親子の対話
本来なら一昨日に上げたつもりだったのですが、予約投稿日が一週間ずれていたことに先程気付いた間抜けです(><;)
まばら更新ですが、またブックマークを頂けるようになりました!ありがたや~(T▽T)
そして。
活動報告の方で触れさせて頂きましたが、話数も増えてきたので作者が世界観の管理をしやすくする意味も含め、今更ながら『章』を追加させて頂きました。
物語は丁度中盤に差し掛かったくらいでしょうか。
不定期更新が続いておりますが、読んでくださる方がいらっしゃることを励みにまだまだ頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します!
兄上が王太子となってから数日。
ナターシャから受け取った手紙に書かれていた指定通りに父上が私の部屋へやって来た。
「突然すまないな」
「い、いえ!!ち、父上自らお越し頂けるなど、勿体無い事です……」
親子らしい会話など何度あっただろうか。
思った以上に緊張していたらしく、予想以上に噛んでしまった。羞恥に染まるのが顔の熱さで分かってしまい、自然と俯いてしまう。そんな情けない私を見てか、父上が苦笑する気配を感じた。
「そんなに畏まらずともよい。今日はな、お前の今後について話を聴きたいと思ってきたのだよ」
「私の今後……ですか?」
「ああ。……時間は作ってきた。どうだ?とりあえず茶でも飲まないか?」
「あっ!!し、失礼しましたっ!!!ど、どうぞこちらに」
立ち話も何だと促されて漸く父上を入口に立たせたままだと気付いた。とんでもない事である。
私は慌てて侍従たちにもてなしの準備を急がせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こうして私的に会うのはいつぶりか……息災のようだな」
「父上はお忙しいですから。……ち、父上もお元気そうでなによりです……」
緊張で尻すぼみになる語尾。弾まない会話に部屋は静寂を湛えたまま。談話とはなんぞや?気まずい沈黙が部屋に満ちる。
決して親密な親子とは言えない微妙な距離感がお互いに気まずさを生んでいるようだ。父上はそんな気配を誤魔化す様に紅茶で口内を湿らせ、ひとつ咳払いした。
「さて。この度お前の兄が正式な王太子となったことで、お前の身の振り方を確固とする必要が出てきた。」
「……承知しています」
私は神妙に頷いた。そして正面から見据えてくる父上をまっすぐに見返す。その瞳が少しだけ笑んだ気がした。刹那、柔らかい空気は霧散する。私は堪らずゴクリと唾を飲み込んだ。
「その……なんだ。今までお前には辛労ばかりだったであろう?今後も全く無くなるわけではないが……。お前もやがて十になる。これからは己の意志で王族としての道を進んでもらいたくてな。……クロードよ、お前はどうしたい?」
王ではなく父として。その真摯な心遣いが嬉しく胸がきゅっと絞めつけられた。公の場では実子であっても『王』と『臣下』という一般的な親子関係など持てない身だが、こうして折々に触れて案じてくれる温かさを知っていたからやってこれた。寂しくても、時に孤独を感じても、父を信じてこられた。
私は脳内に乱雑に散らばった今まで考えてきたことを手繰り寄せ、何とかまとめ上げるとそっと息を吸い込んだ。ひたと父を見つめる。
「……私は、正直王位継承権などいらないと思っています。」
窺うように瞳が揺れるのを自覚しながら視線は逸らさない。父上は表情一つ変えずに続きを待っているようだった。少し気の抜ける思いで私は続ける。
「誤解の無いように言っておきますが、己れの王族としての責任から逃げようとは思っていません。ただ私は父上のこともそして兄上のことも深く敬愛しておりますので、お二人の治世の障害になる事を望みません。私は……兄上を武の方面から支えられる騎士になりたいのです。……今後はその為の努力をしていきたいと考えています。」
「……なるほどな。」
その場で静かに目を閉じた父上はどっかりとソファの背もたれにもたれかかり、私の言葉を舌の上で転がしているようだ。そうして吟味して後、少し前屈みになりながら広げた足の間で指を絡めて固定した。
「お前の志し、確かに聞き届けた。私は反対しない。好きにするが良い。ただ継承権の放棄は許さぬ。ものの例えだと承知しているが、お前の持つ王位継承権第二位という地位はこの国の保険だ。よからぬ輩を呼び寄せる甘水でもあるが、お前の身を護るものでもある。努々忘れず、短慮を起こす事のないように。」
「はい父上。肝に銘じます。」
「……しかし兄を護る騎士、か。なるほどなぁ」
堅苦しい空気をパッと消して父上が面白そうに口角をつり上げた。顎を手のひらで擦りながらにやにやと思いだし笑いをしている。
「あの・・・・・・父上?」
おずおずと問いかけるとにんまりと笑まれた。
兄上が獲物を見つけた時に見せるそれとそっくりな気配を感じ取りビクッと肩が跳ねる。慌てて話題を変えることにした。
「あ、ああああの父上!そういえば、こちら、ありがとうございましたっ!」
苦し紛れに差し出したのは先日ナターシャから貰った許可証。しっかり玉璽の押されたその紙面を父上に向けて掲げる。ちらと視線だけ向けた父上のあくどい笑みが深まった。
「…時にお前はナターシャ嬢の事をどう思っているのだ?」
「な、ななななななななっっ!!!?」
父上は組んだ両手に顎を乗せて只管ニヤついている。…ただでさえ唐突な爆弾発言に混乱しているのに、答えないと許してもらいないやつだ……。
急激に顔に集まる熱と、反して急激に冷やしていく冷や汗を両立させるという器用な現象を発現させながら必死に相手の思考を探る。どう答えたら正解なんだ、一体!
慌てふためき、結局いい考えも浮かばないまま、私は観念してぼそりと呟いた。
「……その、……ひ、非常に……こ、ここ好ましいと思っております。」
言った途端身の内から爆発したんじゃないかと思うほど茹で上がった。明確に口に出したのは初めてかも知れない。……改めて自覚させられて眩暈がした。
「ほう……。して、シルヴィア嬢はどうなのだ?」
「シルヴィーですか?……どうと言われましても、良き好敵手だと思っておりますが…」
打って変わってケロッと返してきた息子に父王は苦笑する。そこに付随するニュアンスを感じ取ったようだ。
(流石にまだ幼いのう。……肝心のナターシャ嬢の出方も判らぬし、暫くは静観か。……面倒くさい兄も控えておるしな……)
「あの……父上?」
父の意図が組めず、困惑気味にその瞳を覗きこんだ。しかし相手は緩く笑むばかり。
「その許可証についてだけれどな。先の令嬢たちが関わっておる。何やら面白そうな事をやっているようでな。丁度いいから、お前がその眼で確かめてこい。ついでに、運が良ければオーウェン騎士団長が出没する様だから稽古でもつけてもらえ」
「はい?」
「私が言いたいのはそれくらいだな。…ああ、あと、ラルフのバカたれは辞退したが、お前にはその内貴族学園に行って貰う。その為にもまあ、上手くやりなさい。」
勝手に自己完結して大仰に頷いた父上は、言うが早いか立ち上がり私の頭をひとつ撫でるとさっさと退室していった。
私は見送りも忘れてソファに固まったまま、珍しく父上から撫でられた嬉しさと、文脈の意味が分からないのとで只々目を白黒させるのだった。




