東の森の魔法使い
東の森に魔法使いが住んでいた。
ある時、町と町とを結ぶ街道に魔物が現れるというので、町の領主は、東の森の魔法使いに使者を出した。
使者の男は森に入った。
暫く進むと、森のぽっかりと空いた場所に、立派な屋敷を見つけた。まるで、貴族の別荘のような、立派な屋敷である。
庭には三人の庭師がいて、ほどなく、召使の男がやってきた。
召使に連れられて、使者の男は、ようやく魔法使いに会うことができた。
魔法使いは、すばらしい立派な身なりをした、騎士のような姿の男だった。
使者は感心してしまった。
「(魔法使いなんて、偏屈なじいさんかと思っていたが、これは……)」
魔法使いは気さくな微笑みを湛えて、使者の男に言った。
「長旅でお疲れでしょう。ささ、まずは食事だ」
魔法使いは使者を食堂に案内した。
召使がどんどん皿を持ってきた。
鳥の丸焼き、とろっとしたソースのかかった肉料理、二種類のスープ、魚の捌いたもの、そして目にも美しい美酒。
王様にでもなったような気分で、使者の男はその料理を食べた。
一通り食事を終えた使者は、ここに来た目的を魔法使いに話した。
街道に魔物が出て困っていること。その魔物は非常に強く、討伐に出た戦士は一人も帰ってきてないこと。どうにか魔物を倒したい、知恵を借りたい――。
「お安い御用です」
魔法使いは言った。
使者は安心した。
「なにしろその魔物は、私が作ったものですから」
「え?」
使者は驚きを隠せなかった。
「私は、モノを作る魔法が得意なのですよ。例えばこの家――」
「魔法で、できているのですか?」
「はい」
魔法使いは、笑いながら穏やかに答えた。
なんということだろう。こんな立派な屋敷を、魔法で造ってしまうなんて。
使者は魔法使いの魔法に興味を持ち始めた。
「他にどんなものを造れるんですか?」
「大体の物は作れます。あの庭の草花を見ましたか?」
「まさか、あれも……?」
「はい。魔法です」
建物だけでなく、植物も造れるのか。
使者はさらに訊ねた。
「他には、他にはどんなものを造れるんですか?」
「貴方の座っている椅子、そしてこのテーブルも、あの絵画も、スプーンも、実は全部魔法で作ったものです」
「全部、魔法で?」
「はい」
使者は椅子の手すりを握った。
確かにその質感は、現実の椅子のそれと変わらなかった。とても魔法で造ったものとは思えなかった。
「――実は、さきほどの料理。あれも、魔法です」
「そんな!? しかし、あれは確かに、美味しかった……」
「美味しく作るのに苦労しました」
だんだん使者の男は怖くなってきた。
どれが本物でどれが魔法か、さっぱりわからない。
「あ、あの庭師の方は、どこで雇ったのですか?」
魔法使いは笑った。
使者の男は、必死で質問した。
「さ、さっきの召使の男は、コックは、雇っているのですよね!?」
「そう見えますか?」
使者は、背筋に寒気が走るのを感じた。
「そんな、まさか……」
「町を作った時に、人もいないとつまらないと思いましてね。そのときに、折角なのでこの屋敷にも何人か、作りました」
「ま、待ってください。町を造ったというのは……」
魔法使いはにやりと笑った。
「嘘だ……俺の町が、魔法で出来た作り物だったなんて……」
「なぁに、驚くことはないじゃないですか。貴方だって――」




