2話
それから少しして、彼女は料理を片手に部屋に戻ってきた。
「よいしょっと。カレーどうぞ。」
湯気が立つ皿が、目の前に置かれる。
「いただきます。」
小さく手を合わせて食べ始める。
「……おいしい。」
カレーを口にした瞬間、その言葉が口からこぼれ出る。
私はカレーが一番好きだったのだろうか。とても落ち着く味がする。
「よかった。」
彼女は嬉しそうに、それでいて、どこか遠くを眺めるような表情で笑った。
その笑顔を見ていると、どこか胸の奥が温かくなる。
「えっと、」
「うん?」
「あなたの名前を教えてほしいです。」
「あ、わたし?私はね、フォルロラ!よろしくね。」
フォルロラ、その名前を頭の中で繰り返す。
「君は……名前も覚えていないんだっけ?」
「はい、そうなんです。」
「そっか、」
一瞬、彼女の表情が曇る。けれどすぐに何もなかったかのように明るく笑いなおした。
「名前がないのは不便だよね。」
「……そうですね。」
「じゃあ、記憶を取り戻すまでの、仮の名前。つけちゃおっか。」
彼女は少しだけ考えるように視線を落として、すぐに顔を上げた。
「えっと、セルヴァ!記憶を取り戻すまでのあなたの名前はセルヴァよ!」
「セルヴァ?」
「そう!今日からしばらく、あなたはセルヴァよ!」
「はい」
セルヴァ。
今日から私の名前はセルヴァだ。
どうしてだろう。初めて聞いた名前のはずなのに、なぜか少し知っているような、感じがした。
「これからよろしくお願いします。フォルロラさん。」
そう言って笑いかけると、彼女は少し困ったように笑った。
「どうしましたか?フォルロラさん?」
「うーんとね、えっと、できればフォルって呼んでほしいなーなんて。」
「フォルさん?」
「ううん。呼び捨てで。」
「……フォル?」
そう呼ぶと、彼女は小さく息をのんで、一つうなずく。
「うん、それがいい。」
どこか安心したように、どこか寂しそうに、彼女は私に笑顔を向ける。
「これからよろしくね、セルヴァ!」




