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第12話 丘に残る風

 「おしかったな」

 夕暮れの丘で、ライクがぽつりとつぶやいた。

 その声を、風が静かにさらっていった。

 草が揺れ、遠くの風車がゆっくりと回っている。


 二度目の陣取り合戦は終わった。

 結果は惜敗。

 けれど三人の顔に、悔しさよりもどこか晴れやかな光があった。


「でも、前よりずっと強かったよね」

 ミーナが息を整えながら言った。

 ライクは笑って、両手を腰に当てた。

「そうだな。……今回は、相手が一枚上手だった」

 エルドは小さくうなずき、遠くの空を見上げていた。

 その目には、勝ち負けよりも何かを探している光があった。



 夜が降りて、村の家々から明かりがともる。

 エルドの家の戸口では、祖父と孫が並んで道具を片づけていた。

 木の香りが漂い、削りくずが床を白く染めている。


「勝つばかりじゃ、育たんもんだ」

 祖父の声は静かで、よく通った。

 エルドは少しうなずいて、かすかに笑う。

「うん。……ぼく、見てるだけだったけど」

「見てるだけってのはな、誰にでもできることじゃない。

 ちゃんと見てる奴にしか、見えんものがある」

 その言葉に、エルドの手が一瞬止まる。

 胸の奥で何かがじんわり温かく広がった。


 そのとき、裏口から元気な声が響いた。

「おーい、また鍋の火消えてんぞ!」

「もう、うるさいなぁ!」

 ライクの声に、祖父が笑い、家の中に小さな笑い声が広がる。

 その夜、久しぶりに火の色が明るく見えた。



 次の日の夕暮れ。

 三人は丘に立っていた。

 風が強く、草の波が金色に揺れている。


「ねぇ、あたしたち……ずっと一緒にいられるかな」

 ミーナの声は、風にまぎれて少しかすれた。

 ライクはすぐに笑って答えた。

「当たり前だろ」

 エルドは空を見上げて、少し考えるように言った。

「うん。でも、もし離れても――ぼくは、見てる」

「またそれかよ」

 ライクが笑い、ミーナもつられて笑う。

 風が三人の髪をそよがせ、丘の下の羊が家路を急いでいった。


 その笑い声を包みこむように、風車の羽が回り続ける。

 トン、トン、と穏やかな音。

 それは、子どもの遊びが静かに終わる合図のようでもあった。



風が丘を渡っていった。

その風が“遊びの終わり”を告げていたことを、

そのときの彼らは、まだ知らなかった。

※ここで第1章完となります。

小さい頃のエルドたちの関係や“観る”力の始まりを描いた章でした。

続く第2章から、物語は少しだけ風向きを変えていきます。

これからもゆっくり紡いでいきます。

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