おまけ3.メアリーの頭に、うさぎの耳が……!(イラストあり)
「そろそろハロウィンの季節ですねー」
「別にハロウィンなんてどうでもよくね?」
のんびり昼寝を決め込んでいた俺は、クマスケのつぶやきにあくびをしながら返した。
「どうせ俺達、ぬいぐるみだし。関係ないじゃん」
もう一つ、あくびをしながら付け加える。
あ、もちろん本当にあくびなんてしていないぜ。俺はぬいるぐるみだし。まあでも、言いたいことはわかるだろ。寝起きにつまらない話を耳に入れるなってことさ。
「えー。ピーターさんはハロウィン嫌いなんですかあ?」
「じゃあ訊くがな。ハロウィンのどこが楽しいんだよ」
「そりゃあもう、全部ですよ!」
クマスケが明るい声をあげた。
「ハロウィンで街の雰囲気ががらっと変わるの、すごくありません? ファンタジックで、どこか不思議めいていて」
「えー。でも、この城もかなりそっち寄りの雰囲気あるじゃん」
「……あ、あー。そうですねえ」
「それに俺、ぬいぐるみだし。ここから出られないし。だから街なんてどうでもいいし」
「……あ、あとはですね!」
慌てた様子でクマスケが続ける。
「仮装! そう、仮装は楽しいですよ!」
「かそおおー?」
渋い顔で、低い声で繰り返した俺に、「はいい!」と、クマスケが大きくうなずいた。
「ハロウィンでは、仮装して、街を練り歩くのは知ってますう?」
「知らない」
「あのですね。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』って言って、いろんな人からお菓子をたーくさんもらっちゃえるのがハロウィンなんです。どうですか? 楽しそうじゃないですか?」
「別に。俺、ぬいるぐみだし。ここから出られないし。食べられないし」
「……あー、うん。それはそうなんですけどお」
「ちなみにこの城にはハロウィンなんて関係ないからな」
「そうなんですか?!」
「当たり前だろ。ここは城だぜ? 庶民の住む世界とは違うんだ」
「……そうなんですかあ」
すっかりしょげてしまったクマスケに、本当のことを言い過ぎたと反省しかかったところで。
「きゃはははは!」
かわいらしい笑い声をあげながらメアリーがこちらに向かって駆けてきた。
だがそのメアリーを一目見て、俺は開いた口がふさがらなくなった。
「お、お前……! どうしたんだその耳は……!」
なんと、ただの人間であるメアリーの頭に、うさぎの耳が生えているのだ。朝までは普通だったのに……!
「どうしちまったんだ! まさか悪い魔法使いに呪いをかけられでもしたのか? おいベンジャミン! 起きろ!」
「ううーん。うるさいなあ。どうしたんだ?」
俺の隣で三匹の嫁と仲良く昼寝をしていたベンジャミン。こいつらの邪魔をしたらすげえ怒られるから、普段は起きるまで声をかけないんだけど、今は緊急事態だ。
「メアリーが! メアリーがっ……!」
「メアリーがどうしたって? ……わあ!」
瞼をこすっていたベンジャミンも、メアリーを一目見て大きな声をあげた。
「ふうん! いいねえ。とってもかわいいじゃないか」
「はあ? なにのんきなことを言ってるんだ。これは何かの呪いだって!」
すると、ずっと黙っていたクマスケまでもが場違いなことを言うではないか。
「いやーん。メアリーちゃん、とってもかわいい!」
「おい、クマスケ! お前なあ!」
「ほらほら、ピーター。落ち着いて」
「うるせえ、ベンジャミン! これが落ち着いていられるかああ……っ!」
とうとう俺は怒りを爆発させた。
「お前、三姉妹と結婚して頭がハチミツでいっぱいになったのか? いいか、俺達にはハリーを護る義務があるんだ。その対象にはハリーの愛する家族のことも含まれるんだ。だからメアリーの一大事は俺達にとっても一大事なんだ。クマスケ、それに三姉妹」
