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18 深淵の会議と、絶滅した同胞

ウェルウィナの街から遠く離れた、不毛な熱砂が吹き荒れる砂漠のただ中。そこには、椰子の木と清らかな泉に守られた「ラト組織」の本拠地――巨大な要塞がそびえ立っていた。要塞内部の広大な会議室は薄暗く、張り詰めたような緊張感に支配されている。今まさに、組織の全幹部が集結し、重要な審議が行われようとしていた。


最奥の壇上、ひときわ高く豪華な椅子に座るのは、最高指導者「ラト-00(ダブルオー)」様。その姿は異様であった。金色の豪華な法衣を纏い、顔全体を不気味な黒い髑髏どくろの仮面で覆っている。他の出席者である「01」から「09」までのグループリーダー、そして「0A」から「0I」までのコードネームを持つ「長老エルダー」様たちもまた、全員が同じ黒いマントを羽織っていた。仮面の意匠だけが役職ごとに異なり、互いの素顔も本名も知ることは許されない。


「長老衆、ならびに各班のリーダー。全員揃ったか?」


ラト-00様の重く、地響きのような声が部屋中に響き渡る。


「はい、指導者様。欠席者はおりません」

全員が畏怖を込めた声で一斉に答えた。


「よろしい。では、会議を始める前に、我らが偉大なる魔王陛下に祈りを捧げよう」

命じられるがまま、その場の全員が膝をつき、目を閉じて両手を高く掲げた。


「強大にして無慈悲なる支配者よ」彼らは震える声で唱和した。「我らに絶大なる力を与え給え。瞬時に富を築き、地上のあらゆる生物を凌駕する力を。貴方の御名において、世界全土に恐怖と混沌を撒き散らす道を開き給え。アーメン」


祈りが終わると、彼らはゆっくりと立ち上がり、指導者を見据えた。


「では、本題に入ろう」ラト-00様が静かに言い、仮面の奥の鋭い視線を「05」へと向けた。その威圧感に、ラト-05さんは思わず身震いし、全身に冷や汗が流れた。


「05。報告によれば、貴様の部隊は任務完了を待たずに逃亡したそうだな。その理由を説明しろ。なぜ独断でそのような行動をとった?」


ラト-05さんは唾を飲み込み、震える声で弁明を始めた。


「指導者様、お許しください……。ウェルウィナの城壁を壊滅させるべく魔獣軍団を操っていた際、突如として正体不明の男が現れたのです。その力は常軌を逸しており、我々が丹念に準備した計画を、まるで子供の遊びを壊すかのように一瞬で無に帰しました(※実際は恥ずかしくて言えないが)。組織の安全規定に基づき、生存を優先し撤退の判断を下した次第です……」


「正体不明の男だと? ……よかろう、その者の正体は追って調査させる」ラト-00様は冷淡に言い、隣の書記官が即座に羊皮紙に記録した。「次は07だ。今回の作戦のかなめである貴様に問う。なぜ、苦労して開いたはずのゲートから魔界の軍勢が現れないのだ?」


名前を呼ばれたラト-07さんは、激しく震えながら絞り出すように答えた。


「指導者様……。正直に申し上げます。私共にも何が起きたのか皆目見当がつかないのです。ゲートを完全に開放し、生贄としてヘンドリック・ローガンを放り込みました。しかし、どれほど待っても反応がない。まるで向こう側が空っぽであるかのように。困惑した我々は、意を決してゲートの先を覗き込みました。……そこで目にしたのは、信じがたい光景でした」


言葉を切った彼に、長老の一人であるラト-0G様が焦燥を露わにして問いかけた。

「魔王ベリル様はどうされた!? 変わらずあちらを支配しておられるのだろうな?」

「ベリル様の行方までは確認できませんでした」ラト-07さんは正直に答えた。「しかし……断言できるのは、ゲートの向こう側には生命の気配も魔力も、欠片ほども残っていなかったということです。全てが滅び、消滅しておりました」


息を呑む静寂の中、彼は一気に続けた。

「それを見て我々は慌てて退却しました。ウェルウィナの街は混乱を極め、住民が市役所へ押し寄せていたため、群衆に紛れて事なきを得ましたが……。一歩遅ければ、我々の正体も露見していたことでしょう」

「黙れ! そんな戯言を誰が信じるか!」

ラト-0G様の怒号が部屋を揺るがした。激昂した彼の体からマントが弾け飛び、その姿が急速に膨れ上がる。頭部からは鋭い触角が伸び、目は巨大な複眼へと変貌した。全身を黒光りする硬質の外殻が覆う。四本の逞しい腕の先には鋭い棘が生え、背中には薄いはねが広がった。彼こそは、絶滅したはずの「人型ゴキブリ魔族」の生き残りであった。


「我らの一族が、人間ごときに遅れをとるはずがない! それもウェルウィナのゲート周辺のコロニーが全滅しただと!? 貴様、私を担ぐつもりか!」


巨大な魔躯を揺らし、ラト-0G様がラト-07さんに詰め寄る。ラト-07さんは腰を抜かし、石の床に這いつくばった。


「嘘ではありません、長老様! 私は……私はただ、この目で見た真実を申し上げているだけです!」


「……本当に、嘘ではないのだな?」

凄むようなラト-0G様の問いに、ラト-07さんは何度も激しく首を振った。


その必死の様子に、ラト-0G様の怒りは深い悲しみへと変わった。巨体が力なくうなだれ、大きな複眼から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「……ならば……私は……この世界にたった独り残された、最後の生き残りだというのか……?」


重苦しい空気の中、ラト-00様が場を制するように口を開いた。


「長老様、それ以上の嘆きは無用です。過ぎ去ったことは変えられぬ。我々の目的を完遂することこそが肝要。……次の標的は、『グレンスリーの森』にある魔界のゲートだ。あそこは魔術と英知に長けたエルフ族が守護する難所だが、我らには関係ない」

その名を聞いた途端、ラト-0F様という名の幹部が仮面の裏で笑みを浮かべた。正体不明の彼だが、その気配は喜びに満ちている。


「ついに我が一族の出番ですね。我らの真の力、世に知らしめてやりましょう。……我々の同胞が、先ほどのゴキブリ族のような無様な末路を辿っていないことを祈りつつね」


暗闇に包まれた会議室。ここに集うのは単なる悪党ではない。人間、魔族、そして正体不明の異形たち。素顔も名も捨て、一つの目的のために集った怪物たちの狂宴。ラト組織の真の恐ろしさは、隣に立つ者の正体すら誰も知らないという、その「絶対的な秘匿性」にこそあった。


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