バザール
※2018/9/4 誤字修正しました。
先頭の騎士さんsが人混みを掻き分け、その後ろを私達一行が歩く。その状況の異様さに、徐々に人波が我々を避け始めた。流れは伝播し気づけば見えない壁があるかの如く、遠巻きに囲まれている。ヒソヒソ、好奇の視線が痛いです…。
いくらお忍びスタイルになった所で王族のオーラは消せないよね…。きんきら金だもん、この兄弟。
それに追従する我が兄様も、色彩こそ地味だが非常に整った容姿なのです。
まぁ、一番の要因は物々しい警備態勢だろうけど。良いところのお坊ちゃん丸出しですよね~。
そんなお貴族様丸出しの我々です。何かしら粗相がありでもしたら命がない→関わりたくない→遠巻きに逃げる
……一般庶民の当然の処世術だと思います。
お陰で店先は随分見易くなったけどね。
「ねぇユージン、いい匂いがするわ!!何かしら?」
抱っこされたままの私はとある天幕を指さした。ザッと人垣が割れる。モーゼかよ!!そしてまっすぐ割れた道の先で串を焼いていたおっちゃんがぎょっとした。心中お察しします…。
「ああ、あれはダンデハイム領の名産ですよ。行ってみましょう」
誰に阻まれること無く拓かれた道を進み――まるで臣下に侍られた謁見の間の如く――難なく目的の天幕へと到着。串焼きのおっちゃんは滝のような汗を流している。…炭が熱いからだと思いたい。
この料理についてユージンが親切に説明してくれた。
「お嬢様、これはこの領の地鶏を炭で炙り甘辛いソースを絡めたものです。中々に美味なんですよ。」
(うん。私よ~く知ってる。焼き鳥っていうんだよ、これ。)
この世界は文字体系こそ独自であったが、食に関しては私の記憶と大差がなかった。だからいつかは出会うはずと信じていた。…クレープ…焼きそば……じゅるり。
しかし私は悲しいかな伯爵令嬢。ジャンクフードなど食卓に並ぶ筈もなく…。軽食なんて精々サンドイッチやスコーン、マフィンなのだ。いや美味しいのだけれども。それとこれとは別なの!!
たまに庶民の私が叫ぶのだ。ジャンクでチープでお手軽なものが食べたいと。
だから、どうしても、街に出たかった!!
(お久しぶりです焼き鳥様、以前は大変お世話になりました)
香ばしく焼き上がった縦列のお姿に目が釘付けです。屋台ってどうしてこう庶民の心を惹きつけるのかしら?いえ、今は貴族だけれども。
その食いつき方が半端無かったからだろうか?半泣きの店主が大量の焼き鳥を――看板には鳥焼とあった――私に差し出してきた。
「ぜ、ぜひ、持って行ってくだせぇ!!」
「え!?こんなにっ!?あ、あのお代を――」
「とんでもねぇ!!ど、どうぞ、っっどうぞ!!」
物凄い剣幕でぐいぐいと商品を押しつけてきたので、ユージンが受け取った。そしてばっちり見てしまった。店主があからさまにホッとしたのを…。―――私は気づいてしまった。
―――この行軍は失敗した、と……。
ズバリ私の予想は的中した。
焼き鳥屋から先は食べ物系の通りだったらしく、マラソンの給水所のごとく様々な飲食物を献上された。そこに私たちの意思など関係なかった。各店主が――生贄を捧げるかのごとく――震える手で、青い顔で、滂沱の涙を流して、商品を差し出していたのだ。
私たち一行はそれを丁寧に一つずつ受け取り、バザールの外れまで進んだ。そこはちょっとした広場になっており、簡単な椅子やテーブルもある休憩スペースのようだった。
麗らかな昼下がり。本来ならもっと活気溢れる場所であろうに今は閑散としている。――理由は考えない。精神衛生上良くないと判断――私たちはその一画に腰を落ち着けた。
「かなりの無法地帯のように思えたが、利用者を優遇する体系が確立しているのだな。勉強になった。」
お供え物――ポテトフライ――を口に運びながらラルフが感心している。
(んなわけあるかいっ!!!)
私は涙を堪えながら焼き鳥を頬張る。美味しい…、それが余計にやるせない。
というか、庶民層の方々の貴族に対する偏見が凄まじい件。
…どうしてこうなった。違うんだ、私はこうもっときゃっきゃうふふと皆で楽しみたかっただけなのに。
屋台のおっちゃんたちと軽口たたいてうんちくを聞きながら、出店を冷やかして回りたかっただけなのに…。貴族なのがダメなのか!?差別反対!!!
