表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れ女神レイピアと最強未満の最弱ヒーラー。〜〜アラサー転生者、冒険、青春、ほんのりチート。妹、イケメン化、時々ハーレム  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/35

第34話 リリスの物語。

 チュンチュン……。


 ん……。鳥が歌っている。

 わたしは、この時間が好きだ。


 ふと壁に目を向けると、視界に絵が入った。

 父上と母上の絵だ。


 シャルロット家は、建国の祖である9英雄の血筋だ。父のシオンは、一族にかかる龍の呪いを解くために、龍皇と戦って死んだ。


 わたしは、その龍紋を受け継いでいる。

 だから、わたし、リリス•シャルロットは、20歳の誕生日を迎えることはできない。


 わたしが助かる方法は3つある。


 1つ目は、治癒師に解呪してもらうこと。

 2つ目は、子をなし龍紋を継承すること。

 3つ目は、当代の龍皇を殺すか、そのゆるしを得ること。 


 だけれど、3つ目は……。

 考えると胸の奥が疼く。


 龍皇討伐は、ハイエルフの聖騎士だった父にも成し得なかった。もし、わたしが3つ目を選んだら、きっと屋敷の者たちもついてくるだろう。そうしたら、彼女たちが犠牲になる。


 だから、わたしは。

 ……呪いが解けなければ、諦めるつもりだ。



 ********



 今日は、当家に仕えるイオの誕生日だ。


 わたしの解呪の為に、彼は4年間を費やしてくれた。そして、約束通り解呪の魔法を覚えてくれた。


 解呪に失敗したらと思うと、怖くてたまらない。恐怖で皆の前で泣いてしまうかも知れない。


 そうしたら、彼に嫌われてしまうかも。


 それに、領民のためにサイファを倒すなんて偉そうなことを言っておいて、自分が死んでしまうなんて……、わたしはとんだ大嘘つきだ。


 手首に龍紋が見える。

 自分の運命を想像するだけで、指先が震えてしまう。


 

 だから、解呪を試す前の日に——。

 

 『1日過ごして欲しい』と、イオにおねだりしてしまった。


 彼は笑顔で引き受けてくれた。

 業務外のことなのに、ごめんね。



 今、わたしは鏡台に座っている。

 さて、そろそろ準備しないと。


 アイシャの手伝いは、なんとなく断ってしまった。


 だから、ちゃんと自分でメイクをして。

 服は、身分が分かりにくいものを。


 こんな自由時間、贅沢すぎるかな。


 わたしは、鏡を見つめた。

 鏡には、お母様そっくりな姿。


 わたしは話しかけた。


 「男の子とデートなんて、初めてだし……今日くらいはいいよね?」



 待ち合わせ場所にいくと、彼は驚いた顔をした。


 「リリスさま。可愛いです」


 町娘の服装だからかな。

 お世辞かな。


 ……でも、素直に嬉しい。


 「ふふっ。『さま』は禁止です。今日のわたしはそうですね。……『リリ』と呼んでください」

 

 並んで歩き出す。

 すると、時々、イオと指先が当たった。


 噴水の近くまで行くと、イオが行列のできているワゴンを指差した。


 「あの店のクレープ、大人気なんですよ」


 「クレープって何?」


 イオは、ただ笑った。


 「百聞は一見に如かず、です」


 教えてくれないらしい。

 意地悪だ。


 わたしたちは列の最後尾に並んだ。


 「こんな待たせちゃってすみません」


 イオの言葉に、わたしは首を横に振った。


 わたしは、むしろ嬉しいのだ。

 イオと一緒に待てるのだから。


 この列、もっと長くならないかな。



スン。


 時々、ふわっと甘い匂いが漂ってくる。


 イオと話していたら、すぐにわたしたちの番になってしまった。


 「リリ。これ食べて。俺の奢り」


 彼から受け取ったクレープは、竹の皮に巻かれていた。直接に手が触れないようにすると、疫病が防げるらしい。


 イビル(諜報担当メイド)から聞いて知っている。……これはイオのアイディアだ。


 竹の皮のアイディアは、領民にも受け入れられて、今では色々なもので包んで食べるようになった。


 

 はむっ。

 クレープを食べると、甘くて美味しかった。


 イオが話しかけてくる。


 「どうです? このクレープ、俺の故郷の食べ物なんですよ」


 故郷?

 シャインスターではないの?


 改めてクレープを見た。

 小麦の皮の間に生クリームとフルーツが入っている。


 鼻を近づけると、豊かな葡萄の香り。


 「このフルーツ、生じゃないの?」


 「これ。ワインで煮込んであるんです。こうすると腐りにくいんですよ」


 イオはそう言って笑った。


 これはコンポートという保存食らしい。

 これも、イオが皆に教えてくれたものだ。


 シャルロット領では、ここ数年で固形石鹸も普及した。


 3年ほど前、わたしはイオが自費で石鹸を作っていることを知った。そこで事情を聞いてみると、イオは「石鹸を作るのに給料は、ほとんど使ってます」と答えたのだ。


 「どうして? 給金は自分のために使ったらいいのに」


 わたしの質問に、当時のイオは笑顔で答えた。


 「石鹸で手を洗うと病気を防げるんです。だって、みんなに病気になって欲しくないじゃないっすか」


 今思えば——。

 彼の顔にドキドキしたのは、あの時が初めてだった。


 まぁ、そのしばらく後に、イオが好みの女の子に石鹸を配っていることを知り、お仕置き……いや阻止……したのだけれど。


 ふんっ。

 あの日のわたしのドキドキを返して欲しい。



 わたしは視線を戻した。

 目の前では、イオがクレープを食べている。


 領民の健康を守るのは、領主の仕事だ。


 だから、固形石鹸は、シャルロット家で生産して領民に配ることにした。


 庶民が気軽に買える……とまではいかないけれど、今では納税の時に、一家に一つずつ配っている。


 そうしたら、本当に病気になる者が減った。


 イオは不思議な男の子だ。

 わたしたちにない知識を持っていて。


 普段は女の子にヘラヘラしてるのに。

 自分の功を誇ることもない。


 今日だって、ほら。

 クレープを売っていた姉妹。


 エマさんだっけ。

 審問官から助け出した女の子だった。


 きっと、イオがクレープを教えたのだろう。


 こんな人が旦那様だったら。

 領民も幸せになれるのかな……。


 

 気づけば、わたしはイオの瞳を見ていた。


 不意に目が合う。

 14歳になった彼の瞳は。


 少しだけ寂しそうな深い青色。


 イオがわたしの唇に手を伸ばしてきた。

 そして、ぺろっとその手を舐めた。


 「リリ。唇にクリームがついてるよ」


 ……ドキドキする。

 困った。


 これ、間接キスだよ?


 心臓がすごい事になってる。

 どうしていいか分からない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