街へ行こう!
※2018/9/4 誤字修正しました。
師匠と話した翌朝。
本邸から一緒に来ていた私付きの侍女さんたちに、何時もの如く素早く身なりを整えられた頃、私の目の前にソウガが降って湧いた。誤用だろうと文字の意味そのままとお伝えしたい。
「っうわぁ、師匠!?」
「おはよう、姫さん。もちっと声は抑えてな」
誰のせいだと思いつつ、朝の挨拶を返す。
「おはようございます、師匠。…あの、暫くは現れる前に声をかけてくれませんか?」
「え~、ヤダ。これも修行だから。」
「修行…」
「おぅ。姫さんには暫く人間の気配を覚える事をやってもらう」
「気配…ですか?具体的には?」
「ん~…空気読む?」
なんてこったい、説明を求めたら漠然さが増したぞ!!?
「これから出かけるんだろ?今日会う人間たちの纏う雰囲気を覚えてこい。これ課題な!
…数秒後に姫さんの侍女が迎えにくるから俺はもう行くけど、また夜にどんな按配か確かめに来るから!!」
師匠が言い終わると同時に寝室の扉がノックされた。その音に反射的に視線を向けた瞬間、「頑張れよ」と師匠の小声が聴こえて、もうソウガの姿はどこにも無かった。
…絶対にその技術モノにしてみせる!!
「お嬢様、ナハディウム坊ちゃまがお迎えにみえております」
「今行きます」
扉を開けて侍女さんにお礼を言う。そのついでに彼女の腰に抱きついてみた。う~ん、良い匂い。
「お、お嬢様っ!?」
私の奇怪な行動に侍女さんが酷く狼狽している。ごめんよ、そんなに驚くとは…。蝉よろしく10秒ほど引っ付いてから、パッと解放した。あ、そんな半泣きでほっとしなくても…。多分またやるよ、耐えてね!
「お待たせしました兄様」
「おはよう、ナターシャ」
兄様を見てにっこり笑う。そのままぎゅーっとハグ!だって、人の気配とか、雰囲気って言われたって判んないんだもん!!
体当たりでいくことに決めました。今日の私は抱きつき魔です!!…大丈夫、5歳児だから、犯罪じゃないはずっ!……たぶん。
「どうしたの?甘えん坊だね。」
ナハトが優しく頭を撫でてくれる。そのお顔はニコニコ。妹の突飛な行動にもうろたえない兄様、マジ尊敬します。私はそのまま兄様の腕に絡みついて、王子兄弟の部屋に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ラルフの部屋に到着しました。
仲良し兄妹と仲良し兄弟の対面です、おはようございます。兄様に引っ付いたままの私と、対抗するようにラルフに寄り添うクロード。どや顔のナハトにしょんぼり顔のラルフです。…何の勝負だこれは!?
「お、おはよう二人とも。朝から仲が良いね」
「おはよう、ラルフ。ナターシャは俺が大好きなんだ。可愛いだろ?」
な、なんだろう…。二人ともとってもキラキラしく笑っているのに、部屋の温度がどんどん下がっていく気が……。
「く、く~ちゃん、ラルフの具合はどう?昨晩は平気だった?」
取り込み中の兄たちは放置でクロードに近寄る。――に、逃げたわけじゃないよ!
「ああ、私がばっちりそい寝をして、兄上をかんびょうしたぞ。」
「そっか。ありがとうね、く~ちゃん。兄上を気遣ってえらいね!」
言ってクロードをハグ。ついでによしよしと頭を撫でてみる。…あ、く~ちゃんが石化した。
「「あ~~~~~~っ!!!」」
同時に兄sが叫んだ。うるさいなぁ、私は真剣に修行に励んでいるのだよ!
私はそのままの体勢で――クロードを抱きしめたままだ――話し出す。
「兄様、ラルフ、早く本題の予定を決めていきましょう?」
「ナターシャっ!?クロード殿下を放しなさい!!」
「そうだぞナターシャ、弟じゃなくて私の所においで!!」
「おやラルフ、ナターシャは俺が面倒みるからお構いなく!」
「ナハトはそろそろ妹離れするべきでは?私が手伝ってあげよう!」
…何だろう、話が進まない気配がするぞ。
とりあえず部屋付きの使用人さんにお茶の用意をお願いして、談話室のソファに座った。あ、く~ちゃんは手を引いてきたので私の横にいます。
「クロード!!」とラルフに呼ばれて我に返った模様。真っ赤な顔でめっちゃ威嚇してラルフの元に逃げちゃいました。
そこに自然と陣取ったナハト。優雅に私の隣に腰掛け私の手を握りにっこり。……捕獲されました。
……うん?何で兄様怒ってるの??い、威圧が…笑顔が恐ろしゅうございます。ガタブル。
「ほ、ほら、お茶もまいりましたし、そろそろ打ち合わせ致しましょう?」
隣の兄様は絶対見ない。視線が刺さるが無視だ無視。見たら死ぬ!確信がある!!
