卵
階段を駆け下りる二アに向かって、俺は叫んだ。
「二ア、アレが何だってんだよ!」
「エイリアンの卵だ! 羽化したら人類が滅亡するっ」
マジかよ!
エイリアンの卵、宇宙船から入手したのか?
だとしたら、既にどっかに着陸したってことか?
ずっと空を見上げてたけど、そんなシロモノがやって来る気配は無かった。
「……そーか」
カップ焼きそばのUFO。
あんな風に、何かに擬態した状態で着陸したのかも知れない。
道路に飛び出すと、左右を窺う。
左手に男と二アを見つけた。
先行して男を追っていた二アは、地面を蹴ってジャンプ。
移動する男に、跳び蹴りを背後から見舞った。
「うぐっ」
男は、卵を抱えたまま地面にうつ伏せに倒れ込む。
ぐしゃり、と卵が砕け、黄色い液体が地面を伝う。
「ふうっ、間一髪」
額の汗を腕で拭うと、黄身まみれの男がゆらりと立ち上がった。
男は、恨めしそうな目つきで二アを見やると、呟いた。
「……どうしてくれんだ。 せっかく海外から持ち帰った貴重なダチョウの卵が……」
「えっ、ダチョウ?」
「そうだ。 これはな、世界一でかい目玉焼きを作るっつー企画の為のモンだ!」
男は胸ポケットから名刺を取り出し、二アに差し出した。
「俺は、こういう者だ」
「あ、俺、二アです」
何故か二アも胸ポケットから名刺を取り出し、交換する。
……営業のサラリーマンかよ。
(使わねーのに名刺なんていらねーだろ)
そんな風に思いつつ、二アが持っている名刺を後ろから覗き込むと、こう書かれていた。
「ユーチューバー?」
「ああ、そうだ。 俺はユーチューバーのベーコン。 それより、ダチョウの卵、どーしてくれんだよ!」
黄身まみれでベーコンとか、朝食みてーなヤツだな。
すると突然、その場で二アが高笑いをした。
「はっはっはっはっ! 小せぇ男よ」
「何が可笑しいっ」
「そんな企画じゃ、再生回数は稼げないっつってんのさ」
挑発的な態度の二アに、俺は心の中でツッコミを入れた。
(今回は土下座せんのかいっ)




