新兵器リベルタ・ザ・ターミガン
『烈火、辛くなったら言い給え。選手を交代しよう』
ブレイズのコックピットに、静かに通信が響いた。
烈火の視線が一瞬、視界に映るソラリスに固定される。
「マティアス……」
烈火の洞察眼は、ソラリスの動きに既視感を覚えていた。
あの動きは……かつて戦ったサーペントの少女のもの。
烈火の胸に、成層圏での戦いの記憶が蘇る。
あの時、烈火は確かに感じたのだ。
死にたくない、怖い、殺さないで───
そんな少女の叫び声を。
烈火は殺しへの躊躇がない。
だが……
幼い子供を殺すとなれば、話は別だ。
かつて孤児院にいたころ、自らを慕っていた少女が、目の前で死ぬのを見たことがある。
何年前のことだったか。
あの日、烈火は他の子どもたちを連れ、街中を歩いていた。
戦争が迫る中での、つかの間の休息の日。
大通りには負傷兵や物乞いが増え、盛り上がらない市場を歩く。
突然、警報が鳴った。
突然、空が赤くなった。
突然、爆弾が落ちてきて。
突然、子供の一人が肉片に変わった。
数秒前まで息をしていたイキモノが、呼吸をしない物体になる瞬間。
思い出すだけでも苦しい記憶。
マティアスは、烈火がその重圧に苛まれることを知っていた。
だが、烈火は首を振る。
赤い髪が額に張り付き、口元に苦い笑みが浮かぶ。
『これ以上は押し付けられねぇよ。俺がやる』
『そうか。窮地には頼れよ』
『ああ』
通信が途切れると、ストラウスも離脱していった。
戦場に残るのは、6機のファランクス、イノセント・ソラリス、ブレイズ、そしてリベルタだけだ。
暑い日差しが降り注ぐ砂漠の中、総計8機のコマンドスーツたちは、武器を手ににらみ合う。
再び、戦場が動き出した。
最初に動き出したのは、リエンの乗る、イノセント・ソラリス!
ソラリスは両手に、黄色いE粒子ブレードを構える。
改修されたブレードは、従来の青白い輝きとは異なり、まるで太陽のような眩い光を放っていた。
フォオオーン……!
リパルサーリフトが唸り、ソラリスはブレイズへと突進!
対するブレイズも、即座に粒子ブレードを展開。
青白い光の刃で迎え撃つ。
「……そこ」
「そこだッ!!」
バリバリバリ!
黄金色と青白のブレードが激突し、火花が砂漠に散った。
高速の剣戟が続き、ブレイズとソラリスはすさまじい迅さで斬り合う。
ブレードが空気を切り裂き、衝撃波が砂塵を巻き上げる。
「……ッ!」
リエンの先読みが、ソラリスの動きを極限まで研ぎ澄ませ、ブレイズの袈裟斬りを紙一重で回避!
烈火は歯を食いしばり、操縦桿を握り直す。
「ちっ、ガキのくせにやりやがる!」
烈火は高速で切り結びながら、呼吸を整える。
「ふー……ッ、動きが迅い……!」
黄色いブレードが眼前を掠め、ブレイズの装甲に浅い傷を刻んだ。
烈火の視線が、ソラリスの背中のリングへと、一瞬だけ向けられる。
あの拡散式粒子砲が発動すれば、戦況は一気に不利になる。
烈火は通信パネルへと叫んだ。
『兎歌、取り巻きを牽制し続けろ! 俺はあのリングをぶっ壊す!』
『わ、わかった……!』
ソラリスのコックピットでは、リエンが無感情にブレイズの動きを追う。
セラピナの声が通信に響いた。
『リエン、遊ぶのはそこまでよ。リングを使いなさい。蛮族どもを蹴散らすの』
「……はい」
リエンは小さく頷き、起動スイッチを押した。
直後、ソラリスのリングが輝き始める。
キュオオーン……拡散式粒子砲のチャージ音が戦場に不気味な響きを加えた。
「なに……?」
烈火は本能でそれを察し、粒子ブレードを構えなおした。
そこへソラリスの突進!
ソラリスは、E粒子ブレードを横薙ぎに振るった。
鋭い斬撃が空気を切り裂き、ブレイズに迫る。
「チッ!」
ブレイズは咄嗟にバックステップで回避! 直後、右腕のバルカンを乱射する。
ドガガガガ!
粒子弾の弾幕がソラリスを襲うが、ソラリスは無感情にシールドを構え、弾丸を弾き返す。
「……!」
再びソラリスは間合いを詰め、ブレードを鋭く斬り上げた。
ギィン!
ブレイズの左手のE粒子ブレードが斬撃を迎え撃ち、火花を散らす。
激しい剣戟が続き、両機の動きは加速し、刃が交錯していく。
「コイツ、隙がねぇ。 チャージを止められねぇぞ……!」
その時だった。
激闘の中、烈火の背中に悪寒が走る。
直感が警告を発した次の瞬間、ソラリスの背中のリングが眩い光を放った。
ゴォオオオオッ!!!
