私、忍者を目指します!
※2018/8/27 誤字修正しました。
父様に聞かされた話は要約するとこうだった。
・王子兄弟は表向きお忍びでダンデハイム領に遊学に来ている。
・子どもがいた方が気安いという配慮から、私たち兄妹が話し相手としてつけられている。
・父の視察が終わるまでは、領邸を拠点に好きに過ごして良い。但し、今回は領邸から1日圏内に限る。
だそうだ。
基本は殿下方の意見を聞いて、私たちが接待する方向性で落ち着いた。遊学の証拠は各処に残さなければならないらしい。
行動は明日の午前中に集まって検討しようということで、今日は既に解散。私は自室に戻ってきている。
そうそう。体調不良で気弱になっているからか、ラルフがやけに添い寝を願ってきたので、く~ちゃんに事情を説明した所、喜んでお役目を引き受けてくれた。やっぱりラルフはまだ本調子じゃ無いのだろう。医者を頼んで正解だったね!心身ともにしっかり休んでおくれ。
……寝支度をしてベッドに仰向けで倒れこんだ。――淡い桃色の天蓋付きベッドだ。私は今日の出来事を思い返していた。
「……影の人、父様に話してくれたかな」
「おう!バッチリOKもらってきたぜ、姫さん」
独り言へのまさかの返事に飛び起きる。目の前には昼間の男が立っていた。…が、同一人物なの??人好きのするめっちゃいい顔で笑っているのだけれど。
「喋れたのね、おにいさん」
「世辞がうまいな!こっちが素だよ。…俺はソウガ。今時間良いか?」
「レディーの部屋へ立ち入る時間ではないけれど、貴方なら構わないわよ?」
「はは~!ありがたき幸せ~」
茶化しながらソウガがお辞儀する。思った以上に愉快なおっさんだな。
「んで、早速本題なんだが。」
「切り替え早いなぁ~…」
ソウガが真面目な顔を作る。初対面同様、一切の感情が消えた。素早く床にひざまづき、臣下の最敬礼をとった。
「俺はただ今を持って、姫様付きの影となった。名はソウガ。ダンデハイム家に仕える隠密部隊を束ねる頭領だ。姫様は主であるエルバス様に次ぐ命令権を与えられた。俺たちを好きに使うと良い。」
「え!?そんな破格の待遇!!!?父様甘過ぎでしょ…」
ソウガが僅かに笑む。微笑ましいものを見るような優しい瞳だ。
「但し、条件がある」
「当然よね、聞きましょう!」
「まず、人目のあるところではやり取りしない。」
「隠密だもん、問題ないわ」
「次に、俺が教えたことは秘匿すること」
「秘匿?…具体的にどこまで?」
「全てだ。俺との会話内容、指導方法、指導者情報、姫さんが修得した技術…ぜ~んぶ。俺たちだけの秘密だ」
あ、エルバスは例外な。と軽く言っているが、父様って主人じゃないの?
「ねぇ……貴方父様に気安すぎない?仮にも主よね??」
「ああ、あいつとは乳兄弟でな。俺はあいつの兄ちゃんみたいなもんだ。今更畏まったりしないぜ、気持ち悪ぃ!」
「ふ、ふ~ん…。貴方、いくつ?」
「エルバスの1つ上。33だな。」
(解ってはいたけど、ソウガも父様も精神の私より年下って抉られるものがあるなぁ……)
思わず落胆した私に「オッサンで悪かったな!」とソウガが勘違いしている。すまん。私のがおばちゃんだわ…。
軽く首をふって思考を振り払う。益のないこと考えるのは不健康だ、忘れろ私!!
「えぇと…ソウガ、さん」
「呼び捨てでいいぞ~?」
「や、さすがに無理!!……えと、貴方が私に指導してくれるのよね?」
「おぅ!それが姫さんの願いだろ?」
「じゃあ、貴方の事は今後『師匠』って呼ぶわ。で、その…『姫さん』って私のことなの?」
「嫌か?俺たちの間ではそう呼んでるからなぁ。変えるのも面倒なんだが…」
隠密部隊の人達にそんな渾名で呼ばれてるのね、私…。
「因みに兄様にもあるの?その、通称みたいな……」
「ぼん。」
「是非姫さんと呼んでください。」
変な渾名つけられるよりマシだと悟りました。隠密部隊のネーミングセンスの無さよ。
「話、続けるぞ?」
「あ、ごめんなさい。腰を折っちゃって…」
「いや、これで最後だ。……姫さんとのやり取りはエルバスへの報告義務がある。色々と筒抜けになっちまうから気をつけろよ?」
別に父様にバレて困ることもないけど…。含みのあるセリフに小首を傾げると、
「殿下への夜這いとは姫さんもやるよな~!」
「ちがっ!?あれは看病よ、か ん び ょ う !!」
そのニヤニヤ笑いを止めろおっさん!!セクハラで訴えるぞ!!!!いや、そう見え兼ねないことをしたのは私だが、夜這いかける5歳児とか世も末過ぎるだろう!!
