28話 ひとり思案
考え事をしているうちに家に辿り着いていた。玄関の明かりは消えている。鍵を取り出しドアを開けた。
「まだ帰ってきていないんだ」
暗がりで眞名はひとり呟くとリビングの明かりを点けた。ライブ終了後30分ほどして帰路に就いたからお兄ちゃんはもう帰ってきているはずだ。自分の部屋でラフな服に着替えるとスマホを取り出す。まだライブのお礼ポストをしていない――
「あ」
LINEにメッセージが入っていた、「ごめん。ちょっと遅くなる」。
ちょっと、とは何分だろう? すでに30分は寄り道しているはず。しかも今日は美妃さんも来ていたからふたり一緒かも知れない。「かも知れない」ではなくて、多分そうだろう。きっとそうだ。間違いない。泣きたいけれど間違いない。
間違いないって思っても否定したい自分がいた。
お礼のポストを済ませるとキッチンに降りて作り置いていたシチューを火にかける。
時折鍋をかき混ぜながらコンロの前でぼんやり考えた、「今日のライブはどうだったかな?」
いいライブって何だろう? 眞名は時々考える。
お客さんに満足して貰えるライブ、だとは思うのだけど、だったら満足して貰えるライブって何だろう? 客席が盛り上がればいい? それもひとつの物差しだと思う。私だって盛り上がってくれたほうが嬉しいし楽しい。だけど静かに見守ってくれる人もいる。お写真撮ってくださる人もいる。もしかしたら「いいライブ」って見る人によって違うのかもしれない。だから答えはたくさんあってひとつに決まらないのかもしれない。でも、だったら私はどうしたらいいのか、それじゃ答えになってない……
美鈴はファンサいっぱいするようにしたらファンが増えたって言ってた。私は最初から精いっぱいにファンサしてきたつもりだから変化は分からない。ファンサは偏らないように、自分の前方にいるお客さまにするようにしている。前や後ろは関係ない。カモミの立ち位置は右へ左への移動が多いから、右にいるときは右のファンへ。左にいるときは左のファンへ。勿論、真ん中の時も同じ。そうすることで皆さんに偏り少なくたくさんファンサできると思っている。勿論私の色を振ってくれるファンには目が行くしカメラを向けてくれたらそっちを見る。でも遠く反対側へはファンサしないことにしている。勿論それがいいライブの条件なのかって言われたら分からない。だけど美鈴の話を聞いているとファンサも度が過ぎると勘違いされるみたいだし。「絶対結婚しような」を本気にしてしまうというのは、まさかって感じだけど、そういう人がいても不思議じゃない。ファンの人は本当に三者三様、十人十色、百人百様、千差万別なのだから。
シチューがぐつぐついい感じになってきた。でもまだ帰ってこない。
眞名は少し考えてひとり分の食事をテーブルに並べた。
「まだかな?」
小さな声で呟くと窓の方へと目をやった。今日のことを思い返す。いつものようにカンベエさんと清正さんとたっくんが白色振って応援してくれた。それに美妃さんも加わってくれた。とっちゃんさんは居なかったけれど私はとても幸せだった。もっとたくさん白いペンライトが見たい! もっと大きなところで、もっとたくさんの人に愛されたい! そう思うことも確かにある。でもファンひとりひとりの視線が何よりも嬉しい。狭いところでも、たったひとりでも、心からそう思える……
「いただきます」
手を合わせ小さな声で言ったその時、玄関が開く音がした。
「お帰りなさいっ!!」
言いながら立ち上がると、眞名は玄関へと駆けた。
次回投稿は少し間が開くかもしれません。ごめんなさい。
近いうちに新しい連載を始めます。そちらも是非よろしくです。




