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第13話 祖父の灯(ともしび)

第12話までお読みいただきありがとうございました。


ここから第二章が始まります。

少年期を終え、エルドが初めて「自分の足で外の世界へ踏み出す」物語です。


祖父との別れ、父母の行方、そしてエルドが選ぶ“最初の一歩”。

物語の空気も少しだけ大人びていきます。


それでは、「第13話 祖父のともしび

お楽しみいただけたら嬉しいです。

 丘の風が少し冷たくなっていた。

 あの陣取り合戦から、いくつもの季節が過ぎた。

 村の畑では麦が揺れ、風車はいつもより低い音をたてて回っている。

 子どもだった三人は、それぞれの道を歩き始めていた。


 ライクは狩りの見習いをしていた。

 弓を背負って森を駆け回り、獲物を村へ持ち帰る。

 体は大きくなったが、性格は昔のまま――真っすぐで、ちょっと無鉄砲。

 ミーナは村の食事処で働いていた。

 笑顔が明るく、薬草茶を上手に出すので、いつのまにか人気者になっていた。

 彼女が扱う薬草は、かつてエルドの母に教わったものだった。


 一方のエルドは、祖父の大工仕事を手伝いながら、

 毎日のように村の人々を眺めていた。

 力のある者、器用な者、慎重な者。

 人にはそれぞれの“かたち”がある――

 そのことを、彼は祖父の傍らで学んでいた。



 ある日の夕暮れ、エルドは祖父の部屋を訪れた。

 木の香りと油灯の光。

 祖父は布団の上で小さな木片を削っていた。

 その手の動きは、ゆっくりで、それでも確かだった。


「まだ削ってるの?」

 エルドが声をかけると、祖父は微笑んだ。

「手を止めると、体まで止まってしまうからな」


 祖父は小さく笑って、木片を差し出した。

 そこには家の柱の彫り模様が刻まれていた。

「お前の父さんが作りかけでな。

 “扉を作るときは、人の出入りを考えろ”と言っていた。

 出る人と、帰る人の顔を思い浮かべて作るんだと」


 その言葉に、エルドはそっと木片を受け取った。

「父さんも、母さんも……もう、どんな顔してたか、少しずつ忘れそうだよ」

「それなら、見に行けばいい」

 祖父は言った。

「戦に出て帰らなんだが、どこまで行ったのか、まだ誰も知らん。

 だが、あの二人はな、きっと人の役に立とうとしておった。

 お前の母さんは薬師で、人の命を支えた。

 お前の父さんは大工で、人の暮らしを作った。

 ――その足跡を確かめたいと思うなら、行くがええ」


 エルドは息をのんだ。

 その言葉が、静かに胸に落ちていく。

「……ぼくが行けば、分かるかな」

「見てくるんじゃ。見て、考えて、また帰ってこい。

 “生きる”とは、何かを受け取って、次へ渡すことじゃ」


 祖父の手は節くれていて、でも温かかった。

 エルドはその手を握り返し、声を絞り出した。

「ありがとう、じいちゃん」

「行けるときに行け。風が止まる前にな」



 それから数日後。

 村の空は不思議なほど静かで、風の音がやわらかかった。

 祖父の呼吸は浅くなり、やがて穏やかに止まった。

 その夜、油灯の火が細く揺れながら消えた。

 エルドはその灯を見つめ、そっと呟いた。

「……ぼく、行くよ。父さんと母さんの足跡を、見つけに行く」



 葬儀を終えたあと、ライクとミーナが家を訪ねてきた。

「なぁ……これから、どうするんだ?」

 ライクの声は、どこか落ち着かない。

「しばらくは整理してから……それから、旅に出るよ」

「旅?」

 ミーナが目を丸くする。

「父さんと母さんが行った場所を探してみようと思う」

 エルドの言葉に、二人はしばらく黙っていた。

 そして、ライクがふっと笑った。

「そっか。……お前らしいな」

 ミーナは静かに薬草茶の包みを差し出した。

「これ、旅先でも煎じられるように作ったの。

 味は保証しないけど、飲むと落ち着くよ」

 エルドは受け取り、微笑んだ。

「ありがとう。……きっと役に立つ」


 その日の夕暮れ、丘の上に立った。

 風が吹き抜け、空は茜色に染まっていく。

 村を見下ろしながら、エルドは胸の中でそっとつぶやいた。


「父さん、母さん、じいちゃん……

ぼくも、見てくるよ。

この世界の、人の生きる場所を。」


 風が答えるように丘を渡り、

 遠くの風車がゆっくりと回り始めた。


一つの灯が消えるとき、もう一つの灯が胸にともる。

それが、エルドの旅の始まりだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


第二章は、エルドの「旅」の始まり。

ミルティア村から離れ、世界が少しずつ広がっていきます。


エルドの臆病さと優しさ、

それが“力になる”瞬間を、これから丁寧に描いていければと思います。


次話もどうぞよろしくお願いします!

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