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機動要塞ロンザイ

前回までのあらすじ

 東武連邦のシェンチアンを撃破したのだ。しかし次の相手は機動要塞ロンザイだ!


 一方、東武連邦の前線部隊。

 巨大な機動要塞『ロンザイ』。

 龍か百足を思わせる鋼の巨体は、分厚い装甲に覆われ、腹部に無数の機銃を備えている。

 さらに頭部には荷電粒子砲、側面には大型リニアキャノンを備えた重武装である。


 その内部では、重々しい空気が漂っていた。

 艦橋に響くのは、緊迫した報告の声だ。


「先行部隊、全滅を確認。敵性コマンドスーツによるものと思われます」


 指揮官は小太りの男で、脂汗が額に浮かんでいる。

 彼の前に映し出されたのは、隊長機が撃破される直前に送られてきた映像。

 炎じみて赤い機体がシェンチアンを一瞬で屠る姿に、クルーたちが息を呑んだ。


「馬鹿な、3対1だぞ!?」

「何と言う性能だ……!」


 指揮官の太い指が震えながら卓を叩く。

 驚愕が広がる中、彼は瞬時に判断を下す。


「このままでは前線が崩れる。ロンザイを前進させろ。確実に叩き潰す!」


 グォゴゴゴゴ……

 要塞の駆動音が低く唸り、巨体が動き出す。

 村へと向かう鋼の影が、灰色の空の下で不気味に輝いていた。


~~~


 村の小さな広場に、粗末なテーブルが並べられる。

 烈火と兎歌は村人たちに囲まれ、湯気の立つスープや焼きたてのパンを勧められていた。

 兎歌はスープを一口飲んで目を輝かせる。

 烈火はパンをかじりながら、ぶっきらぼうに頷く。


「わあ、おいしい! こんな優しい味、久しぶりですー!」

「まあ、悪くねえな」


 村人の中年女性が笑顔で近づく。

 その周りには、褐色肌の少年や、腰の曲がった老婆が並び、食事を運んで来ていた。


「いやあ、お前さんたちがいなかったら村は潰されてたよ。どこの誰だい? 名前くらい教えておくれ」


 烈火が口を尖らせて答える。


「あー……烈火だ。こいつは兎歌。エリシオンってとこに所属してる。それ以上は面倒だから聞くな」

「えっと、悪い人たちじゃないんですよー? ただ、一応軍人なのであんまり話せなくて……」


 兎歌が慌ててフォローする。

 その言葉に、別の村人が首をかしげた。


「エリシオン? 聞いたことないねぇ。大国じゃないのかい?」


 烈火がスープを飲み干して肩をすくめる。


「大国じゃねえよ。俺らは俺らでやってるだけだ」

「わたしたち、まだまだ知名度が低いですねー……」


 村人たちは不思議そうに顔を見合わせるが、二人の素朴な態度に笑顔が広がっていった。


~~~


 そのころ、エリシオンの戦闘空母『プロメテウス』の艦橋では、レゴン艦長が渋い顔で通信モニターを見つめていた。

 相手は若い参謀で、長い銀髪を揺らし、端正な顔にどことなく不気味な笑みを浮かべている。


『合流を待たずにおっぱじめた上、地元民と接触したか……烈火のヤツ、また勝手な真似を』


 レゴンの低い声に、参謀が軽やかに返す。


『問題ないよ、艦長。想定通りだ』

『本当かね……?』

『本当だ。彼らには各地の人たちの好感度を稼ぐ表の役を担ってもらう必要がある。烈火の派手な戦いっぷりと兎歌の愛嬌があれば、村人どころか周辺一帯が味方になるはずだ』


 レゴンが眉を寄せる。


『そううまくいくか? 空白地帯とはいえ、特定国家を支持したら大国は黙っておらんだろう』


 レゴンの言葉に、ギンは肩をすくめて笑った。


『だからこそだよ。烈火たちが目立てば目立つほど、敵の注意がそっちに――』


 ブォオーン! ブォオーン!

