74話
「黙って聞いていれば言いたい放題言いやがって! あんたにリュート兄さんの何を知ってるって言うんだよ!」
「何も知らない」
先ほどまでとは打って変わり相手を屈服させるほどの威圧感を放つ。
たった一言でピットは何も言えなくなってしまう。
目の前にいる気品あふれる女性から発せられるのは百戦錬磨のそれ。
彼女に比べればいかに自分なんかがどれほど矮小な存在なのかを理解させられる。
「知らないからこそ何故彼が自分よりも選ばれたのか知りたい、納得できる理由が欲しい。今のところそれがなんなのかわからないし納得も出来ない。私、何かおかしいことを言っているかしら?」
「……」
言い返せない。彼女から放たれる威圧感もさることながら彼女が言っていることが正論過ぎたからだ。
目の前にいる女性とリュートを比べるなんておこがましい、それほどまでに彼女は卓越した存在だ。だが、それでもーー、
「確かにその通りです」
ピットが何かを言おうとする前に彼の声を遮るものが現れる。
それは今彼らが話していた相手であるリュート本人だった。
まだ体調は良くなくヴィルグに支えられてなくては立っていることも出来なく血の気もない。そしていつもは人前で吐かない弱音も発している。
彼は堪えていた、自分の弱点である呪術、その中でも死者を代価に使ったとても厄介なやつをもろに受けたこと……ではない。
確かに体はきついが心が折れそうになるほど参るほどではない。
「僕は弱い、剣も魔法も上手くなく賢くもない。呪術なんていう明確な弱点だってある。だから友達一人も護れない」
大切な仲間、それも一番古い付き合いのある親友を護れなかったことだ。
身内を何よりも大切にする彼にとってそれは何よりも屈辱的なことであり自分が許せないほど悔しいものだった。
「じゃあ貴方は何が出来るって言うの?」
そんな弱りきった彼に容赦なく冷たい言葉を問いかける。
威圧感なんて先程のものとは比べられないほど重く視線なんて凍りつくほど冷たい。
ピットに向けられていたものなんて可愛らしく感じられるほどだった。
「仲間を助けにいくことは出来る」
ただリュートは屈しない。
彼女の威圧なんてまるっきり気にしていない、逆に彼女を屈しようかと思うほどの存在感。
しっかりとミーティアの目を見てはっきりと宣言する。
「勝てるの?」
「勝てるのじゃないです、勝ちます。そのためになら僕は自分の持つ全ての力を使います」
「リュート兄さん、それはーー」
「わかってる」
ピットの慌てようはとても異常だった、何も知らないもの達はいったいなんのことだと揃えたように首を傾げる。
そんな彼をリュートはたった一言で黙らせる。
「ただこれは僕自身のけじめでもあるんだ、自分の不甲斐なさで多くの人に迷惑をかけたこの僕の」
「ヴィルグ兄さん!」
リュートの決意は堅く揺るがない、だったらと今度はヴィルグに声をかけて止めてもらおうとする。
どうやら彼もまたリュート側の人間のようだ、肩をすくめて両手を上げていた。
「一応俺も止めたけど駄目だった。今のこいつを止めたきゃ本当に殺すくらいしないと無理だ」
「……わかった」
もう誰がなんと言おうとも止められない。そう感じたピットは強い意志を込めて彼らを見る。
「もう止めない。けど俺も連れて行かせてくれ、俺がリュート兄さんにあれを使わせる前に全部薙ぎ払ってやる」
「今日は随分とやる気じゃなねーか」
「からかわないくれよヴィルグ兄さん、俺自身今回のことで色々とムカついているんだよ。それにリュート兄さんにあれを使わせたことをあとであの二人に知られたらなんて言われるか」
「まあ確かにな」