表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

決着の時

 ドゴォン!

 ガトリングガンが吹き飛び、ゲイルの機体が一瞬よろめく。


「ちっ、反応が速い……!」


 すでに、随伴するタイタンも1機が中破し、煙を上げながら膝をついている。

 ゲイルは視線を走らせ、戦場を俯瞰した。

 敵の母艦に向かったタイタンたちは、火力に押され、近づけずにいる。


 一方、リリエルはミサイルを撃ち尽くしたコンテナを切り離し、軽量化した機体で逃げ回ることに徹していた。

 兎歌が叫びながらレバーを握る。


「ひぃー! 時間稼ぎでもいいよねー!?」

「逃げんなよ! ぶっ潰してやる!」

「意外と逃げ足の速い……ッ!」


 ドレッドのジャガノートが荒々しく追う。

 ルシアが冷静に連携し、リリエルを追い詰めるが、機体性能の差で決定打を与えられない。

 ガトリングガンと重砲がリリエルを掠めるものの、兎歌は謎の逃げ足で回避していた。


「もう少しで仕留められますが……!」


 と、その時───

 戦闘が激化する中、遠くからリアクター音!

 ブレイズとウェイバーのものだ。

 直後、閃光が横切り、タイタンの1機が爆散した。


『う、ウワァアア!!』


 脱出の間に合わなかった兵士の断末魔に、ゲイルたちは振り返った。

 見ると、砂埃を上げ、2つの影が迫る!

 烈火の声が通信に響き、ギゼラが豪快に笑う。


『お前ら、俺抜きで楽しんでんじゃねえぞ!』

『ハーハハ! よくもやってくれたねぇ!』

『遅いよ、烈火! た、タスケテ―!!』


 遠くに見える姿に、兎歌は半泣きで助けを求めた。

 赤と紫の機体が戦場に飛び込むのを見て、ゲイルが即座に判断する。


((ブラウ小隊がこの短時間で!? 機動要塞とも戦った経験のある部隊だが───手強いな))


『頃合いだな。退くぞ!』


 合流されれば勝ち目がないと悟り、シグマ帝国の部隊は撤退を開始。

 だが、兎歌の怒りが噴出した。

 2機の登場にシグマ部隊の注意が一瞬そがれた隙を突き、リリエルの桜色が動く。

 兎歌は震える手を押さえつけ、サブマシンガンを両手に構える。


「今だ、リリエル! いっけえー!」


 ドドドドドドドッドドド!!!

 二丁撃ちの弾幕が唸りを上げ、分厚い粒子弾の嵐がジャガノート2機を襲う。

 ドレッドのジャガノートは咄嗟に肩のシールドを展開し、弾幕を辛うじて防ぐ。


「ちっ、小賢しいガキだぜ!」


 だが、ルシアのジャガノートは反応が遅れる。

 突然の反撃に硬直が一瞬生じ、サブマシンガンの粒子弾が機体に次々と命中。

 装甲が軋み、火花が散る。


『くっ、間に合わな───ッ!』


 ルシアの声が途切れる刹那、弾丸がバックパックの燃料タンクに直撃!


 ズドォオン!!

 ジャガノートの軽量フレームが耐えきれず、胴体から上が吹き飛び、四肢がバラバラに飛び散った!

 爆風が荒野を揺らし、黒煙が立ち上る。

 その中、コックピットボールが落下し、地面に転がる。


『なんだとォー!?』


 ドレッドが即座に動く。

 ジャガノートが土煙を蹴散らし、ルシア機のコックピットボールを回収。


『うう……ッ』

『ルシア、無事か!? 持って帰るぞ!』


 それを見たゲイルは戦況を冷徹に分析し、通信で鋭く宣言した。


『不利だ。退くぞ、全機撤退! ヴァーミリオン、ミサイル斉射だ!』


 ドドドドォンッ!!

 上空のヴァーミリオンから、多数のミサイルが降り注ぐ。

 ゲイルは敵が強いことを念頭に入れ、脱出のためにミサイルを温存していたのだ。


『こなくそォ!!』

『くッ……飽和攻撃か!』


 爆炎が広がる。

 咄嗟にブレイズが反応、両手のバルカンと肩の機銃でミサイルを落とす。

 ストラウスはシールドを構え、リリエルは粒子をE粒子コートに集中させる。

 ウェイバーは自機に迫るミサイルを機銃で撃墜。


 だが、そのスキを突いて、ゲイルたちは撤退!

 小型のコマンドスーツたちが、放り出されたコックピットボールを拾い走っていく。

 分断、奇襲、即座の撤退、どれも的確な判断であった。


 すたこらさっさ!