俺は話を聞いている女達に鋭い視線を向けた。
「お前達もそうだ。ここにいるぬいぐるみはみんな同じ気持ちでいなくちゃいけないんだ」
しーん、と、場が静まりかえった。ようやく事の重大性を理解したらしい。
「……さあ。では落ち着いて考えようじゃないか。メアリーの呪いを解く方法を」
俺がこの場のリーダーとしてみんなを引っ張ってやらなくちゃいけない。そんなことを思いながら話を続けようとしたら――。
「ぬわあっ?」
俺の体が、宙に浮いた。
にこにこ顔のメアリーが俺をつまみあげたのだ。そして身に着けているエプロンの上に載せた。
続けて、ベンジャミン。
「メアリーは俺達二匹をどうするつもりなんだ? ……はっ。まさかすでに正気を失っていて、魔法使いのところに連れていくつもりなのか? 俺達が特別なぬいぐるみだから?」
やべえやべえと騒ぐ俺を尻目に、なぜかベンジャミンは嬉しそうだ。
「うふふ。私と一緒にパパとママのところにお菓子をもらいに行こうね」
メアリーのつぶやきは、混乱しすぎた俺の耳には聞こえなかった。
*
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞー!」
夕方から始まるパーティーのため、会場となるガーデンにいたハリーとソフィーは、突然現れた愛娘にとたんに目尻を下げた。
「まあメアリー! とってもかわいいうさぎさんになったのね」
「うん! ママ、お洋服作ってくれてありがとね」
にこにこのメアリーに、「はいどうぞ」とソフィーが棒つきキャンディーを一つ渡す。そう、今日はハロウィンだ。城に勤める者達の子息を招いたハロウィンパーティーが、これからこのガーデンで催される。今ソフィーが渡したキャンディーは、今日のために厨房の者総出で用意されたお菓子のうちの一つだ。
くりぬかれたかぼちゃ。火がともされるのを待つランタン。きらきら光るモール。お化けやクモの巣といった飾り。そしてもちろん、たくさんのお菓子。たくさんのごちそう。見るからに楽し気な会場となった。あとは日が落ち、参加者が来るのを待つばかりだ。
「ねえねえ」
メアリーが不満そうにハリーをつついた。
「パパはお菓子、くれないのお?」
「あら。ハリー、どうしたの?」
いつまでも動かない、返事もしないハリーに、ソフィーも問いかける。これにハリーが苦し気にため息をついた。
「……お菓子をあげるか、いたずらしてもらうか。どっちにしようか迷ってるんだ。ああ、こんなにかわいいうさぎは世界中どこを探してもいないよ。うん、よし決めた。さあ、メアリー。パパにキスしてくれ。そしてたくさんいたずらをしてくれ」
「まあ、ハリーったら」
相変わらず自分とメアリーには甘いハリーに、ソフィーが困ったような笑顔になった。でもそれは本当に困っているから見せる顔じゃなくて。だから俺は幸せな気持ちになった。
「さ、分かっただろ。これがハロウィンなんだよ。ハロウィンっていいものだろ?」
物知り顔で、得意げに言うベンジャミンは別に何もしていない。だけど俺はそれに素直にうなずいた。
「ああ、そうだな。ハロウィンっていいものなんだな」
この城に、こんなにも温かな空気が流れる日が来るなんて、メアリー、お前は知っていたのか?
俺は自分を作ってくれたメアリー、つまりハリーの母親に問いかけるように、秋特有の澄んだ青い空を見上げた。
「お菓子をくれないんだったら、キスしてあげない!」
「……だったらお菓子をあげるからキスをしてくれ!」
俺、ずっとお前の家族のことを護るから。
この幸せな家族のことを。
*
ハロウィン。それは死者の霊が現世へとやってくる特別な日。
了
こちらのFAは一本梅のの様開催のハロウィンコレクションにおいて描いてくださったものです♪
のの様、このたびはありがとうございましたm(_ _)m