 突然、艦橋に緊急アラートが鳴り響いた。

 オペレーターのヨウコ声が響く。


「な、何事かね!?」

「艦長! 兎歌から緊急連絡! 敵性機動要塞を確認、東武連邦の『ロンザイ』です!」


 レゴンの顔が一瞬で強張る。


「なんだと、2機のために機動要塞まで出してきたのか……!?」


~~~


 村の広場でスープをすすっていた烈火と兎歌は、遠くから響く不穏な振動に顔を上げた。

 兎歌がスプーンを落とし、慌てて立ち上がる。


「げッ……これ、機動要塞だ」


 腕の端末を起動すると、あきらかに巨大な反応が近づいてくるのが投影された。

 まちがいなくコマンドスーツよりはるかに大きい。


「烈火! 勝手に戦うから、合流前に要塞まで来ちゃったじゃーん!」


 烈火はスープの碗を置いて、ヘルメットを手に持つと立ち上がる。


「仕方ねーだろ! こうなったら、俺たちだけで倒すしかねえ!」


 兎歌が頬を膨らませて抗議する。


「もー! いつもそればっか! 烈火は血の気が多すぎるのー!」

「文句なら後で聞く! 行くぞ!」


 二人は言い争いながら、それぞれブレイズとリリエルへと駆け出し、機体に飛び乗る。 村人たちが呆然と見守る中、プラズマリアクターの咆哮が響き渡った。


「ど、どうしたんだろうねぇ……」

「また、敵が来るのかな」

「私たちにはあんな大きな武器はないからねぇ……」


 空白地帯の小さな集落にあるコマンドスーツと言えば、小型の農業用だけだ。

 無論、機動要塞を相手に使うだけ無駄であるのは間違いない。


~~~


エリシオンの戦闘空母『プロメテウス』の艦橋では、レゴン艦長が脂汗を浮かべて通信モニターに喚いていた。


『な、何!? 我々の合流は間に合わんぞ!? ど、どうするのかね、参謀ギン殿! このままじゃあの馬鹿どもが全滅してしまうではないか!』


 対するギンは、涼しげな顔で肩をすくめる。


『問題ないよ、艦長。烈火と兎歌の2機だけで勝てると判断したから送り出したんだ。彼らの実力なら、突破できるはずだ。それと───』


 ギンは一泊開けて続けた。


『人が聞いてる時に、その名前を口にするな。それは機密事項だ』


 レゴンが目を剥いて声を裏返す。


『わ、わかった……!』

『なら結構。じゃあ、後は二人に任せるといいよ』

『た、たしかに強いのは……知っておるが! しかし、敵は機動要塞だぞ!? わ、我々に何か策はないのかね!?』

『策は彼らが自分で作るよ。それより、今は自分にできることをするべきだ』

『ぐぬ……』


 レゴンは渋々頷き、オペレーターに叫ぶ。


「全艦通達、空白地帯へ急げ! 間に合わんでも行くしかないぞ!」


~~~


 視点は烈火・シュナイダーと兎歌・ハーニッシュに戻る。

 地平線の彼方から、巨大な影が迫ってきていた。

 東武連邦の機動要塞『ロンザイ』だ。

 龍か百足のようなその巨体が、砂塵を巻き上げながら進む。


「フゥー……」


 ブレイズのコックピットで、烈火はレバーを強く握り締める。

 隣のリリエルから、兎歌の不安げな声が通信で届く。


『烈火、あれ、すっごく大きいよ……本当に勝てるのー?』


 烈火は牙を剥くように笑い、荒々しく返した。


『勝てねえワケねえだろ! お前は援護に徹しろ。俺がぶっ潰してやる!』


 炎じみて赤い機体が唸りを上げる。

 キィイイイイ───!!

 ブレイズのプラズマリアクターが眩く輝き、赤い排熱が機体を包み込む。

 烈火が出力を引き上げたのだ。

 視界に映る敵影が急速に迫る。

 前方にシェンチアン六機が展開し、その背後でロンザイが巨大な口を開く。


「……ッ!」

 

 荷電粒子砲がチャージされ、空気が歪むほどのエネルギーが収束していく。

 烈火は即座にライフルを抜き、砲塔に照準を合わせた。


「間に合えぇ!」


 引き金を引くと同時に、ブレイズのE粒子ライフルが発射され、ロンザイの砲撃と空中で激突!

 ドゴォオオン!

 轟音と共に大爆発が広がり、衝撃波が荒野を抉る。


 ロンザイの艦橋では、混乱が広がる。

 オペレーターが声を張り上げる。


「荷電粒子砲が相殺されました!」


 指揮官が目を剥く。


「馬鹿な、荷電粒子砲だぞ!? 一介のパイロット如きが!」


 続けて報告が届く。


「シェンチアン、五番機と三番機がロスト! 敵機の接近を確認!」


 指揮官の脂汗が滴る中、モニターに映る赤い機体が猛進してくる。


 烈火のブレイズは爆煙の中から飛び出し、両手の粒子ブレードを展開。

 瞬時にシェンチアン二機に襲いかかった。

 ───斬ッ

 一閃で胴体を切り裂き、もう一機の頭部を貫く。

 鋼の残骸が火花を散らし、烈火は次の標的を見据える。


 だがその背後――兎歌のリリエルが危機に瀕していた。

 三機のシェンチアンに囲まれ、兎歌が悲鳴を上げる。


「きゃあああ!」


 ダラララララッ!!!

 迂闊に突っ込んできた一機に、リリエルの両手に装備されたサブマシンガンが火を吹いた!

 無数の青い光がシェンチアンを貫き、爆発四散!

 だが、残る二機は間合いを取り、リニアキャノンを構える。

 ドゥンッ。

 重い砲撃がリリエルを直撃!

 粒子コートが光を放つも、凄まじい振動が兎歌を襲う。


『うわっ、揺れるー! 助けて、烈火ー!』


 動きの遅いリリエルが標的になる中、戦場はさらに混沌へと突き進む。


