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異世界転生したサポート令嬢はうちの子たちを幸せにしたい  作者: 神那梅雨
木漏れ日の降る丘で
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眠り姫の見る夢は

活動報告にも書きましたが、この回の更新が遅れました事、改めてお詫びいたします。

お待たせいたしました。

 ―――――どうして?

 何度となく問いかけた答えは大人たちの苦い笑いにかき消される。――嘲笑に胸が裂けそうだ。

 だって、でもと反論すれば、仕方ない、決まりなんだと返される。――聞き分けろと諭された。

 堂々巡りの問答を、望む結果を期待して繰り返しては裏切られる。――それでもと繰り返してしまうのだ。

 ―――――どうして?

(…私が子どもだから?)

 ―――――どうして?

(…私が女だから?)

 ―――――どうして?

(…私が平民だから?)

 悔しさに滲む涙を隠すように蹲って顔を伏せた。小さく丸くなって私は殻に閉じこもる。傷つきたくない。だけどこのままじゃいられない。なのに私はちっぽけで、もうどうしたらいいのか分からないの……。


「どうしたの?」


 不意に掛けられた声に少しだけ顔を上げた。


「泣いてるの?…お腹痛い?」


 私が膝を抱え込んでいたのでそう思ったのだろう。ゆるゆると頭を振って否定した。虚無感に囚われて、声を出すのも億劫だった。

 ちらと見えた声の主は、薄桃でフワフワの髪の天使みたいな男の子。天使様なら良いかな?ちょっとぐらい愚痴をこぼしても、頭ごなしに否定されたりはすまい。


「…私の事なのに、私じゃ…どうにもできないの……」


 絞るように漏れ出た言葉は自分でも意味の分からないもので思わず自嘲した。天使様は困り顔で思案してから「ちょっと待ってて」と言って走り去った。こんな意味不明な女に構っていても仕方ないだろうからもう戻ってこないだろう。

 私は再びぼんやりと地面を見つめて思考の渦に身を投じる。生産性の無い日課だ。そう分かっていても「いつか」を夢見てしまうのだ。現状を変えたくて空回る私を、否定され続ける毎日から、


(誰か、…助けて……)


 ―――…ちゃん

 ――――…えちゃん!


「お姉ちゃん!!」


 肩を軽く揺すぶられて我に返った。ハッと顔を上げると、そこには心配そうな顔をしたさっきの天使様。


「お姉ちゃん、ほんとに具合悪いんじゃないの?大丈夫?」


 やけに気遣ってくれる男の子だ。…優しいんだ。流石天使様。

 …さっきまでの荒んだ心がじんわりと緩んていく。そうして少しだけ笑う事が出来た。


「ありがとう、ほんとに大丈夫。具合が悪いわけじゃないの。…ちょっと考え事してただけ。」


 今度はもう少しマシに笑えた。天使様は真偽を確かめるかのように私をじっと見つめてくる。夕暮れの瞳に吸い込まれそう。綺麗な澄んだ赤い色。何だが頬が熱くなってきた…。

 天使様は軽く息を吐いて立ち上がった。遠くで呼ぶ声がする。天使様のお迎えみたいだ。彼が声の方へ手を振って応えた。


「これ、お姉ちゃんにあげる。」


 そう言って握らされたのは封筒?…綺麗な青い小花の封蝋の押された未開封の手紙だ。


「これはね、魔法の手紙なんだよ!本当に困ってる時に、このお手紙に願い事をすると叶えてくれるんだ。…僕の願いは叶ったから。だからお姉ちゃんにあげる。負けないで!!」


 天使様が私の頭を撫でてくれた。そして可憐な笑みを選別に、駆け去っていった。

 私は彼の手が触れた部分に己の手をあてがい――もう一方で渡された手紙を握りしめたまま――惚けた表情で(ポ~~っと)男の子(天使様)が離れた所の馬車に乗り込み遠ざかるのを見送った。夕日に当てられたみたいに頬が熱い。