無数の粒子光が、雨のように降り注ぐ。
拡散式粒子砲の飽和攻撃だ。
烈火は操縦桿を握り締め、ブレイズを全力で走らせる。
「くそっ、数が多すぎる……!」
ブレイズは砂塵を蹴り上げ、粒子光の雨を走り抜けて回避。
残りの攻撃を粒子シールドで弾き───ズドォオン!
「ぐぅ!?」
激震が機体を揺らし、装甲が軋む。
烈火は歯を食いしばった。
「なんだそれ! イノセントにそんなモン無かっただろ!」
ブレイズは衝撃によろめく。威力がすさまじいのだ!
その隙を突き、ソラリスが一気に間合いを詰める。
リエンの無感情な操縦がソラリスを加速させ───
「───そこ」
「何!?」
鋭い蹴りが、ブレイズの胴体を直撃!
「ぐあぁッ!?」
ブレイズが吹き飛び、砂漠の地面に倒れ込んだ。
ソラリスは瞬時に追撃。
ブレイズに馬乗りになり、逆手に持った粒子ブレードを高々と掲げる。
しかも、その切っ先は、ブレイズのコックピットに向けられているのだ!
「…………」
リエンの無言の瞳が、ソラリスの視界越しに烈火を捉える。
烈火は思わず目を見開いた。
「ウソだろ!?」
咄嗟にブレイズは粒子ブレードを構え、振り下ろしを弾く。
ギャリリリ───!!
火花が散り、鍔迫り合う2機。
ブレイズは即座に、肩の機銃を回転させた。
ドドドドド!
重金属弾がソラリスを襲うが、ソラリスはヌルリと身を翻し、軽やかに離脱!
砂塵が舞い散る中、両機は間合いを取り、再び対峙した。
兎歌の心配そうな声が、通信に響く。
『烈火、大丈夫!? 怪我してない!?』
『心配すんな。この程度でやられる俺じゃねぇよ』
烈火は呼吸を整え、口元に苦い笑みを浮かべる。
だが、烈火の脳裏には、過去の光景が鮮やかに蘇っていた。
かつて、烈火がイノセント・オリジンに乗っていた頃。
東武連邦の追跡部隊との戦い。
あの時、烈火は同じように敵機に馬乗りになり、逆手のナイフで敵機のコックピットを貫いたのだ。
ソラリスの動き、その戦術───まるで、烈火自身の戦い方を映し出す鏡のようだ。
烈火は拳を握り締めた。胸の奥で炎がくすぶる。
「なんで、その動きが……できるんだよ」
烈火は知らない。
リエンは、イノセント・オリジンの記憶へとアクセスし、その力を使いこなしていることを。
それは、類稀なるネクスター能力の賜物だった。
「……」
ソラリスのコックピットでは、リエンの無感情な瞳が、ブレイズを捉える。
と、セラピナの冷笑が通信に響いた。
『ふふ、苦戦してるわねぇ。やっぱり、お仕置きが必要かしら?』
「───ッ!!」
リエンは怯えたように震え、頷いた。
直後、ソラリスのリングが再び輝き始める。
拡散式粒子砲のチャージ音が戦場に不気味な響きを加えていた。
「コイツ……強ぇな」
烈火はソラリスと対峙しながら、兎歌の気配を背中に感じていた。
同時に、その視線は、ソラリスのリングに固定される。
((あの拡散式粒子砲───火力が高ぇな。もう一発は撃たせたくねぇ))
烈火は低く唸る。
「ガキだろうがなんだろうが……ここで終わらせてやる!」
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烈火の位置から少し離れ、視点は兎歌へ。
兎歌はリベルタのコックピットで、桜色の瞳を燃やしながら操縦桿を握った。
六対一の圧倒的不利な状況でも、その決意は揺らがない。
プラズマリアクターの鼓動が機体を駆け巡り、白い巨体は咆哮を上げた。
「これでも食らえ!!」
ドドドドドッドドッ!!
リベルタはE粒子キャノンを拡散で発射。
青白い光の雨がファランクスを襲う。
ズドォオン! 数発の砲撃がシールドに直撃!
だが、ファランクスは非人間的な連携で互いを守り、ダメージを最小限に抑える。
「拡散じゃ……効かない!?」
と、1機が粒子砲を発射! リベルタは粒子防壁を展開、かろうじて直撃を防いだ。
恐ろしく正確な砲撃。
しかも、リベルタの動きを読み、回避先へと撃ってきている!
ドゥン!
防ぎきれない衝撃波がリベルタを揺らし、兎歌は小さく息を飲む。
「うぅ、強いよぉ……でも、負けないんだから!」




