最初の一歩
すみません(><)ちょっと短めです…。
厳かに粛々と一年が終わり、新しい年が巡って来た。
新年一日目の午前中は王都の住人の殆どが王城前の広場に集まる。
王様を始め、王族の方々の挨拶が広場に面した王宮のバルコニーから行われるからである。
毎年恒例の公式行事だが、今年は特別の盛り上がりをみせていた。というのも、『第一王子殿下が立太子するらしい』とまことしやかな噂があったからである。
太陽がやがて中天に差し掛かる頃、漸く王族の方々がバルコニーへと姿を現した。その神々しい出で立ちに広場の民衆は息を呑み、一瞬の騒めきを残して押し黙り、頭上の王からの言葉を待った。
程なく一人最前に堂々と立った威厳の塊のような王が口を開く。
その低く良く通る美声は人々の心を鷲掴みにしていく。
新年を寿ぐ挨拶が終わると、王は傍らに息子を呼んだ。そしてこう宣ったのである。
「今日この日より、余の息子である『第一王子、ラドクリフ・クロムアーデル』を立太子し、正式な王太子とする」
広場に集った人々の静けさは増し、三拍ほど置いてその意味が理解できた瞬間―――……
……―――歓声が爆発した!
「この吉報をもって、新年1の週に限り王都の関税を免除とする。皆、この吉事を大いに祝って欲しい」
大声をあげたわけでもないのに不思議と大歓声にかき消されぬ王の宣言に更に民衆の圧が高まる。
「クロムアーデル王国万歳!ラドクリフ王太子殿下万歳っ!!」
誰からともなく始まった万歳コールが広場を埋め尽くし、王族の姿がバルコニーからすっかり消え去った後も人々の灼熱の大歓声は暫く王都中を轟かせた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さすがに疲れた……」
「お疲れ様です、ラドクリフ殿下」
私室に戻って早々、私は応接セットの豪奢なソファにくずおれた。
そこに従者モードのナハディウムが微笑と共に労ってくれる。…全く、この裏表の完璧さが憎らしいと何度思った事か。
差し出された紅茶を素直に受け取りながら、私はふと室内を見渡した。
「おや?ナターシャは?」
新年の挨拶行事の後、宮仕えの者たちとの晩餐会までの間に顔を出すと言っていたのに。目当ての少女の姿はどこにも無い。
ソファの背もたれの後ろに控えたナハトが綺麗な微笑のまま応えた。
「ああ、さっきシルビア嬢がやって来てね。ナターシャを連れて先にクロード殿下の方へ行ったよ」
「はぁ?」
従者モードの表情で、その声音は多少の八つ当たりを含んだ私的なもの。私だけでなく弟と親しくしていても面白くないらしい。……本当にこの男は狭量だな。
「それにしても…。シルビア嬢は王族以上に自由すぎないか?」
「そう思うならしっかりと躾て下さいよ…」
「う~ん……。難しい、か?」
彼女にも久しく会っていないが、相変わらず王宮内を自由に歩き回っているようだ。
お役目の後の癒しを奪われた私も、想定外のご褒美のおあずけをくらい更に疲労感が増した気がする。
「うう…ナターシャ……」
「情けない声を出さない。一息ついたなら、この後の準備を前倒しで済ませますよ。俺の妹も暇じゃないんです、煩わせないで下さい。」
「……お前、本当に私に容赦ない上に優先順位がおかしいと思うぞ」
何を当たり前の事を?とでも言いたげな腹心の表情に募る疲労感を抱えつつ私は立ち上がった。ナハトの言う通り、ナターシャとの時間は少しでもゆっくり過ごしたい。
私は情けないと分かりつつも、ついシルビア嬢に向けて恨み言を呟くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
突然ラルフの部屋に現れたシルビアに引きずられ久し振りに訪れたクロードの私室。
到着すると当然の様に部屋付きの侍従に通され、間もなく応接セットに紅茶がならべられる。
シルビアが当然の様にそれを口に運ぶと、部屋の主が戻ってきた。
「アーシェ!!シルヴィー!突然どうしたんだ?」
入口で私たちの来報を聞いたらしいく~ちゃんが、慌ただしくサロンにやって来た。式典の正装のままなので、いつもに比べ王子様然としている。
「新年おめでとうく~ちゃん。格好いいね!」
「はぇ!!?」
私が素直な感想を述べると目の前の王子様が茹で上がった。前言撤回。可愛いヤツである。
「クロ、感謝しなさい!あんたのお兄様より先に挨拶にきてあげたわ!!」
ツンとふんぞり返るシルビア。これまた愛いヤツである。
「今日は兄様について王太子殿下に挨拶に来たのよ。そうしたら突然シルビアが現れてね。あっという間にここまで連れてこられたのよ」
「だってナターシャって見つけた時に捕獲しないと捕まらないじゃない!」
ぷぅっと膨れるシルビア。いや、可愛いけども。私はそんなはぐれ何とかみたいな生き物じゃないよ!
「そうか…兄上に。ならばアーシェ、シルヴィーの面倒は責任をもって私が見ておくから、兄上の所へ行って構わない。」
「そんなすぐに追い出さないでよ!私はく~ちゃんにも会えて嬉しいんだから。……元気だった?」
「……ああ。」
照れくさそうに笑うクロード。ちょくちょくシルビアから近況報告は聞いていたけれど、こうしてちゃんと顔が見られて良かった。
勿論、中々クロードの所に来られなかったのにだって理由があるのですよ。私はこの日の為にしっかり根回し準備してきたのだ!
「さて、一生懸命頑張っていたく~ちゃんにご褒美があります!」
「何だ?藪から棒に?」
「本当は明日ラルフの式典が終わってからにしようと思ってたんだけど……。」
私はゴソゴソと懐を探り「じゃ~~~ん!!」という掛け声と共にある書類を両手で広げた。そしてずずいっとクロードに向けて近付ける。
「こ、これはっ!!?」
訝しげに書類に目を通したクロードが驚きの声を上げた。