 とくんとくんと胸が高鳴る。きっとこれは運命なのだと――もう見えなくなってしまった馬車の先を尚も見つめながら――天使様の可憐な笑顔を胸に刻み込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ばっかじゃないのっっ!!!」


 腰に手を当て前かがみになったシルビアがプリプリとく~ちゃんを責めた。

 そんなく~ちゃんは寝台の中。額に冷たい濡れタオルを置かれている。…そう、発熱しているのだ。


「折角私がお父様にお願いして外出許可を貰ってあげたのに!台無しじゃないっ!!」

「まぁまぁシルビア、く~ちゃん本当に楽しみだったのよ。許してあげて?」


 クロードは遠足前の子どもよろしく、お出掛けが楽しみ過ぎて発熱してしまったのだ。何とも苦笑を禁じ得ない。

 本来なら今日は三人で孤児院へ行こうという話になっていた。

 シルビアの剣幕に断り切れず、渋々支度をしていた私の元に、王宮から伝令が来たという。何事かと思えば、クロードが体調を崩したために外出できないというものだった。ならばと見舞いに参内する旨を伝え、私は支度を王宮用に改めた。


(…正直ナターシャとして訪ねるのは不都合だったから、く~ちゃんナイスアシストよ!)


 病人に対して不謹慎ではあるが心の中で感謝を唱える。

 聞こえた訳でも無いのに横たわるクロードが不本意そうに眉間に皺を寄せた。

 熱で潤んだ瞳がそっとシルビアを捉える。


「…すまないシルヴィー。私も己の不甲斐なさに戸惑っている。」


 ほんの少し首を曲げて謝罪した拍子に額の濡れタオルがずれ落ちた。それを乱暴に取り上げたシルビアがベチっとクロードの額に押し付け直す。


「…うるさい。は、早く元気になりなさいよね!」


 早口に捲し立てたシルビアがそっぽを向いた。耳まで赤くなっている。照れているのだ、何この可愛い生き物!

 私は反射でシルビアを抱きしめて頭を撫でまくった。今全力でシルビアを愛でろと心が叫んでいる!!


「うみゅ~!!き、今日は帰るっっ!!」


 真っ赤な顔でシルビアが飛び出してしまった。


「あらら、からかいすぎちゃった…」

「……アーシェ」


 少し非難の色を宿して横目でクロードが窘めてきた。そんなウルウルのお目目で睨まれたって怖く無いもん!

 私はタオルをすすぎ絞り直してく~ちゃんの額に乗せ直した。そのまま髪を指で優しく梳いていく。


「何か欲しいものはある?」


 母猫に毛づくろいされる子猫の様に目を細めるく~ちゃんに微笑みかける。数瞬逡巡する素振りをみせて躊躇いがちに口を開いた。


「…何か…冷たいものか、瑞々しい果物が食べたい……」

「分かった。用意してもらうから、もう少し寝てなさいな。…大丈夫。寝付くまでここにいるから。」


 ふんわり手を握ると安心した顔でクロードが笑んだ。


「何ならラルフの時みたいに添い寝してあげようか?」


 からかい交じりに笑えばく~ちゃんの目が落っこちそうなほど見開いた。


「~~~~////。勘弁してくれ…。私ももうそこまで幼くないぞ……」


 何かを堪えるように呟いたクロードに「ごめんごめん」と悪びれなく苦笑する。それに盛大な溜め息で返して瞳を閉じた。


「でも……手は・・離さないでくれ」


 ぼそりと呟かれた可愛いお願いに快く頷いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「うふふ…。……僕の可愛い(ひと)


 その(ひと)はうっとりと私を捕らえて離さない。絡みつく視線に息が止まる。

 壊れ物に触れるように私の手の甲を撫で、そのままさするように腕を伝い、首筋を這い、私の顎を持ち上げた。薄く開いた唇は笑みの形を浮かべ、眦が恍惚に溶ける。それなのに瞳は妖しい光を湛えていて、私の背筋を冷や汗が伝い落ちた。


 ―――――狂っている。


 脳裏に浮かんだ言葉を肯定するように彼は嫣然と笑み続ける。


「やっと掴まえた。…もう僕のものだよ。ね、だって僕は……」


 頬に手の平が添えられる――それがやけに冷たくて身体が粟立った――ゆっくりと彼の顔が近付いてくる。額が合わさり、彼の瞳に怯えた私が映っている。それを愛おし気に眺めて彼が…甘く蕩けてほんの少し掠れた声で囁いた。


「……僕だけが、君の全てを解っているよ。」


――――――――――……

―――――――……

―――……


(~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!!!!?)