~~~


 キキキキンッ───

 ブレイズの左腕がシールドに切り替わり、シェンチアンからのアサルトライフルを弾き返す。

 金属音が響き合う中、右手が粒子バルカンに変形し、鋭い弾幕がもう一機を撃ち抜く。

 シェンチアンが爆発し、残りは二機!


 だが、その瞬間、ロンザイの砲塔から無数の砲撃が降り注ぐ。


「チィ!」


 烈火は舌打ちし、シールドを展開しながら後退する。

 コックピット内で、烈火の視線が揺れる。

 通信越しに聞こえる兎歌の悲鳴が気にかかる……だが、目の前のロンザイを放置すれば村に流れ弾が飛びかねない。


『くそっ、兎歌は自分で何とかしろ! 俺はこいつを止める!』


 額に汗が滲み、烈火は歯を食いしばる。


 一方、兎歌のリリエルは四足ダッシュで戦場を駆け回───否、逃げ回っていた。

 桜色の機体が砂塵を巻き上げ、敵を少しでも村から引き離そうとする。

 兎歌の声がコックピットに響く。


『ひぃー! やめてー! こっち来ないでー!』


 だが、シェンチアンは執拗に追う。

 銃撃の隙間を縫って一機が接近し、コンバットナイフが煌めく。

 兎歌は意を決して叫ぶ。


「リ……リリエルは! 接近戦でも、意外と強いー!」


 リリエルの馬のような前足が持ち上がり───強烈なキックがシェンチアンのコックピットを直撃!

 ズガァンッ!!

 瞬間的にE粒子が放出され、鋼が歪み、敵機は炎をあげながら背中から倒れ込んだ。

 1秒後、爆発音が響き、兎歌が目を丸くする。


「や、やったー!?」


 だが、喜ぶ間もなく、残る一機がリニアキャノンを構え直し、リリエルを狙う。

 兎歌はリリエルの中で身体を強張らせた。

 リニアキャノンの砲口が彼女を捉え、回避は間に合わない。

 粒子コートがあるとはいえ、無敵ではないのだ。


「や、やだぁー!」


 悲鳴が響く瞬間、横から飛んできたコンバットナイフがリニアキャノンを貫く。

 ブレイズが撃破したシェンチアンが爆散し、破片が飛び散るその瞬間、ブレイズは空中で腰のナイフを抜き、そのまま投擲したのだ。

 シェンチアンは死角からの攻撃に対応できず、リニアキャノンの暴発でよろめいた。


「……はッ!」


 兎歌は目を瞬かせ、危機を脱した瞬間に我に返る。


「烈火! ありがとー!」


 即座にサブマシンガンを構え直し、弾幕を残る一機に叩き込む!

 ズドォオオンッ!!

 煌めく粒子砲弾がシェンチアンを蜂の巣に変え、爆発が荒野に響いた。

 兎歌が小さく息をつく。


「ふぅ、やっと終わったー……」


~~~


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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