく楽しみだね!」
何の衒いも含みも無く純粋にミケルが笑った。ジェシカの目が大きく見開いて、すぐ嬉しそうにはにかんだ。
「すご……この子、天然?」
呆れ交じりにユーリがミケルを見やる。それに首を傾げるミケル。
「私は兄上の……引いてはこの国の剣と盾だ。国民を護る事が王家の努め。何があっても諦めず、国に助けを求めて欲しい。」
「はい、我々は王家に、恐れながらも許されるなら貴方様に忠誠を誓いましょう。この苦難を乗り越え、何れ再び国に貢献いたします。それを恩返しとして励みましょう」
村長の言に村人が一斉に恭順の礼をとったのを見届けて、私たちは村を後にした。行きとは別のルートを辿り、同じく五日をかけて王都へ戻る。
―――こうして私たちのひと夏の冒険は閉幕したのだった。
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「上手くやったようだの」
突然息子の執務室に現れた王――アルフレッド・フォーチュン・クロムアーデルの姿に、書類仕事の手を止めたラドクリフは隠すことなくその麗しい顔を顰めて見せた。
「これはこれは父上自らとは珍しい。……明日は恵みの雨となりましょう」
「そう皮肉るでない。……全く誰に似たのやら。弟は素直で愛いのに、お前はちっとも可愛げのない」
「ご心配なく。私は間違いなく父上似ですよ」
にっこりとラルフが笑えばアルフレッドが鼻白んだ息を漏らした。
「なんだ。折角褒美を与えに来たのに、愚息は欲しくないとみえる」
「褒美……?」
訝しんで父を見上げれば、その視線を受けてアルフレッドがニンマリとろくでもない笑みを浮かべた。思わずビクッと引きつるラルフ。
「今回の功労者たちを集めた内輪だけのささやかなパーティを開こうと思ってな。慰労を込めてゆっくり一日かけて持て成そうと企画したのだが――」
「流石父上。何と懐深いのでしょう。さぁ、立ち話もなんです、今茶を用意させましょう」
手のひら返しで応接セットへ誘導する息子に今度は父が呆れるのだった。
即座に用意された茶で寛ぎながら、ラルフが思わずといった調子で息を吐きだした。
「名を貸せと言われた時は何をするのかと思っておりましたが……」
「流石彼のご令嬢よのう」
くつくつと喉の奥で笑う父王に、何だか面白くない気分を味わいラルフは顔を顰める。
天災によって王国に対する民意が離れ始めていた。そんな中、ナターシャが企画した巡業の効果でご機嫌取りの多くの貴族が動き、今や王国全土のいたるところで支援活動が行われていた。
それが一時的なものにしろ、今こそそれが欲しかったのだから文句は一つもない。
そしてこの救済を主導したのは王太子殿下であると国民の誰もに認識されていた。
「お前は相当国民に好かれたようではないか」
「クロードの知名度もぐんと上がったようですしね」
民を見捨てぬ心優しき王太子。そしてそれを支える力強き弟殿下。
いつの間にやら知れ渡ったとある村での一幕。その英雄伝を吟遊詩人が高らかに歌い上げ、人気作家が脚本を書きおろし、今流行の芝居として王都で大人気を博していた。今まで兄の陰に隠れていまいちピンとこなかった第二王子が今や時の人である。
「いやぁ、縁談がわんさかきておるぞ。ふふ、お前より多いのではないか?」
「私は良いんです。目当ての人に望んでもらわなければ意味などないのですから」
「余が健在な内は好きにすればよいが、それでも期限はあるからな」
「……分かっていますよ」
ブスくれた息子に苦笑を漏らしながらもう一人の息子に思いを馳せる。
(さて、この先お前はどうするのか……)
一躍スターに躍り出たクロード、そして何かと世話を焼いている彼のご令嬢。
(……さてクロードは彼のご令嬢を捕まえらるのか)
それが国にもたらす恩恵を正しく知っているアルフレッドだけが、事の成り行きを静観し続けていた。
>く~ちゃんは臣下を手に入れた
>く~ちゃんは民意を手に入れた
>く~ちゃんは一躍スターダムにのし上がった
……く~ちゃんのレベルアップが留まる事を知らない。流石メインヒーローのポテンシャル(ゴクリ)
漸く隠密部隊の人々を出してあげられて満足です。彼らは姫を日夜自主セコムしてます☆




