第71章:貴様・・・いったい、何の話をしているんだ!?
その翌日のこと。
茂が出勤すると、隣の「武村指導係長」が、いやに機嫌よく彼を迎えた。
「やあ、おはよう、杉山君。ご機嫌いかが・・・? どうしたい。うかない顔してさ。」
「・・・いえ。なんでもありません。」
「そうかね。それじゃ、安心したよ。私も、ゆうべ『アソコ』で楽しませてもらったからねぇ。実に気に入ったよ、うん。」
「・・・・・・?」
「いやいや。これは朝から、ケムに巻いて、すまなかったね。はははは。」
(この男は・・・いったい、何の話をしているんだ!?)
茂には、武村の言葉の意味が理解しかねた。
わけのわからぬまま、茂が給湯室に入ると、さらなる「異変」が起きていた。
彼と目が合った漆原めぐみが、まるで「きたないモノ」でも見るような目つきで一瞬彼を見、スッと給湯室から出て行ったのである。
「え・・・? 漆原さん、どうしたんですか??」
なんとなく嫌な予感がした茂が声をかけても、彼女は答えず、振り返ることもなく、無言で検査部の部屋に戻っていった。
(漆原さんの様子がおかしい・・・。)
検査課の席に戻った茂は、室内全体の空気が、悪い方向に傾いているのを、なんとなく肌で感じた。
検査部長の森川氏、蛭田管理官、根岸氏に「異常」はない。
この三人は、いつもどおり、自分の業務に没頭している。
しかし、茂の直属の上司である武村、そして、自分の目の前に陣取っている、品質管理の佐藤、検査係の仁井田・・・この三人が、ニヤニヤと、薄気味の悪い笑みを浮かべ、ときどき彼をチラチラ盗み見している。
そして、茂の後ろの席の「統計課」の連中も。
この日、めぐみは、とうとう茂とは、ひと言も口を利かなかった。
(・・・何がどうなっているのか、さっぱりわけが分からない。)
茂が玄関を出ようとすると、検査部長の森川明氏が、心配そうに声をかけてきた。
「・・・杉山君。大丈夫か。なんだか、事務所全体に『妙なうわさ』が流れておるようだが・・・気にしちゃいかんぞ。私は、何があっても、最後まで君の味方だ。私だけじゃない。蛭田管理官だって、根岸君だって同じだ。今は・・・ほとぼりがさめるまで辛抱するんだよ。ヤケはおこすな。じゃ、明日ね。」
部長はそう言うと、茂の肩をポンとたたくと、また検査課の部屋に戻っていった。
(部長まで・・・。いったい、俺の知らないところで何が起きてるんだ?? 桑川といっしょにいた、まゆちゃんもまゆちゃんだし。なんか・・・とてつもなく悪いことが進行してるような気がするよ。)




