第12話 丘に残る風
「おしかったな」
夕暮れの丘で、ライクがぽつりとつぶやいた。
その声を、風が静かにさらっていった。
草が揺れ、遠くの風車がゆっくりと回っている。
二度目の陣取り合戦は終わった。
結果は惜敗。
けれど三人の顔に、悔しさよりもどこか晴れやかな光があった。
「でも、前よりずっと強かったよね」
ミーナが息を整えながら言った。
ライクは笑って、両手を腰に当てた。
「そうだな。……今回は、相手が一枚上手だった」
エルドは小さくうなずき、遠くの空を見上げていた。
その目には、勝ち負けよりも何かを探している光があった。
◇
夜が降りて、村の家々から明かりがともる。
エルドの家の戸口では、祖父と孫が並んで道具を片づけていた。
木の香りが漂い、削りくずが床を白く染めている。
「勝つばかりじゃ、育たんもんだ」
祖父の声は静かで、よく通った。
エルドは少しうなずいて、かすかに笑う。
「うん。……ぼく、見てるだけだったけど」
「見てるだけってのはな、誰にでもできることじゃない。
ちゃんと見てる奴にしか、見えんものがある」
その言葉に、エルドの手が一瞬止まる。
胸の奥で何かがじんわり温かく広がった。
そのとき、裏口から元気な声が響いた。
「おーい、また鍋の火消えてんぞ!」
「もう、うるさいなぁ!」
ライクの声に、祖父が笑い、家の中に小さな笑い声が広がる。
その夜、久しぶりに火の色が明るく見えた。
◇
次の日の夕暮れ。
三人は丘に立っていた。
風が強く、草の波が金色に揺れている。
「ねぇ、あたしたち……ずっと一緒にいられるかな」
ミーナの声は、風にまぎれて少しかすれた。
ライクはすぐに笑って答えた。
「当たり前だろ」
エルドは空を見上げて、少し考えるように言った。
「うん。でも、もし離れても――ぼくは、見てる」
「またそれかよ」
ライクが笑い、ミーナもつられて笑う。
風が三人の髪をそよがせ、丘の下の羊が家路を急いでいった。
その笑い声を包みこむように、風車の羽が回り続ける。
トン、トン、と穏やかな音。
それは、子どもの遊びが静かに終わる合図のようでもあった。
◇
風が丘を渡っていった。
その風が“遊びの終わり”を告げていたことを、
そのときの彼らは、まだ知らなかった。
※ここで第1章完となります。
小さい頃のエルドたちの関係や“観る”力の始まりを描いた章でした。
続く第2章から、物語は少しだけ風向きを変えていきます。
これからもゆっくり紡いでいきます。