 ヴァーミリオンへと引き揚げる中、シグマ部隊はちゃっかりとストラウスのコマンドロボの残骸とリリエルの捨てたコンテナを回収していた。

 ゲイルのジャガノートが最後尾で殿を務め、撤退が完了する。


~~~


「ぷはッ!」


 プロメテウスの格納庫に戻った烈火がブレイズから降り、ヘルメットを放り投げる。


「チ、逃げ足だけは速ぇな、シグマの野郎ども!」


 ギゼラがウェイバーを降り、肩を叩いて笑う。


「まぁいいさ、次は逃がさねぇよ!」


 兎歌がリリエルから這うように出てきて、涙目で叫ぶ。


「やったー! わたし、やっちゃいましたー!」


 そんな様子を、マティアスは一人静かに見つめていた。


「こちらに死人は出なかったか。良いことだ」


 そんな彼らを見下ろすように、戦いを終えた機体が静かに佇んでいた。

 ブレイズの赤い装甲には戦闘の傷が刻まれ、リリエルの桜色の機体は砂埃にまみれている。

 メカニックの菊花・メックロードはツナギの隙間から巨乳の谷間をチラつかせつつ、仲間たちに指示を出す。


「プラズマリアクターは安定モード、排熱終わった機体から診断モード起動や―」

「了解」

「うっす!」


 メカニックたちが慌ただしく動き回り、損傷の確認と修復作業に追われていた。

 烈火は床に腰を下ろし、缶コーヒーを手に呟く。


「ったく、シグマの奴ら、俺を見た瞬間逃げ出しやがって」


 兎歌が隣に座り、ほっとした表情で笑う。


「でも、烈火が来てくれて助かったよ。もうダメかと思ったんだから」

「お前だって最後の一撃、なかなかだったじゃねぇか。あのウサギで新型をぶち抜くとはな」


 兎歌が頬を膨らませ、恥ずかしそうに目を逸らす。


「そ……そんな大げさに言わないでよ。わたしだって必死だっただけなんだから」


 そこへ、ギゼラが豪快な笑い声を響かせながら近づいてくる。


「ハハッ! アンタら、仲良いねぇ! 兎歌、よくやったねぇ。せっかくの新型を潰されて、シグマの奴ら、目を丸くしてたに違いねぇ!」


 マティアスが静かに歩み寄り、冷静な声で補足する。


「あの状況での反撃は確かに有効だった。あれはおそらく、最近配備されたというジャガノートだな。一部の高名なパイロットにしか用意されていないはず」

「そうなのか?」


 烈火が尋ねると、マティアスは小さく頷く。


「そうだとも。それを撃破したということは……」

「エリシオンの強さを大きくアピールできたわけですね!」

「正解だ。兎歌。この一戦での影響は、思っているより大きい。これからは巨大国家の軍隊が押し寄せてくるだろうね」


「なんだい、次の敵かい? どいつもこいつも、戦争が大好きなんだねぇ」

「関係ねえよ。まとめて鉄くずに変えてやるさ」


 マティアスの言葉に、ギゼラは呆れ、烈火は牙を剥いて笑う。

 兎歌は、そんな烈火に寄り添うようにもたれかかる。


~~~


 プロメテウスの艦橋に、再び静けさが訪れた。戦闘の余韻が残る中、オペレーターのヨウコがモニターを凝視しつつ、疲れの滲む声で報告を続ける。


「敵艦『ヴァーミリオン』、完全にレーダー圏外へ離脱しました。索敵圏内に残存機もなし。こちらの損傷は軽微です」


 レゴンが額の汗を拭い、重いため息をつく。


「ふぅ……なんとか凌ぎきったか。だが、シグマの奴ら、次はもっと厄介な手を打ってくるかもしれんな」


 ヨウコが振り返り、少し不安げな目を向ける。


「艦長、烈火たちも戻ったし、とりあえず一息ついてもいいですよね?」

「うむ。少し早いが、休憩にしよう。だが、警戒は怠るなよ」


~~~


 一方、シグマ帝国の戦闘空母ヴァーミリオンは、暗い雲海の中を静かに進んでいた。

 艦内の医務室では、ルシア・ストライカーがベッドに横たわり、包帯を巻かれた腕をじっと見つめている。

 爆発で負った傷は軽度だったが、彼女の表情は悔しさに満ちていた。

 ドレッドが乱暴にドアを開け、大きな声で呼びかける。


「おい、ルシア、大丈夫かよ!? お前がやられちまうなんて、俺がもっと早く動いてりゃ……」


 ルシアが小さく首を振る。


「いいんです、ドレッド殿。私が油断しただけです。敵の機体性能とパイロットの腕……予想以上でした」


 そこへ、ゲイル・タイガーが静かに入室する。

 金髪が薄暗い照明に映え、冷徹な目が二人を見据えた。


「ルシア、無事で何よりだ」

「あ、ありがとう……ございます」

「ああ。さて、今回の戦闘で得たデータは貴重だ。負傷は無駄にはならん」


 ルシアがベッドから身を起こし、敬礼する。


「その、ゲイル様……申し訳ありません。私のせいで機体を失いました」


 ゲイルが手を上げ、制する。


「気にするな。お前が生きているだけで十分だ。敵の戦力を見誤ったのは俺の責任でもある」


 ドレッドが太い腕を組み、歯噛みする。


「隊長、あのエリシオンの連中、舐めてたわけじゃねぇッスけど、想像以上にヤバかったッス。あいつら、動きが速すぎるし火力も半端ねぇ」


 ゲイルが小さく頷き、データパッドを手に取る。


「……そうだな。機体性能だけでなく、連携と即応力も高い。特にあの狙撃手と、桜色の機体の反撃は予想外だった」


 ゲイルの指がパッドを叩き、回収したストラウスのコマンドロボの残骸とリリエルのコンテナの画像を表示する。


「これを見ろ。今回の偵察の戦果だ。ここで得た情報をもとに、新たな戦略を立てる。エリシオンがどれほど強くとも、シグマ帝国が屈するわけにはいかん」


 ドレッドが拳を握り、豪快に笑う。


「了解ッス、隊長! 次はあの赤い奴を俺がぶっ潰してやるぜ!」

「わ、私も……次こそはゲイル様のため、お役に立って見せます!」


 ゲイルは窓の外を見やり、低く呟く。


「頼もしいことだな、二人とも」


 そういいながら、ゲイルの脳内では戦力を分析していた。


((あれだけの出力の機体、常人では動かせまい。ヤツらは超人か? それとも、何かカラクリがあるのか……?))


 ヴァーミリオンのリアクターが唸りを上げ、新たな戦いの準備が静かに進められていた。

 その先にある戦いの行方は、まだ誰にもわからない。

よろしければ、いいねボタン、ブックマーク登録をお願いします。

励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