 声にならない叫びをあげて私は飛び起きた!!額には玉のような汗が浮かび、呼吸は乱れている。

 寝ぼけてブレた焦点が定まると、中途半端な態勢で固まったく~ちゃんと目が合った。


「アーシェ、その…魘されていたから声をかけようと――――」


 へどもどするクロードの言葉を最後まで待たずに思いっ切り抱きついた。まだ少し熱を帯びた彼の体温が冷えた私の心をじんわり温めてゆく。


「ひぇっ!!?あ¿?アーシェっ!!?」


 く~ちゃんの裏返った悲鳴を聞いたら落ち着いてきた。意識的に深く息を吸う。あ~…そうだ。すやすや眠るく~ちゃん眺めてたら何だかうとうとし始めて…繋いだ手の温みがそれに拍車をかけてきて……そのまま転寝してしまったらしい。


(ないわ~!無いない!!あの結末だけは絶対消去(デリート)根絶!!フラグすら与えぬっっ!!!)


 夢の余韻に当てられて身震いがおきた。すると恐る恐る抱き返してくれたく~ちゃんが労わる様に私の背をさすってくれた。その気遣いに笑みが零れる。…もう大丈夫と軽く抱き寄せて離れた。


「ごめんねく~ちゃん。病人なのに起こしちゃった…」

「いや、構わない。…怖い夢でも見たのか?」

「うん。…悪夢。……正夢にならないように頑張る。」


 俯いた私の頭も優しく撫でてくれた。クロシロはとっても優しく育っています。お母さんは嬉しいよ!!

 そこで寝室の扉がノックされた。侍女さんが頼んでいた果実を持ってきてくれたようだ。私は立ち上がってトレーを受け取り、もう少し看病したら帰ると彼女に伝えた。静かに頷いた侍女さんは恭しく下がっていく。


「あ、く~ちゃんリンゴ食べる?今ならサービスでウサギさんにしてあげるよ?」


 敢えて明るく振る舞って最後の夢の感触を払拭する。…疑似体験だったとしても、相当堪えたわ。ステラはあれに耐えた訳?


(『ユーリ・サリュフェル』…取扱注意の爆弾小僧…。どのタイミングでまみえるかまだ判らないけれど、用心しとかなきゃ……)


 夢に見た彼のバッドエンドだけは回避しなくては…。

 過った決意を取り合えず記憶の片隅にうっちゃって、私はクロードの看病に集中した。

新しいうちの子『ユーリ』に関しては、機会が訪れた時に詳しく触れます。

今はナターシャが早く忘れたがっているので勘弁して上げてください(苦笑)



 + + + 

ちょっと浮気をして短編をこしらえました。

『今日も元気だビールが美味い!』

https://ncode.syosetu.com/n4599ey/

中年女性の食道楽のお話です。

お時間ございましたらこちらも楽しんで頂けたら嬉しいです!

よろしくお願いいたします。

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2020/6/26
あの、中年聖女がリターンズでございます!
新作☆中年『トーコ』の美食探訪!その二の巻
今日も元気だビールが美味い!~夏といえばビールでしょ~

+++

こちらも引き続きよろしくです☆

唸れ神那の厨二脳!
『親友(とも)を訪ねて異世界へ~ReBirth Day~』
巻き込まれ女子大生の異世界奮闘記
『Re:トライ ~指名依頼は異世界で~』
中年『トーコ』の美食探訪!
今日も元気だビールが美味い!

宜しければ是非応援してください☆
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