マティアスの戦い
『全機、車両を死守しろ。敵を仕留めてくる』
キィイイン───ッ
ストラウスのリパルサーリフトが唸り、砂塵を蹴り上げながらファランクスに突進。
ファランクス二機が荷電粒子砲を集中させ、青白い光がストラウスを襲う。
ドゴォン!
スナイパーライフルが直撃を受け、砲身が砕け散る。
直後、シールドにも砲撃が命中し、はじけ飛んだ。
だが、ストラウスは止まらない。
爆炎に紛れて滑るように走り、敵の懐に肉薄していた。
『間合いを取ったぞ───!』
ファランクス一機が腰の片手剣を抜き、振り下ろした。
粒子刃が弧を描き、ストラウスを襲う。
だが、ストラウスは咄嗟に両腰のガンブレードを抜き、X字に構える。
ガキィン!
青白い粒子刃が交錯し、火花が散った。
ガンブレードの小型E粒子ブレードが斬撃を受け止め、即座に反撃。
腕に搭載された機銃が唸りを上げる。
ガガガガガガッ!
機銃の徹甲弾がファランクスの装甲を叩き、火花を散らす。
至近距離の攻撃に一瞬怯むファランクス。
その一瞬を見逃すマティアスではない。
引き金を引くとガンブレードは粒子弾を放ち、粒子タンクを直撃。
ズドォオン!
タンクが爆発し、ファランクスは爆散!
黒煙が立ち上り、残骸が砂漠に散らばった。
「一機……撃破」
だが、残る二機が左右から迫る!
ファランクスが荷電粒子砲を構え、ストラウスを狙う。
発射の直前、マティアスは両手のガンブレードを構え、機銃を乱射。
ドドドガガガ!
粒子弾と徹甲弾がファランクスを襲い、シールドを展開する隙を与えない。
右のファランクスが怯んだ瞬間、ガンブレードを突き刺し、リアクターを貫いた。
「とどめだ」
ドゴォオン! 二機目が爆散し、砂塵が舞う。
残る一機、左のファランクスが荷電粒子砲をチャージ。
「甘いな───!」
「……!?」
だが、その瞬間、背後から黒い影が飛び出した。
ストラウスのコマンドロボだ。
ドーベルマンのような機体が、増設されたE粒子ブレードを展開。
青白い光の刃がファランクスのコックピットを正確に貫いた。
ザシュ───!
ブレードが装甲を突き破り、ファランクスは煙を上げて倒れた。
コマンドロボはブレードを消し、静かに後退。
「はあ……はあ……ッ!」
マティアスは額に汗を流しながら、肩で息をしていた。
コックピットのモニターに、倒れたファランクスの残骸が映る。彼は静かに呟く。
「コックピットを狙うのは、はあッ、好まないが……ゼエ、贅沢は、言っていられない」
若くもない身体に、接近戦の負担が重くのしかかってくる。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の鼓動がコックピットに響き、疲労が全身を蝕む。
通信越しに、仲間の声が響いてくる。
『隊長、すげぇ! 全滅だぞ!』
『隊長、生きてる!? 無事ですよね!?』
『はぁ……マジで死ぬかと思った。隊長、化け物ッスよ!』
マティアスはモニターを確認し、輸送車両の状態をチェックする。
プラズマリアクターは無事。イノセント二機は大破したが、パイロットは生存している。
マティアスは静かに通信で告げた。
『車両は無事だな? 負傷者を回収し、即座にタンドリアへ向かう。警戒を維持しろ』
『『『了解!』』』
戦場の熱気が収まり、砂漠に静寂が戻ってきた。
ストラウスの装甲には戦闘の傷が刻まれ、ガンブレードの銃身は赤熱している。
「終わったか……?」
マティアスは深く息を吐き、疲れた身体を操縦席に預ける。
ファランクスの脅威は去ったが、ノヴァ・ドミニオンの影は依然として色濃く残っていた。
ストラウスは軋む機体に鞭を打ち、輸送車両へと合流。
輸送車両の周囲では、大破した二機のイノセントが肩を支え合い、ふらつきながらも車両に積み込まれていた。
ケインが苦しげに呻く。
『くそっ、バランサーが……隊長、よくあの化け物をぶっ倒したな……』
『あれがプラズマリアクターを任されたエリート、なのね……』
ミラは少し目を潤ませた。
その隣、ガルドが周囲を警戒しながら話す。
『隊長、車両のプラズマリアクターは無事だ。早くタンドリアに───』
その瞬間、青白い光が閃いた。
彼方の砂漠から荷電粒子砲が唸りを上げ、輸送車両を直撃する軌道で飛来。
しかし、マティアスは言語化しがたい感覚で敵の攻撃を予知していた。
『全員、伏せろ!』
ガルドのイノセントから咄嗟にシールドを強奪し展開、粒子砲を辛うじて弾く。
ズドォオン!
衝撃波が砂塵を巻き上げ、車両が大きく揺れる。
ストラウスのモニターには、砂漠の彼方から現れた敵影が映る。
青と白の装甲のコマンドスーツ───かつてのイノセント・オリジン、改め『イノセント・ソラリス』。
ソラリスは背中に巨大なリングを背負い、陽光を浴びて神聖な輝きを放っていた。
その周囲には、ファランクスたちがリパルサーリフトでゆっくりと降下してくる。
その数、六機!
白い装甲が砂漠の光に映え、まるで舞い降りる天使のようだった。
だが、それは死の天使に他ならない。
マティアスはストラウスの機体ダメージを確認する。
装甲が焦げ、表面が熱で歪んでいるが、致命傷はない。
スナイパーライフルは破壊され、シールドも失ったが、ガンブレードと機銃はまだ機能する。
「だが……」
敵の数と性能は圧倒的だ。
ソラリスにファランクスが六機───計七機。
マティアスの視線が鋭さを増す。
「敵、七機……この状況で、か」
パイロットたちは驚き、目を見開いた。
『隊長、あれってオリジン!? しかも、ファランクスも六機って、こんな数、勝てねぇよ!』
『に、逃げましょう! プラズマリアクターさえ守れば───』
マティアスは静かに首を振る。
『この距離ではもう無理だ。戦うしかない』
ストラウスのセンサーがソラリスの背中のリングを捉える。
((巨大な構造……拡散式粒子砲のチャージ装置か。大幅な改造が加えられている。元のオリジンと同じとは考えない方がいいな))
マティアスは敵の動きを分析しながら、頭脳をフル回転させる。
ソラリスのパイロットは誰だ? ノヴァのエースか、それとも───
だが、考える時間はなかった。
ファランクスが一斉に動き出し、荷電粒子砲を構える。
もはや絶体絶命の状況。彼らの運命は───
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