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「おおおッ!」

 緑の腕が拳を放ち、緑の脚が蹴りを振るう。緑の風が吹き荒れる。

 一撃で人体を貫通し吹き飛ばし破裂させる凶悪な暴力の具風。

 その風が起こす小さな竜巻の中、作務衣の刀持ちの男はふらりゆらりと舞うように踊る。

 緑の巨人、新潟県の(ニュー)タントの必殺の連撃。だが作務衣の石川県人には当たらない。

 逆に隙を見て鋭く振るう石川県人の刀が新潟県人の肌に傷を生み、緑の血飛沫が飛ぶ。


 頭を破裂させようとする裏拳をバックステップで引いてかわしながら、真下から切り上げる刀で緑の巨腕にキズをつける。

「ぬぁっ!」

「パワーはある。スピードはある。しかし肝心要の技が無い。意外とたいしたことねぇな、新潟県よ」

「く、ちょこまかと!」


 ニヤリと笑う作務衣の石川県人。だが余裕に浸る油断は無い。刀でキズをつけることはできても両断ができない。(ニュー)タントの鋼の肉体、その表面を切り裂くことはできても手足を落とすまでには至らない。


(その上、キズは目に見えて再生していく。頭、首、胸、腹はキッチリ守ってやがる。一撃で必殺も難しいか。趣味じゃねえが出血で弱らせるしかねぇか)


 対する新潟県人の青年は焦っていた。(ニュー)タントの肉体の前に旧人類など敵では無い。その驕りが通用しない相手を前に、動揺を隠して立つ。


(拳銃や刀など相手にならないと、そう考えて出て来ましたが、こんな奴もいるということですか。侮って失敗しましたね)


 遠巻きに囲む灰色スーツの石川県人の男達は一騎討ちを見ている。自分達の隊長が有利と見て、すっかり観戦する観客のように。

「いいぞ隊長!」

「そのまま決めっちまえ!」

「おいおい、見かけ倒しかぁ? (ニュー)タントってのはぁ」

「やっぱ近くに原発が無いとダメなんじゃねえの? 新潟県人はよ?」


 新潟県人はジロリと野次馬のようになった灰色スーツの石川県人を睨む。

「好き勝手言ってくれる。石川県にも原発はあるだろうに」

 作務衣の石川県人は刀を下段に構えたまま返す。

「あんなモンとっくに解体して中国に売っぱらったぞ。いい金になったわ」

「原発は国の財産だ!」

「知るかボケ。その金で武器も買い込んだことだし、文句があるなら力でかかって来いや。今の日本に石川県は止められねぇ」

「この売国の徒が……」

「違うなぁ。俺たち郷土愛溢れる故郷(クニ)の子だから」

 作務衣の石川県人が1歩踏み込む。

「石川県が国になっちまえば文句()えだろ!」


 下段から一転、刀を背負い投げるように上から振り下ろし額を狙う。咄嗟に左手で頭を庇い、背後に飛ぶ新潟県人。

 左手の甲が裂け緑の血が飛沫(しぶ)く。


(く、このままでは不味い。一撃当たれば倒せるはずが、その一発が当たらない。この男、ふざけているがその技量は一流、ですか)


「さ、どうする? 新潟県人。お前が護衛するハズのヤクザはもう全滅したみてぇだが?」


 作務衣の男と1対1で戦う状況の中、川口組ヤクザは石川県の灰色スーツに既に皆殺しにされている。

 作務衣の男がいなければ(ニュー)タントの力で石川県人を排除して、何人かだけでも川口組ヤクザを逃がす腹積もりだった新潟県人の青年。

 それが予想外の強者を相手取ることになり、さらに足止めされた結果、倉庫の中には石川県人で無い者は新潟県人の青年ひとりになってしまった。

 見回せばヤクザとマフィアの無惨な死体が倉庫の中を飾る。

 新潟県人の青年は眉間に皺を寄せる。


「もはや戦う意味は無い、ですか」

「おぅよ、こっちも今のところはまだ新潟県と事を構えるつもりは無い。逃げるなら追わねぇよ」

「それもありですか。ですが……」


 新潟県人はニッカボッカのポケットに手を入れる。

「新潟県が他県に侮られる訳にはいかないッ!」

 ポケットから取り出した銀色の球体、その安全ピンを抜き捨て吼える。

「新潟県人の真の力! 100%の(ニュー)タントの力を見せてやろうッ! 臨界ッ!!」


 解説――臨界

 ウラン235が中性子にぶつかるとウランは分裂し熱と中性子を放出する。飛び出した中性子がウランに衝突すると、そのウランも分裂して熱と中性子を出す。純度の高いウランを一ヶ所に集めることで自動的に反応が始まり、しかも止まらない。この分裂反応が連続して起こる現象を臨界と呼ぶ。


