降臨、新たなる翼
砂漠の小国家、タンドリアへと続く荒地にて。
エリシオンの輸送部隊は、ノヴァ・ドミニオンの襲来に遭っていた。
砂漠の陽光が白熱し、熱風が砂塵を巻き上げる。
そんな中、マティアス・クロイツァーの愛機『ストラウス・ザ・ホークアイ』は戦場の中心で敵を睨んでいた。
望遠センサーが『イノセント・ソラリス』の背中に輝く巨大なリングを捉え、表面に刻まれた文字がモニターに映し出される。
「ソラ……リス?」
マティアスの眉がわずかに動く。
ノヴァ・ドミニオンが鹵獲したイノセント・オリジンを改修し、ソラリスと名付けた機体。
おそらく、背中のリングは、拡散式粒子砲のチャージ装置。
プラズマリアクターを搭載したソラリスと、6機の『ファランクス』。
対してこちらは、輸送車両こそ無事だが、護衛のイノセント3機の内、2機は大破している。
加えて、ストラウスの武装もガンブレードを残し壊滅状態。マティアス自身の体力も限界が近い。
戦況は───絶望的だった。
「……」
ソラリスのコックピット内では、リエン・ニャンパが無感情な瞳で前方を凝視している。
その幼い顔に似合わぬ女らしい体型、膨らみかけの胸が、奇妙に扇情的なシルエットを描く。
高性能なアニムスキャナーによって五感がソラリスと直結し、リエンの意識は機体そのものと化していた。
と、通信から、上品だが冷酷な声が響く。
『見つけたのね。偉いわねぇ、リエン』
声の主は、『セラピナ・ノヴァ』。
それは、ノヴァ・ドミニオンの中枢の一人にして、幼いリエンに苛烈な調教を行った一人である。
セラピナは冷酷な声で告げた。
『───じゃあ、殺しなさい』
リエンの脳裏に、調教の記憶がよみがえる。
電撃、鞭打ち、いかなる国の法律でも許されぬ薬の数々───。
逆らうことなど考えられない。
リエンは無感情に答えるだけだ。
「……了解」
リエンの小さな手が操縦桿を握ると、 ソラリスの腕が降り上げられた。
合わせて6機のファランクスが一斉に荷電粒子砲を構え、その砲身をエリシオンへと向ける。
次の瞬間、青白い光が砂漠を破壊色に染め上げた。
キュオオーン───ドゥン!
青白い光の奔流が輸送車両、イノセント、ストラウスへと放たれ、戦場を爆炎が包む。
轟音が砂漠を揺らし、黒煙が視界を覆う。
ソラリスの通信パネルには、セラピナの嘲るような笑い声が響いていた。
『ふふっ、哀れなエリシオンの虫けらたち。さぁ、リエンのお砂遊びで消えなさい』
だが───
───煙が晴れた瞬間、戦場に赤い巨体が屹立していた。
『……ッ!?』
「……」
セラピナは息をのみ、リエンは無感情な瞳を向ける。
その先にいるのは、炎じみた赤を纏う機体───
───烈火・シュナイダーの愛機『ブレイズ・ザ・ビースト』!!
グォオオォオッ!
ブレイズは低く唸り、青白い輝きを放つE粒子シールドを展開していた。
輸送車両とイノセント、ストラウスは無傷でその背後に守られていた。
烈火の声がコックピットに響く。
「てめぇら……、俺の仲間を狙うたぁ、いい度胸だな!」
マティアスは視界に大きく映るブレイズを見て、わずかに息を吐いた。
「烈火……間に合ったか」
その後ろ、パイロットたちは口々に喝采を上げる。
『隊長、ブレイズが来た! これで勝てるぞ!』
『うおっ、カッケエとこ持ってきやがった!』
『でも、敵、7機もいて……! こ、これ、勝てるの!?』
一方、ソラリスのコックピットでは、リエンが無感情にブレイズを捉えていた。
と、セラピナの声が再び響く。
『へぇ、赤い機体……エリシオンのエースね。リエン、潰しなさい。時間をかけすぎると、私、機嫌が悪くなるわよ』
「了解……」
リエンは小さく頷き、意識を集中させた。
すると、ソラリスの背中のリングが輝き始める。
拡散式粒子砲にE粒子をチャージしようとしているのだ!
同時に、ファランクスたちは再び動き出す。
その姿を確認すると、烈火は操縦桿を握り、ニヤリと笑った。
「はん……ッ、来やがれ! まとめて鉄くずに変えてやる!」
闘いが始まった。
ブレイズは走り出すと同時に、両腕の粒子バルカンを乱射。青白い弾幕がファランクスを襲う!
