封印の地へ 5
いろいろと言いたいことはお互いに山ほどあるが、とりあえずは神獣クラウンラビットの封印を遂行するため、一時的な契約を光の上級精霊ソールと交わした。
レンも満足そうにニコニコしているし、光の精霊王さまも胸を撫でおろしている。
気のせいか、父様もセバスの手を握って喜んでいるようだけど、何かあったのかな?
「やっと契約できたか、ヒュー」
「うるさい、アリスター。お前とディディのようにはできないよ。お互い短い間だと思えば我慢ができるってところだ」
僕の言葉に、アリスターはニヤリと笑って「素直じゃないな~」とからかってくる。
「あら、精霊と本当の意味で契約しているのは、アリスターとドロシーぐらいじゃないかしら?」
僕たちの横をスタスタと歩く紫紺が、会話に入ってきた。
「え? でも、プリシラもアルバート様も契約してますよね?」
「エメは元々は瑠璃に頼まれてプリシラの守護をしているし、アルバートの場合はあれ、玩具感覚でしょ? 契約主のために身を捧げる覚悟のある精霊はディディとチャドだけ。それだけ、信頼し合っているのね」
フリフリと紫紺の尻尾が振られ、アリスターは照れくさいのか顔を僕から背けた。
ディディはどこか誇らしげに見える。
「そうか。それは羨ましいけど、僕にだって信頼し合っている仲間がいるからね」
紫紺がフフッと目を細めて笑うから、僕もニッコリと笑っておいた。
紫紺たち神獣聖獣もきっと精霊たちに負けない気持ちでレンと一緒にいるんだろうな。
でも、僕にもアリスターや騎士の仲間たちがいるからね。
今回は、ちょっと気の合わない奴と契約することになっちゃったけど……、ここからは気を引き締めていかないと。
「紫紺……。僕が言うことじゃないかもしれないけど……レンのこと、頼んだよ」
「ええ、任せておいて。そして、アタシたちはヒューもアリスターも守るわよ」
さあ、砂漠の地の下へ。
封印された神獣クラウンラビットと道化師の男が、僕たちを待っている。
とことこ。
歩きにくい砂の上を歩いて移動すること数十分。
ぼくは白銀の背に乗っているから疲れてないよ?
白銀もぼくと真紅が落ちないように、ゆっくりと歩いてくれたし。
「歩きにくい。肉球が熱い。イライラするっ」
……砂地の散歩は白銀にとってストレス大だったみたいです。
そんな、砂漠の行進もピタリと止まる。
先頭のダイアナさんが手を振って、ぼくたちや父様たちの足を止めた。
「ここから、封印の地まで飛ぶわ。ホーリーサーペントは土の精霊王と地盤の確保。周りにも結界を。邪魔者が立ち入らないように」
「わかったわ」
桜花がダイアナの言葉に大きな頭で頷くと、フワサッとそのピンク色の姿が消える。
「レン。ここからは危ないからね。絶対白銀たちの側から離れないように。もし……もし戦いが始まったら僕から離れないで」
「あい!」
ぼくも怖いことはイヤなので、絶対ぼくを守ってくれる白銀たちからは離れません!
もし、悪い人がクラウンラビットの封印を破ってしまって、眠りから覚めたクラウンラビットが暴れ出したら、ぼくは白銀たちのところから兄様のところへ避難します!
「たぶん、父様たちは道化師の男たちを抑えるので手一杯だろう。クラウンラビットを大人しくさせるのに白銀たちも余力はないし。僕たちのところなら、最悪精霊たちが守ってくれるからね」
兄様はぼくを安心させようと言葉を紡いでいくけど……兄様と契約したソールさんはぼくたちを守ってくれなさそう。
……もしものとはきエメの側にいよう。
プリシラお姉さんのついでにぼくも守ってくれるだろう。
「……レン? なにかおかしなことを考えてない?」
兄様の鋭い指摘に、ぼくはブルブルと頭を振って答えます。
さあさあ、神獣クラウンラビットのところへ行きましょう。
兄様の疑いの眼差しを浴びながら、ぼくたちはダイアナと紫紺の転移魔法で砂の地の地下へと潜っていった。
……。
砂での戦闘訓練はしてなかったな、そういえば。
精鋭の騎士たちを連れてきたが、足元の不安定さに顔顰めた俺の肩にセバスの手が置かれる。
「ギル。お前は指揮官だ。あまり前に出るなよ」
「それを言うなら、お前もな」
お互い、実力があるからこそ無理をするタイプだから、気を付けないと。
今回は、精霊たちも神獣聖獣たちも一緒だ。
俺たちが無理をしないでも、勝機は必ずある。
……ただ、問題は……。
「ヒューバート様もレン様も大丈夫だ。大きな存在に守られているから」
「う~ん、そうだけど、だからこそ心配というか……」
俺はチラリとセバスの手元を盗み見る。
ガッチリと首元を掴まれた馬のぬいぐるみがピクピクと四肢を痙攣させ、ほたほたと涙を流している。
……これが聖獣ユニコーンの姿だ。
本当に、大丈夫か?
俺とアンジェの宝物、かわいい我が息子たちを預けるのに、一抹の不安が残る。
「……はあぁぁぁっ、仕方ない。道化師の男を捕まえて、さっさと砂ばかりの地から脱出するかぁ」
トントンと肩に愛剣を乗せて、俺は最も信頼できる相棒にニヤッと笑ってみせた。
「そうですね。早く帰らないと書類仕事が溜まりますからね」
サラッと恐ろしいことを言ったセバスは主人である俺に背を向けるとスタスタと歩きだす。
「おいおいっ、ちょっと待てセバス! 書類仕事なんていやだよ~」
ビュルルルルル。
風が砂を巻き上げる。
そして、そこには、もう誰もいない。





