第11話 風の午後に
昔から、あの二人はちょっと変だった。
エルドとライク。
まるで風と石みたいに、まったく違うのに、なぜか一緒にいる。
ライクは強くてまっすぐで、考えるより先に走り出す。
エルドは小さくて静かで、いつも人を見てる。
子どもの頃からその関係は変わらなかった。
あたしは、それを見てるのがなんだか好きだった。
◇
昼下がりの風はやさしくて、麦の穂がゆらゆら揺れていた。
風車の回る音が、トン、トンと規則的に聞こえる。
その音を背に、あたしはエルドの家へ向かっていた。
戸口の向こうでは、おじいさんが木を削っていた。
腕はまだ太いけれど、背中が少し丸い。
エルドはその横で、削った木くずをまとめたり、釘を数えたりしている。
その姿が、なんだか昔の職人と弟子みたいに見えた。
「こんにちは、エルドのおじいちゃん」
「ああ、ミーナちゃんか。エルドならそこにおるよ」
おじいさんは笑って、また木を削りはじめた。
音が“しゃっしゃっ”と優しく響く。
その横顔を見て、あたしは思った。
――この家には、いつも木の匂いがする。
「おじいちゃん、体大丈夫なの?」
そう聞くと、エルドが顔をあげて、少し笑った。
「うん。無理はしてないよ。重いのは、ぼくが運ぶから」
「そう言って、自分もふらふらしてるじゃん」
あたしが言うと、おじいさんが笑った。
「似た者同士だな」
たしかにそうかもしれない。
エルドはよく祖父の仕事を手伝っているけど、そのぶん家のことは後回しになっていて、料理も掃除もおろそかになりがち。
だから、ライクがよく心配して食べ物を持ってくるのだ。
◇
「おーい!」
ちょうどその声がして、ライクが裏口から顔を出した。
籠いっぱいの野菜を抱えて、泥だらけの靴のまま上がり込む。
「お前ら、また飯食ってないだろ!」
「うるさいなぁ、ちゃんと食べてるよ」
「ウソつけ、この前も鍋が空だったじゃねぇか!」
言い合いながらも、ライクはもう鍋に火をかけていた。
エルドは薪をくべ、あたしは包丁を取って野菜を切る。
なんとなく、三人で動くのが当たり前になっていた。
おじいさんはその様子を見ながら、ゆっくり笑っていた。
「いい仲間を持ったな、エルド」
「……うん」
エルドは小さくうなずいた。その表情を、あたしはよく覚えている。
◇
夕方。
火を囲んで三人でご飯を食べながら、ライクがふと思い出したように言った。
「なぁ、また陣取り合戦しようぜ! この前の“カイルの作戦”でさ!」
「いいね!」とあたしも言ったけど、エルドは箸を止めた。
少し考えてから、首を振る。
「それはもう使えないよ」
「なんで?」
「奇襲っていうのは、一度きりなんだ。次にやったら、相手はもう構えてる」
エルドの声は静かだったけど、その目はまっすぐだった。
「次は、“覚えてる相手”に勝つ作戦を考えなきゃね」
ライクは一瞬ぽかんとしてから、笑った。
「ははっ、そういうの考えるのはお前しかいねぇよ!」
あたしも笑って、外に出た。
夕焼けの風が頬にあたって、どこかくすぐったかった。
◇
風車がゆっくり回る音の中で、エルドが空を見上げていた。
その横顔が少しだけ大人びて見えて、
あたしは心の中でつぶやいた。
――きっとこの子は、あたしたちが気づけないものを、ちゃんと見てるんだ。