震える手でカップを取りお茶を一口飲みこんだ。冷えた心胆に沁み渡ります。お、落ち着け私!
「に、兄様?…兄様は昨日、どちらに挨拶に行かれたのですか?」
「ナターシャ、あとでしっかりお説教だからね?
…昨日は、主に領都を回ったね。都市の管理を任せている父上の配下や貴族たちに、殿下方の遊学の根回しをしてきた。」
「なるほど。私も街に行ってみたかったし、どこかのタイミングで領都に行けると嬉しいわ。殿下たちは?ダンデハイム領で行きたいところある?」
ラルフももの言いたげに私をずっと見ていたけど、溜息一つ吐いて口を開いた。
「…私は隣国の雰囲気が強い場所を見学したいな。折角の機会なのだから有効活用しないと。」
「私は兄上がいくところにいっしょに行く!」
「では、今日はバザールに行ってみないか?ここからそう遠くないし、物珍しいものが多いらしいぞ」
ナハトが提案してくれた。いいね、バザール!是非食べ歩きとかしたいです。…させてくれるかな?
早速兄様が馬車と護衛の手配に席を離れた。
私たちも出かけるのなら、お忍び用の格好に着替えなきゃならないらしい。
用意が整うまで少し時間が必要なので、お昼御飯を食べてから出発する事になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
馬車に乗って30分くらいの所にバザールはあった。馬車の中にも喧噪は聞こえていたが、外に出ると一層すごい熱気だ。所狭しと人が行き交っている。
たくさんの天幕の下に並んだ商品を矯めつ眇めつ立ち止まったり、売り子とお喋りしたり、あちこちから呼び込みの声が飛び交い目まぐるしい。押し寄せる人々の勢いに呑まれた男児たちが「ぽっか~ん」と呆気にとられていた。口、開いてるよ兄様がた!!
く~ちゃんに至っては尻込みしてます。マジチワワ。
「お嬢様は平気そうですね?」
そんな我々の様子を見て、本日の案内係兼護衛である『ユージン』さんが話しかけてきた。
「お嬢様は好奇心旺盛でいらっしゃいますから」
そして私の代わりに侍女の『ナキア』が答える。この侍女さん、私が今朝抱きついた人です。傍付き代表として侍女長に送り出されたらしい。
「ナターシャ、迷子にならない様に手を繋ごう」
決死の表情で兄様が手を差し出してきた。混みあうバーゲンセールの中に突っ込むようなものだ。その覚悟は妥当と言えよう。
だがその申し出断る!私はやんわり兄様の手を辞退してお付きの二人を見た。
「ユージン、抱っこして!!」
子どもの我が儘を発動です。兄様が抗議してきました。しかし私にはちゃんとした言い分がある!!
「私の背丈では人に埋もれて何も見えません!大人に抱えて貰わなければ息も出来ないですよきっと」
「そ、それはそうだけど……」
「兄様、私、い~っぱい色々観たいの……だめぇ?」
くらえ!幼児のおねだり攻撃!!小首をかしげてあざとく上目づかい。…攻撃力は強大だが、私の精神をゴリゴリ削る諸刃の剣である。
その甲斐あって私の要求が通りました。これで負けたら心が死んだ!私の精神は護られた!!
―――そうこうしている内に我々パーティの隊列順が決まった。
先頭に護衛騎士二人、その後ろに私を抱えたユージンさん、手を繋いだ王子兄弟、兄様、ナキア。
他の護衛は遠からずの場所から見守ってくれるらしい。
準備は出来た。一番高い場所にいる私が音頭を取ろうではないか。
「よ~し、出発進行~~~!!!」
力いっぱい拳を天に伸ばした。
この世界に生まれて初めてのウィンドウショッピングですよ!良い天気だし、バザールは活気づいてるし、心躍るよね!!
…さぁ、ユージンよ。あの人混みに突撃なさい!!!
ナターシャ、いざ、参る!!