「てめえッ!」

 慌てて駆け寄る作務衣の石川県人。しかし、新潟県人が掲げる銀色の球体からは、青い光が現れ始める。

 夜の倉庫の中を美しい青い光が照らしていく。

「これが科学の光だッ!」


「お前ら物陰に隠れろっ! 光を浴びるなっ!」

 作務衣の石川県人が鋭く踏み込み刀を振るう。


(デーモン・コアか? 小型実用化に成功してたってのか? 何てモン出しやがるコイツ。早いとこあれを取り上げて遠くに捨てねぇと)


 解説――デーモン・コア

 アメリカのロスアラモス研究所で各種の実験に使われた、未臨界量のプルトニウム。後に原子爆弾に組み込まれてクロスロード作戦に使用された。不注意な取り扱いのために1945年と1946年に事故を起こし、二人の科学者の命を奪ったことから『悪魔のコア(デーモン・コア)』のあだ名がつけられた。

 これをもとに新潟県が開発した、携帯用放射線汚染兵器。放射能物質を封入した金属の球体は内部で臨界を起こし周囲に放射線を放出する。


 新潟県人の腕から金属の球体を取り上げようとする作務衣の男。しかし彼の振るう刀は当たらない。

 新潟県人の動きはこれまでよりも格段に早くなり、軽快なステップで刀の三連斬を回避する。

「いきなり速ぇ?!」

「これでまだ70%だっ!」

 青い光を浴びてパワーアップした(ニュー)タント。筋力、速度が増加。

 左手に青く輝く銀色の球体を握ったまま、右の拳が作務衣の石川県人を襲う。


「くっ!」

 かわせないと判断して威力を逃がすために後方へと飛ぶ。緑の巨腕は唸りを上げて逃げる作務衣の石川県人に追い縋る。

 男の腹部に新潟県人の拳が突き刺さる。肋骨骨折。殴られて真横に吹き飛ぶ作務衣の男の身体が倉庫のコンテナに激突。ズルズルと地に落ちてコンテナによりかかるように座り込み項垂れる。

「隊長ッ!」

「クソ! 隊長を守れ!」

 

 灰色スーツの男達が密造拳銃KANAZAWAを構えて乱射する。

 銃弾の雨の中、弾丸をまるでそよ風のように無視した新潟県人は青い光を放つ球体を高々と掲げる。


「ハハハハハ! ここにいる全員、科学の光に焼かれて被爆しろ! 全身の細胞を破壊されて死ぬがいい! この科学の光の中で生きられるのは新潟県人だけだッ!!」


 降り注ぐ銃弾を無視して新潟県人の青年は青い光を見つめて笑う。更に強化した(ニュー)タントの肉体に密造拳銃KANAZAWAの弾丸は通用しない。


(そうだ。新潟県人こそが進化した新人類なのだ――)


 新潟県。その県内に11機の原子力発電所を抱え日本の電力を支える県。

 そして他国に対してその力を見せる県。


(新潟県こそが日本を支え、日本を守ってきたのだ――)


 日本が核武装していないなどと寝言を言う者は恐れるがいい。

 新潟県が本気を出せば、11機の原発が日本海を汚染する。大量のウラン溶液と使用済み燃料を使う、自滅覚悟の海洋汚染兵器。

 日本海から始まり海流に乗り、アジアとロシアの海を放射線で汚染し、周辺国に大打撃を与える。

 自国の損害を考えない反撃の刃。

 海を汚す悪夢の報復装置。

 これこそが日本の電力を支える新潟県の最終兵器。

 己の身にダイナマイトを巻き付けて人を脅すような、日本を守る最後の砦。


(そして新潟県が崩壊寸前の日本の経済を支えている――)


 あらゆる産業が衰退し、経済崩壊寸前の日本。その中で原発を抱える新潟県の役割。

 原子力発電所の使用済み燃料を密かに輸出。海外の核武装を求める勢力に密売している。

 ザルのような調査では行方不明になった使用済み燃料がどれだけあるか、解るはずが無い。

 アトミック=ロンダリング。

 使用済み燃料を金に変える、現代の錬金術。


(アルダイカやSISIが新潟県の使用済み燃料を買ってくれるからこそ、日本は今も国内のお年寄りに年金を支払うことができる。財政破綻ギリギリの日本は、新潟県の原発により守られている)

 

 その為に国の犠牲となった新潟県。国の電力の為に、国の防衛の為に、国の財政の為に、11機の原子力発電所を押し付けられた県。防衛の為に真っ先に犠牲を強いられる県。隠れて使用済み燃料を処理する県。

 しかし、皮肉にもその政策が新潟県人が放射線への耐性を身に付けて、新潟県に(ニュー)タントが誕生した。


「やがては日本を全て放射線で覆う! そして日本を新潟県人で無ければ生きられない国土へと!」


 青く輝く科学の光を掲げて、新潟県人の青年は高らかに宣言する。


「そのときこそ日本全土が新潟県となるのだ!!」


 夜の倉庫の中を不気味に美しい青の光が埋め尽くす。




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