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病室の一幕

 扉を隔てた病室。

 菊花の退出後、病室には重い静寂が漂っていた。

 烈火はベッドに寝転がり、兎歌は不安げにベッドに座り、ゲイルは額の血を拭いながらフォーを啜っている。

 と、扉が控えめに開いた。

 ソロソロと困惑した顔で入ってきたのは、シホ。

 シホの内気な性格が、声のトーンに滲む。


「あのー……なんか、すごい音がしたんですけど……大丈夫ですか?」


 その言葉に、烈火はベッドから身を起こし、面倒くさそうに手を振った。


「えー……っと、まぁ、気にするな。ちょっとした騒ぎだ」


 説明を放棄した烈火。

 その態度に、シホは不思議そうな顔で首を傾げた。

 眼鏡の奥の目は、烈火を心配そうに見つめている。

 シホはゆっくりと烈火のベッドに近づくと、小さな声で話しかけた。


「烈火さん、ほんとに大丈夫? 怪我とか……核の影響とか、ちゃんと検査した?」

「あぁ? こんなもんで死ぬかよ。シホ、お前も心配性だな」


 烈火はニヤリと笑うが、シホの顔は真剣だ。

 シホは烈火への片想いを胸に秘め、つい一歩近づく。

 少女の小さな手が、烈火のベッドの縁に触れた。


「でも、砂漠でそんな戦いして……私、すっごく心配だったから……」


 頬を染め、顔を近づけるシホ。

 その姿を見つめる兎歌。

 だが、兎歌はそんなものを見ても取り乱したりはしない。

 なぜなら、すでにキスもセックスも済ませ、恋人の座を得ているからだ。

 良いお嫁さんは、旦那が女の子と仲良くしていても咎めたりはしないもの。

 その程度で慌てたりせず、悠然と構えるものなのだ。


「やっぱりダメー!」


 兎歌は獣のような勢いでシホに飛びつき、烈火から引き剥がした。

 桜色の髪が揺れ、その目は嫉妬と独占欲で燃えている。

 アレコレ考えてもやっぱり、幼なじみである烈火に他の女が近づくのは、我慢ならないのだ。

 兎歌はシホを睨み、まるで野獣のように唸った。


「シホ! 烈火に近づきすぎ! ダメ、絶対ダメ!」


 シホは驚いて後ずさり、その拍子に眼鏡がずれた。


「ひっ! ご、ごめん、兎歌ちゃん! そんなつもりじゃ……!」

「そんなつもりでもダメ! 烈火はわたしの……!」


 病室に兎歌の声が響き、女同士の火花が散る。

 シホは内気な性格ゆえに反論できず、頬を赤らめて目を逸らすことしかできない。

 そんな二人を横目に、呆れたように鼻を鳴らす烈火。


「ったく、うるせぇな……」


 烈火はベッドから立ち上がり、ゲイルのベッドに近づく。

 ゲイルは何杯目かもわからぬフォーの丼を手に、無言で啜り続けている。

 烈火は気軽に声をかけた。


「なぁ、俺も一杯もらっていいか?」

「……あぁ」


 ゲイルは顎でベッド脇の箱を指した。

 そこには未開封の冷凍フォーの容器が、整然と詰まれている。

 烈火は箱から三杯を取り出し、病室の加熱器に放り込んだ。

 えもいわれぬような音が唸り、フォーの香りが病室に広がる。


「しっかし、食い過ぎじゃねーか? 10杯くらいにとどめといた方がいいだろ」


 烈火が笑いながら言うと、ゲイルは丼を置いて小さく答える。


「生きるためだ。……それに、シグマの訓練じゃ、これくらい普通だった」

「……そうなのか」


 烈火は加熱器からフォーを取り出し、一杯を兎歌に、一杯をシホ渡す。

 兎歌はシホを睨みつつ、フォーを受け取った。

 シホは気まずそうに病室の隅に立ち、烈火をチラチラ見つめている。

 そんな様子を見つつ、ゲイルは新たな丼を開け、啜り続ける。


 病室には、フォーの湯気と、複雑な人間関係の空気が漂っていた。

 烈火、兎歌、ゲイル、そしてシホ……敵と味方の境界が揺らぐ中、病室に吹き込んだ風が、漂う湯気を散らしていった。

適当なところで区切ったら短くなってしまった。 すまんな。

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