しかし、ファランクスのシールドは硬い。粒子弾は弾かれ、火花を散らすのみだ。
その後方、マティアスはストラウスを後退させ、様子を伺う。
機体ダメージは深刻。機体のプラズマリアクターを守るためにも、これ以上の被弾は避けたい所だ。
マティアスは通信をつなげた。
『烈火、助かった』
『おう』
『さて、オリジンはおそらく改良されている。背中のリングは拡散式の粒子砲だろう』
『おう、了解!』
烈火は勢いよく答え、ブレイズを旋回させた。
その直後、一瞬前までブレイズがいた場所に粒子砲が着弾!
しかしブレイズは爆風を受け、舞うように加速していく。
「おぉおオオッ!!」
砂漠の砂が舞い散る中を、ブレイズは裂くように走った。
青白い粒子の閃光が陽炎を切り裂き、飛び交う。
「……対応する」
リエンの愛機、イノセント・ソラリスの背中のリングが輝き、砲撃態勢に入った。
同時に、周囲を囲う6機のファランクスたちは、荷電粒子砲を構える。
戦場を捉える無感情な瞳。
アニムスキャナーが少女の五感をソラリスと直結させ、微かな空気の揺れさえ感知、決して見逃さない。
その時───
「───!?」
突然、リエンの本能が上空の気配を捉えた。
『シールド展開、上方向』
リエンは即座に命令を下す。
その言葉に応じ、ファランクスたちは一斉に大型シールドを上空に向けた。
甲高い音とともに、青白い粒子シールドが展開される。
直後───
───ズドォオン!
荷電粒子砲の濁流が天から降り注ぎ、砂漠を震わせた。
激震が戦場を揺らし、砂塵が爆発的に舞う。
砲撃の余波だけで、ファランクスたちはビリビリと震え、後退!
煙が晴れると、ファランクスたちは一斉に上空へと視線を向ける。
そこには───白い鳥のようなシルエットが浮かんでいた。
兎歌・ハーニッシュの新たなる愛機『リベルタ・ザ・ターミガン』だ!
大型プラズマリアクターの鼓動が低く唸り、二門のE粒子キャノンが陽光に輝いていた。
リベルタはブレイズを守るように、その頭上に移動。
通信パネルに、鈴の音を転がすような声が響いた。
『もう……! 烈火、無茶しないでよ!』
『この程度、無茶じゃねぇって! ノヴァの連中、ぶっ潰すぞ!』
『もう、自分を大事にしてよ!』
言い合いながら、ブレイズはリパルサーリフトで滑るように突進。
フォオオオーン───
炎じみた赤いシルエットが砂塵を蹴り上げ、ファランクスへと迫る。
対するファランクスは、一斉に荷電粒子砲を放ちった。
キュオォオ───ドウ、ドウ、ドウッ!!
青白い奔流がブレイズを狙う。
だが、ブレイズの動きが迅い!
烈火と一体となったブレイズは、機体を蛇のように滑らせ、砲撃を紙一重で回避。
流れ弾がリベルタに飛ぶが、兎歌は粒子防壁を展開、青白い輝きで弾き返す。
「烈火はやらせないんだから!」
兎歌は叫んだ。
直後、リベルタの両足に装備されたレールガンが唸りを上げる!
ドウ───ッ!!
超音速の弾丸がファランクスを襲う。
牽制の砲撃だが、ファランクスは釘付けになり、盾を構えたまま動けない!
と、それを見たリエンは、ファランクスへ指示を飛ばした。
『……ファランクス各機へ伝達。敵増援への攻撃を優先して』
通信しつつ、リエンの視線はブレイズへ。
ソラリスはE粒子ライフルを構え、ブレイズを狙う。
が、ブレイズの粒子バルカンに阻まれ、咄嗟に後退。───攻撃の隙がない。
リエンの無感情な瞳に、微かな焦りが宿る。
「……ッ」
そこへ、セラピナの冷笑が通信に流れた。
『ふふ、リエン、焦らなくていいのよ。遊んであげなさい。すぐに潰れるわ』
と、ここで輸送部隊へと視点は移る。
マティアスはストラウスのコックピットにて、状況を即座に判断。
((ブレイズとリベルタの到着で戦況が一変した。ならば───烈火と兎歌に迎撃を任せ、輸送車両の安全を確保するべきだな))
マティアスは通信パネルを開き、鋭く命じた。
『輸送車両を即座に退避させろ。この場を離脱し、タンドリアへ急行する』
『了解! ただちに発進します!』
輸送車両はリアクターを唸らせ、砂塵を巻き上げながら走り出した。
ストラウスはガンブレードを構え、横目に輸送車両を見送る。
「さて……」
マティアスの視線は、戦場で火花を散らすブレイズとリベルタに一瞬だけ向けられる。
『烈火、辛くなったら言い給え。選手を交代しよう』
ブレイズのコックピットに、静かに通信が響いた。