無理ですね…。権力社会です。階級格差が絶対です。分かってはいるのです…。
「ねぇ、ユージン…。あなたこっそりこの代金支払ってこられない?」
私はこっそり傍にいた彼に尋ねる。要領を得ないお坊ちゃま方は首をかしげ、すぐにジャンクフードに夢中になった。タダより怖いものはないのだ少年たちよ。
「う~ん…。あの様子だと受け取って貰えないでしょうねぇ…」
「だよね~…」
でもさ、これくれた店主さんたちは商品を売って生計を立てているわけで。私たちのせいでこんなに沢山赤字を出したとかシャレにならない。見合った対価は必須。当然の権利。好意の範疇を逸脱しているもの。
社会人としての私が『否』と叫んでいるのです。
「く~ちゃん、それ美味しい?」
クロードはクリームたっぷりのクレープのようなものを頬張っていた。無言でコクコクと頷いている。
「ラルフ、王族は国民を護るものであって、その尊厳を貶めたりしないわよね?」
「?…当然だね?」
「兄様、この領に殿下が滞在されている事はある程度広める予定でしたよね?」
「あ、ああ…そうだけど……??」
うん。無銭飲食、ダメ、絶対!!その対価、労働で還しましょう。
私は控えているユージンとナキアを手招きして、内緒話を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて。小腹は十分満たされました。
なので、ナターシャの恩返しと参りましょう。
私たちは先ほどの給水スポット…もとい、食べ物エリアに戻ってまいりました。対峙するは最初に焼き鳥をくれたおっちゃん。まさかの出戻り襲来に青ざめ声もありません。
それを周囲の通行人たちが遠巻きに眺めています。うんうん、そのまま見てなさいよ?
「そこの貴方、先程はどうも」
私が声をかけると店主の肩が大きく跳ねた。ガタガタ震えて今にも失神しそう…。頑張って!すぐ終わるから、もうチョイ耐えてくれおっちゃん。
私はラルフを振り返り手まねき。――何か飼い主に呼ばれた忠犬ばりに尻尾がわっさわっさ揺れる幻影が視えた!?気のせい??
……気を取り直して、ご機嫌のラルフに向かう。
「貴方のくださった商品をこのお方がとても気に入ったそうなの。お礼を申し上げるわ」
「ああ、店主。確かに美味しかったよ。初めて食べた料理だが、この様な美味なものがあるのだね、今日は来てよかったよ」
「まぁ!貴方、光栄に思いなさい。ラドクリフ第一王子殿下のお墨付きを頂けたのだから」
「は…???」
おっちゃんはフリーズした。そうなるよね。
まだ状況を飲みこめない周囲。ざわめきは微かだ。
焼き鳥の店主を置き去りに、私は素早くクレープ(?)屋の前に移動した。今度はクロードを手招きする。同様にクロードに感想を促せば、
「おまえがつくったこの菓子はたいへんびみだった。ほめてつかわす」
何でお前は毎回兄ちゃんより尊大なのか…。まぁ、良いけど。
「誇りなさい!クロード第二王子殿下直々にお褒めの言葉よ」
最後は兄様。
兄様は弾ける果実水がお気に召したようなのでその店先に移動。殿下方同様に素直な感想を頂きました。売り子のお姉さんが超絶美少年スマイルにやられております。
「兄様はこのダンデハイム領の領主子息。次代の領主様です。ふふ、領館から注文がくるかもしれなくてよ?」
さぁ、仕上げましょうか!
私は一行を待機している馬車の方へ歩かせる。障害は無い。モーゼの道は健在だ。私はまたユージンに抱っこしてもらい、態と聞えよがしにしゃべり続ける。
「我が領のバザールが、王子殿下や領主子息の兄様たちのお眼鏡に叶うなんて素晴らしいわ!!皆様とってもお優しいし、私も気に入りましたわ!!
…ねぇ、ユージン、絶対にまた連れてきて下さいましね?だって、ここには殿下たち御用達のお店が沢山あるのですから!」
――ぴくっ!
―――ピクピクっ!!
周囲の人々が反応を示す。店を構える商人たちも喜色を浮かべる。突然降ってきた千載一遇のビジネスチャンスである。
「おい!!その鳥焼を3本…いや、10本くれっ!!!」
「ロール巻き、4つ!!、私が先よっ!!!!」
「果実泡水、あるだけ売ってくれーー!!!!」
私たちが馬車の所に到着したのと同時に、後ろのバザールがドッと沸いた。一気に爆発したみたいに。
(……ちょっと効果ありすぎたかしら?)
最早阿鼻叫喚の体だ。
まぁ、これでサンプル(?)を提供してくれたお店の方々が赤字になることは無いでしょう。義務は果たした。あとは知~らない。
―――そうしてこのバザールは後に『王子殿下来臨の地』『王家お墨付き領主御用達の店』として有名な観光スポットと発展するのだった。




