13話
「何か言い残すことはある?」
泣きわめきながら転げ回っていた男だったがもうそこまでの気力はない。完全に心が折れてしまい身を屈めて嘔吐いており、もうそこには傲慢だったギルドマスターの男の姿はなかった。
だがリュートは男がそんな状況だと言え容赦しない、ニコニコと笑みを浮かべたまま剣の面の部分で男の顔を持ち上げる。
これではどちらが悪逆非道の限りを尽くしたギルドのマスターなのかわからないなとヴィルグは呆れながら静かにため息をつく。それからこのままこいつに任せてもろくなことにはならないと思いながら男の元へと歩いて行く。
「そのくらいにしとけ馬鹿。それ以上いじめると必要な情報を吐いてくれなくなる」
「その発言も大概だが……まあその通りだな。必要以上に敵を追いつめると何をしでかすかわかったことではない」
「はーい」
リュートは元気よく返事をして剣を収め、もう興味がないと言わんばかりに男から視線をそらして意気揚々とギルド内を探索しに行った。その後を当然のようにアルクもついていく。
ついさきほどまで命がけの戦闘を行っていたのにもうそんなことなどどうでもいいかのように観光気分とは、さすがのエルドアンも理解出来なかった。
「でだ」
ヴィルグは探索にいくリュート達にも、今現在呆気に取られているエルドアンにも目もくれずに男の前まで歩いて行き腰を下ろす。この男もこの男で我が道を行っている。
「お前らいったい何をしようとしているんだ?」
ヴィルグの真剣な目が男を捉える。彼は今回の作戦のさいに色々と調べているうちに彼らが何か大きなことを野郎としていることに気づいた。
しかもそれは彼らギルド主権ではなく、さらにその上のクランが主権として動いていて彼らすら駒として使われるほどの大事。
ある裏取引を行っている相手との交渉の際に上手に立ちたいためどうしても情報というものは欲しい。
「兵を集め金品を集め食料を集める。これじゃあまるでーー」
戦争でもおっ始めるようとしているみたいだ。だがその言葉は男が聞くことはなかった。突如として男がその場で暴れ回るほど苦しみだしたからだ。
ヴィルグは急いで治療を施そうとした。だがその差し出した手は隣に立っていたエルドアンに掴まれてしまったことに止められてしまう。
「触るな……呪いだ」
言葉とともに男の体から黒い何かが吹き出す。それはまるで生きているかのようにうねりながら分裂し、食い散らかすかのように男の体を貫いて行く。
見ていてあまりいい光景ではない。先ほどまであんな行動をしていたヴィルグも顔をしかめるほど惨たらしい光景であった。
「いらなくなったものは排除ってことか」
「だがあまりにも気づくのが早すぎる。……まさか監視されているのか」
「いや、それはないと思う。監視されていたら俺たちもただじゃ済まない。少なくとも呪いが襲いかかってくるだろうよ」
「そうか。……呪いの主も酷なことをする」
「やつにとって配下なんてものは代用品が利く動く人形って言うところなんだろ。噂通りの恐ろしい男だよ」
ヴィルグはため息まじりに人間の形をなくした亡がらを見つめてから後ろに振り返る。今回の一件で奴らとは完全に敵対関係になってしまった。
相手方も何やら忙しいみたいだから今すぐ襲われることはないが遅かれ早かれ何かしらの行動をとってくるだろう。
ホントあいつと一緒にいたらろくなことにならない。ただそう思っているヴィルグの表情にはどこにも険しいものはなかった。




