考察
※2018/9/4 誤字修正しました。
私にしがみ付いてこと切れたクロードは、問答無用で兄たちに連行されていった。結構乱暴に扱われていたけれど全く起きないのが凄い。
今度こそ本当に静かになってほっと一息ついた。
今日は本当に色々あった…。
(何で兄様の幼少期イベントがクロードにすり替わったのかしら…?
――ゲーム設定のナターシャでは無いから…。私が干渉し始めて、因果法則が変わってきている…?)
それは可能性として多分に考えられた。
しかしイベントの対象キャラクターが変わってしまうほど大きな歪みなのだろうか?いやまて。逆から考えるんだ。
今のナハトは野犬を軽々屠れるほど強い。例え不利な状況でもそう易々と野犬一匹に窮地に追い込まれたりはしないだろう。そうなればイベント発生の要因がなくなってしまう。
しかも兄のトラウマを回避すべく私は私の武器を手に入れた。ソウガという護衛だ。彼らは日常に干渉することは無いが、ダンデハイムの人間を陰から護衛している。本当に危険が迫れば手を貸してくれる筈だった。
だから少し無茶をしようが、兄が気に病むほどの怪我など負わないだろうと踏んだのだけれど。
(それが更に過剰防衛となって、イベント成立条件を外れた…。)
しかしここには『The☆5歳児』のクロードがいた。
そして……
「師匠、いる?」
「姫さん、すまんっっ!!!!!!」
大の大人が小さく折りたたまれて出現した。古式ゆかしい綺麗な土下座である。ミシミシと床に師匠の頭がめり込んでいく。想定外の事態に呆気にとられてしまった。
「え!?いや、師匠!?ちょ、どうしたの!?…顔、上げてください!!」
「断る!!嫁入り前の娘にそんな大きな傷を負わせてしまうなんて……どんだけ謝っても償いきれない!!!」
「いやいや、大げさに包帯巻かれてるだけで、そんなに大した傷じゃないから!!」
「そういう問題じゃない。俺は、姫さんの影なんだ。」
(あ、…やっぱり。)
今の言葉で確信を持った。…そういうことなのだ。
「ねぇ、師匠。やっぱり昼間、私の傍に居なかったんだね」
「…あぁ。今朝方の姫さんとの約束を果たすために、動けるのが今日に限って俺しかいなくてな。
同じ場所にぼん担当の影がいたし、そいつに任せてちょっくら席を外したらこれだよ。…俺は影失格だ」
今日に限って…か。
(これは間違いない…かな?)
ずっと発生すると思っていたナハトのイベント。
これは私の準備やナハトの能力の向上で発生不可の状態にまでになっていた。だから何事も無ければこのまま『野犬に襲われた』というエピソードは消滅、私とナハトの兄妹関係は健全なまま通り過ぎれた。
しかし対象を変えればこのイベント発生条件が整ったのだ。
・イベント発生の時期【ナターシャ5歳】
・発生エリア【ダンデハイム領】
・隙のある子供【クロード】
・野犬が出現してもおかしくないフィールド【野外、森】
(―――そして対象を庇う【私】……)
私から危険を遠ざけるファクターが無くなったことで、イベント発生条件が補完され実行された…。
(更に野犬からすんでで私を助ける護衛が【兄様】になったのか…。)
配役はめちゃくちゃだが、私という核を中心に必要な役所は揃っている。
(そして私が見た夢……)
あれはステラがナハト攻略イベントで開く、ナハディウムの過去の扉で体験する光景。
彼女はそれによりナハトの心の傷を知り、彼に寄り添い励ます事でナハトからの信頼を勝ち得ていく。それは妹という依存対象からナハトが離れていくきっかけでもあった。
(でも本来あるべきナハトでイベントは起こらなかった。…イベントが差し変わったことによるく~ちゃんの反応がどうなるかだな。)
仮説は立った。証例が一つしかないから十分な証明は出来ないが、各キャラクターに起用されたイベントは起こりうるのだ。但し、それが該当するキャラで成されるかは不明。必要なのはイベント発生条件が整うかどうか。条件がほぼ満たされた場合、都合の良い強引な補完力が働く可能性がある。
(師匠が私の傍に居られなかったみたいに…)
考え込んだ私を、師匠がしょんぼり見つめていた。責めていると勘違いしているのかもしれない。
「師匠は何も悪く無い。そもそもその原因を作ったのは私ですよ?
