第13話リューホ編
準備がようやくできて出発しようとした時のこと。
「じゃあ行くか」
俺がみんなに声をかけた次の瞬間、
「「ナヲユキ、ちょっと待って(くれない)」」
皇女様とケントがいきぴったりで言い俺が店に出るのを遮った。
「「城に一回戻らないといけないんだ(よ)」」
「うん? 何でだよ? ケント、皇女様」
俺は聞き返した。なんで逃げてきたのにわざわざ城にもう一回戻るのだ。
まったく解らん………………………………………………あっ! わかった! もしかしたら、
「皇女様の下着ですね」
バシン! 皇女様に頭を叩かれた。しかも、素手のはずなのに皇女様は意外と力があったみたいで痛かった。
「ちっ違うよっ! でも確かに必要だけど…………………じゃなくて私たちが言った目的はとにかく違うよっ! もった別のことなの」
「えっ!? 着替えの下着じゃなかったのですか? てっきり皇女様の服とか下着だと思っていましたのに」
バシン! ケントも同じことを考えていたみたいで頭を叩かれた。しかも、俺の時よりも甲高くいい音がした。たぶん、俺の時よりも痛かっただろう。その証拠にケントは涙目で自分の頭を押さえていた。
「ケントまでそんなこと言ってこのヘンタイ!」
皇女様は顔を真っ赤にしながら言った。
「冗談ですよ。リューホのことですよね?」
ケントが先ほどの痛みから解放されたらしく皇女様に応えた。ケントが言うと皇女様は、「やっぱり」と小言で言ったうえで、ケントに応えた。
「そうだよ。やっぱり解っているじゃないの。まったく変な冗談はやめてよ」
リューホって誰だ。なんとなく聞いたことがあるような気がするが……………………。皇女様とケントは知っているみたいだけどいったい誰なんだ。
「で、目的は何ですか?」
俺は、皇女様とケントが言っていた目的について尋ねた。
「私たちが城に戻ろうと言ったのはね、マドー城の城内で軍の馬や鳥の世話係をしているリューホっていう人を旅に連れていくためなんだよ」
「そのリューホっていう男は強いのか?」
「ナヲユキ、お前は騎士団時代に聞いたことがないのか? リューホはかつての魔術大戦において帝国のとある部隊の部隊長を勤めた兵士で、彼の部隊だけ死者を出さなかったという伝説を持つ男だ。いまじゃ、彼は帝国中の英雄だぞ」
……………………………………。
そんなに強い男がこの世の中にいるのかい。正直びっくりしたぜ。というよりも俺が今まで知らなかった方にびっくりした。
「確かにその男が強いということはわかりました。でも、皇女様は戦争いや、戦いが嫌いではないのですか?」
「そうだよ。私は………私は戦いが大嫌いよ」
「そんなあなたが、なぜ兵士を連れて行こうとするのですか? 俺達だけじゃ不満ですか?」
「あっごめん。そんな訳ないよ。ただ、リューホはもう兵士を引退したいるから元兵士なの。ただ彼は………………戦争によって心が傷ついて平穏な暮らしを求めているの。だから馬や鳥といった雑用をしている。でも、彼は武器の扱いに詳しいし強いからきっと旅には必要な人材になるよ」
なるほど。俺は頷いた。皇女様がここまで信頼しているということは相当すごいに決まっているはずだ。俺もリューホに早く会ってみたいと思った。
「ざっと城に戻る理由はわかりました。でも、城にどうやって入るのですか? ケントならまだしも皇女様は逃走中の身でありますよ」
「そうね~。ケント副団長ならなんか良い作戦があるでしょ」
「それはだな……………………」
ケントは作戦を考え始めた。
「「「……………………………」」」
じー。俺とユーイチと皇女様の三人はケントを見つめた。
「…………………………………」
ケントは、まだ考えている。それを俺達はただ無言で見つめ続けた。
「「「……………」」」
「アハハ」
ついに作戦が思いつかなかったらしく乾いた笑い声を出しやがった。ケントよ。もう少しは考えろよ。
「ケントは騎士団の副団長だろ? 即座に作戦の一つや二つを考えることはできないのか?」
俺は、ケントに尋ねた。ユーイチや皇女様も頷いている。ケントはさすがにまいったらしく再び作戦を考え始めた。しかしすぐ時間がたつと、
「……………………………………ヒュー♪」
なぜか口笛を急に吹き始めた。相変わらずごまかし方が下手だな。幼い頃とまったく変わってないぜ。まったくこんな副団長で騎士団の人達は大変なんだろな。少し同情するよ。
「何か失礼なこと考えていなかったか? ナ・ヲ・ユ・キ(ニコ)」
「なっ何もかんがえていないぜ。別にケントのごまかし方が下手とかまったく成長していないとか考え、はっヤベ」
やばい。思っていたことを全部言ってしまった。どうしよう。足がガタガタ震えているし。
「ナ・ヲ・ユ・キ!」
「ごめんなさいっ~。許して~」
怒られてしまった。どうすればいいんだ。この修羅場。どうにかしてこの場から逃げないといけないな。話題でも変えてみるか。
「すいませんでした。だからもういいだろう。で、どうやって入るかはいいとしてケントがもちろん行くのだよな」
「わー。ナヲユキ兄が逃げた。話題変えやがった」
おいっ。ユーイチ。俺がどうにかして話題を変えようとしたのに何て事を言うんだ。
「ユーイチ。これからは真面目な話だ」
「まったくもういいよ。ナヲユキの話だけど、城に入るのは俺と………ナヲユキだ」
俺がキメ顔で答えると。ユーイチは爆笑した。俺は、そんなユーイチを無視してケントを見た。ケントは「まったく」とため息をついたがどうにかさっきのことは水に流してくれた。だが、帰ってきた答えには正直驚いた。
「なんで、俺が城に入るのだよ! 俺はもう騎士団の一員では無いのだぞ」
「そりゃあわかっている。でも、今の状況はとても有利だ。皇女様は行方不明になっているから元騎士団の一員として皇女様や帝国への恩返しということで皇女様を探すという口実で城に入ればいいさ」
「確かにそれはいい考えだ」
俺はケントに感心した。何気に作戦を立てていたことにだ。
「やれば出来るじゃないの」
「いえいえ、皇女様」
「じゃあこれで決まりということでいいですよね? 皇女様もケントもユーイチも」
決まった。あの馬鹿でかい城の中に久しぶりに入ることになった。騎士団の時以来だな。それにしても、あの馬鹿でかい城でリューホを探すのか。
「じゃあ、ユーイチ頼んだぞ。皇女様の護衛」
「もちろん」
ユーイチは絶対に守ってみせるよと誓ってくれた。皇女様はそこまで心配しなくていいと俺の耳元で小言を言ってくれた。
「行くぞナヲユキ」
「オウ!」
バン
ドアを開けて俺とケントはマドー城へと向かって走った。
いよいよ第2章が始まります。この章から魔導器を使ったバトルが開始します。