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第11話 風の午後に

 昔から、あの二人はちょっと変だった。

 エルドとライク。

 まるで風と石みたいに、まったく違うのに、なぜか一緒にいる。


 ライクは強くてまっすぐで、考えるより先に走り出す。

 エルドは小さくて静かで、いつも人を見てる。

 子どもの頃からその関係は変わらなかった。

 あたしは、それを見てるのがなんだか好きだった。



 昼下がりの風はやさしくて、麦の穂がゆらゆら揺れていた。

 風車の回る音が、トン、トンと規則的に聞こえる。

 その音を背に、あたしはエルドの家へ向かっていた。


 戸口の向こうでは、おじいさんが木を削っていた。

 腕はまだ太いけれど、背中が少し丸い。

 エルドはその横で、削った木くずをまとめたり、釘を数えたりしている。

 その姿が、なんだか昔の職人と弟子みたいに見えた。


「こんにちは、エルドのおじいちゃん」

「ああ、ミーナちゃんか。エルドならそこにおるよ」

 おじいさんは笑って、また木を削りはじめた。

 音が“しゃっしゃっ”と優しく響く。

 その横顔を見て、あたしは思った。

 ――この家には、いつも木の匂いがする。


「おじいちゃん、体大丈夫なの?」

 そう聞くと、エルドが顔をあげて、少し笑った。

「うん。無理はしてないよ。重いのは、ぼくが運ぶから」

「そう言って、自分もふらふらしてるじゃん」

 あたしが言うと、おじいさんが笑った。

「似た者同士だな」


 たしかにそうかもしれない。

 エルドはよく祖父の仕事を手伝っているけど、そのぶん家のことは後回しになっていて、料理も掃除もおろそかになりがち。

 だから、ライクがよく心配して食べ物を持ってくるのだ。



「おーい!」

 ちょうどその声がして、ライクが裏口から顔を出した。

 籠いっぱいの野菜を抱えて、泥だらけの靴のまま上がり込む。

「お前ら、また飯食ってないだろ!」

「うるさいなぁ、ちゃんと食べてるよ」

「ウソつけ、この前も鍋が空だったじゃねぇか!」

 言い合いながらも、ライクはもう鍋に火をかけていた。

 エルドは薪をくべ、あたしは包丁を取って野菜を切る。

 なんとなく、三人で動くのが当たり前になっていた。


 おじいさんはその様子を見ながら、ゆっくり笑っていた。

「いい仲間を持ったな、エルド」

「……うん」

 エルドは小さくうなずいた。その表情を、あたしはよく覚えている。



 夕方。

 火を囲んで三人でご飯を食べながら、ライクがふと思い出したように言った。

「なぁ、また陣取り合戦しようぜ! この前の“カイルの作戦”でさ!」

「いいね!」とあたしも言ったけど、エルドは箸を止めた。

 少し考えてから、首を振る。


「それはもう使えないよ」

「なんで?」

「奇襲っていうのは、一度きりなんだ。次にやったら、相手はもう構えてる」

 エルドの声は静かだったけど、その目はまっすぐだった。

「次は、“覚えてる相手”に勝つ作戦を考えなきゃね」


 ライクは一瞬ぽかんとしてから、笑った。

「ははっ、そういうの考えるのはお前しかいねぇよ!」

 あたしも笑って、外に出た。

 夕焼けの風が頬にあたって、どこかくすぐったかった。



 風車がゆっくり回る音の中で、エルドが空を見上げていた。

 その横顔が少しだけ大人びて見えて、

 あたしは心の中でつぶやいた。


 ――きっとこの子は、あたしたちが気づけないものを、ちゃんと見てるんだ。

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