…で、成果はありましたか?」
敢えて大げさに笑って見せた。
それに力なくソウガが答える。
「あぁ。姫さんが探していると思しき少年は見つけた。…名前も一致した。間違いないと思う。」
「流石師匠!!素敵!!!大好き!!!!」
喜び勇んでベッドから師匠にダイブ。土下座の体勢だったのに危なげなく私をキャッチしてくれた。そんな師匠の首に腕を回しきつく抱き着く。ゴロゴロとすり寄ると、ソウガが狼狽しているのが分かって可笑しかった。
「師匠、ありがとう。…本当に怪我の事は気にしないでいいから。これは必要な事だったの。…詳しくは言えないけどそうなんだ。だから大丈夫。
もし、どうしても自分を責めちゃうなら…これからも私の力になって。…私を信じて、協力して欲しい。
今回の事は『師匠は私の命令に忠実に従ってくれただけ』…そうでしょう?」
「~~~~~…俺は姫さんの影だ。何があっても主の命は絶対。…そう、だな」
ソウガの言葉にナターシャは満面の笑みを返した。まるで『良く出来ました』と年上に褒められたような錯覚をソウガは受けた。
(まったく、何てお嬢ちゃんだ!!)
齢5歳の少女が、ダンデハイムの血を遺憾なく発揮してくる。間違いなく主の器だった。己はエルバスに仕える為に生まれたのだと思っていたけれど、この少女に出会うためにエルバスと引き合わされたのかもしれない。今この瞬間、ソウガは本当に心から仕える主を見つけた。それは番いを見つける動物の本能と呼べる感覚で。――身を震わす歓喜の甘い痺れが背中を駆け抜けた。
「俺はこの先、何があっても……例え主命に背いてでも、姫さんの…ナターシャの味方だと誓おう」
抱えた少女をベッドに座らせると、その小さな足を持ち上げ、恭しく爪先に唇を落とした。
「し、師匠!!?」
突然のソウガの奇行に私は慌てふためいた。当の本人はさっき迄のシリアスはどこへやら、へらっと笑っている。
「ま、これからもよろしくってことで!」
言って私の頭をぽんぽん撫でた。むぅ…。これで誤魔化されると思うなよ!
「……早速だけど師匠。これから私をビシバシ鍛えて欲しい。…有事に自分で対処できるだけの能力が欲しいの」
「まぁ俺としてはその方が心配の種も減るし良いぜ~!」
「あ、父様には内緒ね!令嬢として許容出来る能力以上のものは報告しないで、お願いします!!」
「イエスマム!」
(容認しちゃうんだ!?)
…急に心強い味方が出来た。
クロードへの影響は明日以降観察するとして、領地に居る間に彼にも接触しなければ。
彼――『ミケル』
この領地に住まう、未来のステラの攻略対象の一人。…つまり私の子どもの一人だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
▶『ミケル』
平民出身の少年。ステラの2歳年下で、頭脳明晰な為特別奨学生として学園に入学してくる。
彼には野望があった。医者になること、自分の母を死に至らしめた貴族に復讐すること。
ミケルの母はダンデハイム領に暮らす男爵家で働いていた。父はミケルが生まれてすぐに不慮の事故で他界。女手一つで自分を育ててくれる母をミケルはとても敬愛していた。
病弱な母の為、何時しか医者になる事を志すミケル。
ミケルが12歳になった年、その年は稀に見る大寒波が王国中で猛威を振るった。
その影響で風邪をひいたミケルの母は仕事を休むことが出来ず働き続けていた。
あっという間に風邪を拗らせたが、男爵の命令で尚も仕事を休むことが出来ない。衰弱した母はその年、肺炎を患って死んでしまう。
復讐の鬼となったミケルは学園入学後、領主家である私のクラスメートであるステラと接触。
同じ平民という事で仲間意識が芽生え、ステラとは自然と仲良くなっていくのだが…。
―――しか~し、この『ミケル』。後輩キャラ故交流期間が短い。
その中のとあるイベントを達成出来ないと、ミケルの攻略イベントは以後発生不可となり、彼は卒業後、身につけた知識で件の男爵一家を毒殺。医者として最もやってはいけない所業に手を染めたミケルは、苦悩のまま服毒自殺してしまうのだ。
だからこそ、一番ステラ任せに出来ないうちの子だったりする。
でも安心しなさい。私がまるっと貴方を助けてあげましょう!
待ってろよ~ミケル!絶対に不幸になんかさせてあげない。
笑いの絶えない幸せな生涯をお見舞いしてやるんだから!!!!!




