囚われの…?
お休み挟んですみません(><;)
お待たせしましたっ!!
…ぼんやりと目を開いた。…頭が重い?
ゆっくりと不規則に何度か目を瞬いて漸く意識も覚醒してくる。
私はいつも通り仰向けに眠っていたようだ。…あれ?おかしいな?…確か兄様の見送りをして、自室に戻って…?…そこから記憶が曖昧……。いつの間に一日を終えたんだ私?
そこでドクンと胸が縮んだ。
(…知らない、天井……!?)
私室の天蓋付きベッドで無い事は確かだ。だって見慣れたビロードの布地はどこにもなく、遮る物の無いまま板目の簡素な天井が見えている。そう意識すれば空気も違う事に気付いた。…ここは木材のようなどこか懐かしい臭気に溢れている。
瞳を閉じて集中してみても見知った気配は感じられない。…そもそも人払いされているのか閉じ込められているのか人の気配すらない。混乱しようとする頭を冷静に叱咤して、一先ず置かれた状況を確認しようと恐々視線を横に向けると――
「よっ!姫さんおはよう」
――お日様の様に笑う見知ったソウガが立っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「説明して頂戴っ!!」
私はベッドの縁に腰掛けて足を組み、腕まで組んで怒っていた。その矛先は、対面した床に正座させた師匠である。
この時には意識の途切れた原因が目の前のソウガである事を思い出していた。私、滅多に怒らないんだからねっ!!
大人しく正座しているソウガは非常にバツの悪そうな、誤魔化し笑いに失敗して微妙に半開きの口と下がり切った眉が何とも情けない顔をしている。…くっ!ちょっと可愛いとか思ってしまった!!
(いやいやダメダメ!!…ここで絆されちゃダメよナターシャっ!!)
偉丈夫のしゅんと小さくなったギャップに悶えている場合じゃない。私が知りたいのは今置かれている現状だ。師匠がいるなら安全は約束されているけれど、その元凶が同一人物ならば話は別だ。
私は目一杯渋面を作って――つもりだ!――ソウガの返答を待つ。
暫く目を泳がせていたソウガが意を決したように腹に力を入れて――
「すまんっっ!!!」
――綺麗に土下座した。
「いや、謝って欲しいんじゃなくて、状況を説明して欲しいのだけど!?」
師匠の勢いに押され、驚きに怒りが霧散しかけるが何とか堪えた。ダメよ、直ぐには許さないんだから!堪えて私!!
「それは儂が引き継ごうかの~♪」
いきなり割り込んできた楽し気な声が鼓膜を揺らした。――刹那、
「姫さんっっ!!」
師匠に素早く抱えられ飛びのいたその場所にあったのは、深々と突き刺さったクナイ。…ん?…クナイっ!?
そしてソウガが着地した先にはいつの間に張られたロープ。師匠の踵がそれを引っかけたと同時に降ってきたのは沢山の木桶。…え?何で桶っ!?
危なげなく躱した師匠が私を部屋の隅にそっと優しく下ろし、すぐさま機敏に振り向いた。その手には短刀。ガツンと鈍い音が響く。中腰の師匠と被さって相手は見えないが、誰かがソウガに木刀を振り下ろしたようだ。
「…こんの、…クソ爺ぃ~~~!!!」
「このくらいで慌てる様じゃまだまだじゃのう~♪」
(ふぇっ!!?…じじい??……え?………え!?……)
つばぜり合う師匠と誰かの押し合いが暫く続き、その力んだ空気が一瞬解けると、
―――バッコンッ!!!
師匠の頭に大きな盥が落ちてきた。堪らず呻きながら蹲るソウガ。…うん、あれは痛いよね……。
「ふんっ!この未熟者がっ!!」
師匠が蹲った事で漸く相手が見えました。長い白髪を緩く一つに結び、お揃いの長めのお髭がチャーミングな小柄なお爺さんです。着ているのは作務衣!?うわ、うわ、作務衣とかあるんだこの世界!!?…そんなお爺さんがとっても好々爺然とした表情で私を見下ろしていますよ?
「お初にお目にかかるの、嬢ちゃん。儂はライメイ。この木偶の坊の師匠じゃよ♪」
そう言って私に向けニッカと笑ったライメイ氏はソウガにとても似ていて、何だか色々納得してしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私が案内されたのは和風家屋チックな茶室。
そこにライメイ氏と対面する形で私と師匠が並んで座る。ソファじゃなく座布団だ!!
畳!畳ですよ!!藺草の青っぽい良い香りに思わずうっとり。あ~、すだれ越しにそよいでくる風が心地良い~。微かに響く風鈴の音が涼を誘います。何だかお線香の香りも漂ってくるような気分でこれぞ日本の夏!!…って本格的にどこなんだ此処は!!?
「いや~、悪かったのぅ。急に呼びつける形になってしもうて。…儂がそっちへ行くと言ったんじゃが――」
「絶対にお断りだっ!!」
「――と、一点張りでな。」
「……はぁ。」
ニコニコ笑う大師匠が差し出してくれたお茶――冷たい麦茶だよっ!――を飲みながら、私は師匠を窺った。いい加減説明求む!
「…この爺ぃは『ライメイ・イースン』ダンデハイム領の東を任されているイースン伯爵家のご隠居で、前の隠密部隊頭領だ。…俺の師匠で、実の祖父。」
「師匠のおじいちゃん…?」
「で、ここは爺ぃの庵。領東の隠れ家。」
「隠れ家か~~~…ってちょっと待てっ!!師匠、今領東って…?えっ!?…ここダンデハイム領!!?」
「そうじゃよ♪」
「え?えっ!?嘘でしょ!!?だって一晩で!!!??領都だって三日かかるのに、それも東ですって!!!???」
「正確には二日。姫さんは二晩寝てたんだ。ずっと俺が抱えて早駆けした。…ちっこい姫さんじゃその衝撃に耐えられないからな。眠ってて貰った。…あと、この場所を知られない為ってものあるが……」
「えぇぇっ!!?それでも二日ぁっ!!!?」
何てこった!意味が解らん!!解らんが、事実、事後報告なのだから現実だ。取り合えず流すっ!
「……で、師匠のおじいちゃんが私に何用でしょう?」
「おじいちゃん!ええ響きじゃのう♪」
長い白髭を下に何度も引き伸ばしながらライメイが笑む。いや師匠の祖父なら私にはひい爺ちゃんだけどね?――ライメイ氏はニマニマと言葉の余韻に浸っている。
「いやなに、ウチの愚孫が世話になっとると小耳に挟んだもんでな。…顔見がてら嬢ちゃんにちっと稽古でもつけてやろうかと思うての。」
ふぉっふぉと朗らかに笑うライ爺。……大師匠が稽古を?つけてくれる?…私に??
「どうかの~?お嬢ちゃん?」
「~~~~~な、ナターシャ!ナターシャと言いますっ!!不束者ですがよろしくお願いいたしますっ!!!」
(そんな素敵な機会を逃してなるものかあああぁぁっっ!!!!!!!!)
あ~あ、と顔面を手の平で覆って頭を抱える師匠を横目に、勢いよく三つ指ついてお願いしましたよ!!
どこの嫁入りだよっ!てくらい深々と頭を下げれば、「元気じゃのぅ。ええのう~」と大師匠の笑い声が降ってくる。
(ナターシャ、この夏大人の階段上りますっ!!!)
私は心の中でガッツポーズを決めるのであった。
…ナターシャ、レベルアップの予感。