…しかしそうかぁ。頭領の力を借りる代わりに父様からの監視が厳しくなるということね。隠密部隊の技術ってそれだけ凄いんだなぁ。
「あの……殿下に添い寝した時、師匠が見てたの?」
「いんや、そん時は別の奴だな。俺が姫さんに付いたのは今日が初めてだ。…報告は随時あがってくるから知ってただけ。
通常監視対象が危険でない限り、俺らは干渉しない。日常をあれこれ奏上することもない。でも今後の姫さんは別だ。――当主命令で報告が義務付けられたからな。俺はそれに逆らえない。」
「分かった。胆に銘じます……」
真剣に頷いた私を見て、話は終わったと師匠がシリアスな空気をぶっ飛ばした。
「ま、これからよろしくな!!」
にかっと盛大に笑ったのだ。
(この人隠密業なのに、正反対のお日様みたい。)
差し出された大きな右手に私の小さな右手を重ねて握手した。力強くあったかいその手はますます『影』のイメージから遠くするように思う。だけど包み込まれる安心感が半端なくって、こんな人にこれから護って貰えるなら何でもできそうな気がした。
がっしりと手を繋いだまま、「で、だ。」とソウガが切り出す。
「さっきも言ったが、基本俺は姫さんが一人の時にしかコンタクトを取らない。だから緊急時以外、こうやって話す時間を決めておこう。…といっても、寝起きする朝晩くらいしか無いからな。暫くは朝に修行の課題を出して、寝る前に反省会って感じだな。
んで、姫さんは『身を護る術』と『身を隠す術』が欲しい…と。」
「うん。出来れば護身術を使わなくても良いくらい、危険に遭わないよう気配を消せるようになりたい!!」
「なんで?」
「ん~…将来的に空気になりたいから、かな?」
予想外の返答だったのか、師匠が盛大に吹き出した。ゲラゲラ笑って、挙句にひぃ~ひぃ~言っている。
「お、おもしれぇ嬢ちゃんだな、マジで……こりゃ、退屈しなくて良さそうだ」
おっきな手の平が私の頭にぽんぽんと――鞠を弾ませて遊ぶみたいに――重なった。
「でも冗談抜きに、私に適性があるようだったら、師匠たちと仕事出来るくらいの技術を身につけたいのよ」
頭に乗ったソウガのおっきな手を、両手を使ってどかしながら訴える。向かい合った師匠の片眉が器用に上がった。そして若干の考えるような素振り。
「なるほど、な。……ま、姫さんに何をどう教えるかはやり始めて様子を見つつ決めるさ。向き不向きも今は判断できないしな。
よし。そんじゃ、詳しくは朝起きた時に。適当に声掛けるからよろしく~!」
「はい!!師匠、明日からよろしくお願いします!!私、頑張ります!!!!」
「おぅ。」
にかっとお日様の顔で、最後に私の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわした師匠は、ボサボサになった髪に私が気を取られた隙にこつ然と消えた。――凄いの一言に尽きる。
(あの、兄様イベントスチルに描かれていた隠密さんは『ソウガ』って名前なのね…)
私は再びベッドに仰向けに転がった。
メイン、サブメイン以外のキャラクターたちは漠然とした設定しか無かったし、画面の中に必要なモブは絵師さんにお任せの部分も大きかった。
ソウガは終盤のナハトのイベントスチルに『頭領』として描かれていたが、ナハトが情報を得る為に利用していたという流れしか分からない。仕事にクール、冷徹そう、そんなイメージは見事にぶっ壊された。…いい意味で。
完全に信用できた訳では無いし、絆だってこれから結んでいくのだが、ソウガにはかなりの好感が持てた。
(師匠になら、彼を任せられそう)
―――この領地の何処かにいるであろう『私の子ども』を。
さぁ、明日から忙しくなりそうだ。
私はモソモソと布団に入り込み目を閉じる。
師匠との修行で私はどこまで行けるだろう…そんな期待と、近々起こるであろうナハトのターニングポイントへの対処、視察期間中に『彼』を見つける事……。
湧き出る思考は段々と霞に溶けて、最後にはワクワクだけ。
ふわふわ夢見心地で私は明日へ向かった……




